#1 渡邊 雄太によせて
暁の光を見ていたのだと、あとから知った。
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2023/10/25(水)
NBAが、開幕した。
この夏いちばん楽しかったと鮮やかに記憶に焼き付いているのは、W杯を夢中になって追いかけた、8月も終わろうとしていたあの日々だ。
夜になれば試合が始まって、地上波で放送されて、TVerでのライブ配信もあって、試合後のインタビューもあって。
そんな光景を、当たり前のように1日おきに見ていた。沖縄で繰り広げられる日本代表の試合を、同じ日本の地でずっと見ていた。
そうやって当たり前に見ていた選手が、今、NBAにいる。プレー時間を与えられて、ブロックしてシュートも決めて、世界最高峰と言われるあのNBAの舞台で、活躍している。
すごいひとを見ていたんだなと、あとから衝撃をくらう。すごいひとを、あんなに近くで見ていたんだ。
いや、近くはないけど。沖縄行ってないし。会場にも行ってないし。
でもなんだか近かった、彼らが世界を相手に戦っていたあの日々。
大谷翔平は元々遠かったけれど、彼を知って憧れたのは、まだ学生の頃だった。大谷さんが岩手の高校3年生だった頃は自分も同じ学生で、そのあとアメリカに行くと宣言した大谷さんに、すごいなぁと憧れを強めていた。
話し合いの末に大谷さんは日ハムに入団することになって、彼の拠点は岩手から北海道に移った。またちょっと、遠くなった。
物理的な距離の話なのか?そうです。
ファイターズで日本一になったあと、大谷さんはアメリカに渡って、エンゼルスに入団した。海の向こうの、遠い地だ。
日ハムにいる間に観に行けばよかったな…… と今でもたまにおもう。
アメリカに行くか?富永啓生がネブラスカ大学に在学している、今のうちに。
エンゼルスの本拠地がドコ州なのか知らないけど。ネブラスカ州とどれほど離れているのかも知らないけど。
そもそも大谷さんが、来季もエンゼルスと契約するかさえわからない。
ただ健康でいて、腕も良くなって、大谷さんの目指す野球が来季もできればいいなとおもう。
大谷翔平はどんどん遠くなって、それでも相変わらず憧れてはいるけれど。
渡邊雄太はめちゃくちゃ遠いところにいて、でもそんなひとが、こんな近くでプレーしてくれていたのだと、今日ようやく気がついた。
群がるディフェンスをかわしてふわりと放ったボールが、柔らかな軌跡を描いてネットを揺らすさまを目にして、おもい知った。
日本代表としてプレーしていた渡邊雄太は、たぶんきっと、たくさんのことを、観客に伝えていたし見せてくれていた。言葉で、プレーで。この日本で。
あの日々は当たり前なんかじゃなくて、でも奇跡でもなくて、だけどたしかに特別でかけがえのない瞬間ばかりだった。それを目撃できていたとは、なんて有り難いことなんだろう。
未だにバスケはわからない。シュートしたな、くらいしかわからない。
でもいつか、日本代表の注目選手を聞かれたときに「やっぱり渡邊雄太でしょ」とサンキュータツオさんが即答したように、「彼のディフェンスは素晴らしいですよ」と絶賛したその言葉の意味が、少しでもわかる日が来たらいいなとおもう。
新天地で、活躍してくれたらうれしい。今も、これからも。
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大谷翔平は今シーズン、ドジャースと契約した。
地区優勝を成し遂げてプレーオフ進出を果たし、念願のワールドチャンピオンへと突き進んでいる。
彼個人では、50-50の偉業を達成した。
野球も見なければルールもあまり知らない友だちでさえそれを知っていたし、盗塁とは何か、今シーズンなぜこんなにも盗塁ができたのかをべらべらと喋りだしたワタシの話を、彼女は最後まで聞いてくれた。
ネブラスカ大学を卒業した富永啓生は、ペイサーズとエグジビット10契約を締結した。
翌日に解除されたものの、Gリーグ・マッドアンツで、NBA入りを目指す選手たちとしのぎを削ることだろう。
彼の挑戦はアメリカで、これからも続いていく。
そして渡邊雄太は今シーズン、日本でプレーすることを選択した。日本で、千葉ジェッツで。
彼はその選択の経緯を、彼自身の言葉で、文字で、声で、たくさん伝えてくれた。どうしてここまで、と驚くくらい、彼にできうる限りのまっすぐさで。
2023年の夏、日本代表として全身全霊をかけて沖縄のコートに立っていた、渡邊雄太の姿をおもい出した。おんなじだった。
千葉ジェッツは今日、開幕戦を迎える。
日本で、船橋のLaLaアリーナで、コートを駆け回る渡邊雄太の姿がきっと、そこにはあるだろう。
バスケットボールを楽しむ、渡邊雄太の姿が。
あの日、夜は明けた。
柔らかな陽射しが降り注ごうとしている今、彼の姿をこの目で観られるいつかを、心から楽しみにしている。
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