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無題



Y街ではハイヒールのミモザにラン、
ダリアのショー
P画廊にはへんてこな大きなビニール袋と
丸太の彫り物
この世にはいくつの色があるのだろう
楽しみは増えるばかり

左ポケットから皆と同じ着信音
彼女、今度手術なんだって
あの子、本当に怖がってたよ
彼はどこに行ってしまったの?
悲しみは増えるばかり

今も10年後も100年後も
今も10年前も100年前も
この瞬間も全て重なって同じ場所

明暗が重なるとそれって、どんな色? 

コーヒーを飲み過ぎて黄ばんだ歯を
真っ白にしたい
それからこの使い物にならないお飾りみたいな前歯、伸びないかな
染めて傷んだ茶髪を枝毛のない
真っ黒な美しい髪にしたい
艶のあるロングヘアなれば楊貴妃っていうあだ名がつくのかな


夢にでてきた知らない恋人の腕につつまれて
泣きながら「いなくならないで」と私は言った
恋人は「いなくならないよ」と言った
こんなのって夢じゃない?
起きて、起きて
夢の中で何度も何度も目を覚まして  
500回目くらいに目が覚めたとき
やっぱり夢
こんなに冷たい朝はない
目が覚めた時にその腕の体温が
まるっきりなくなってるんだから
心が溶けていた、打ち解けた、と思ったのに
こんなにも誰かの手を握りたいと思っているみたい

あの頃はもっと打ち解けて
常にその手を離さずにいた 
誰か、それは私の手

夢見るその子は受け止める必要のない
何処かの言葉を捨ててしまえずにいるみたい
そんなに大切に抱え込んで一体どうするの?


花火職人になって、その火薬玉にあれこれ全部を
詰め込んでしまえればいいのに
「やりたくないことをやりすぎるから、頭が悪くなるんだよ」
全部ここに詰め込んでしまえればいいのに
「みていられないよ」
鮮やかで美しい花を咲かせる火薬玉をつくるのには
少し時間がいるのかもしれない

そんなに急いで走らなくてもいい
いつでも選択できるのだから
搾取と欺瞞を羨ましがるほど
愚かにはならないように

誰かに無理することを求めたくない
もちろん自分自身にも
特に何もしたくない
ハンモックで居眠りしたい
そんなにこっちを睨まないで

札束を集める方法はなんでも良いね
札束で作った城がすべてなのだとしたら


「では、私はその全ての意見に反対です」
右手が誰よりも高く上がっている
そんなのって親ガモの後ろをついて歩く
子ガモみたいに可愛らしい生き物だねなんて
きっと言われるね

結局、朝起きれば
太陽の光は白より白く輝いていて 
あの子の手術は成功したらしい
それに、この黄ばんだ歯と傷んだ茶髪も
中々に調子がよさそうだし
お見舞いにダリアでも持っていこうか

今も10年後も100年後も
今も10年前も100年前も
この瞬間も全て重なって同じ場所
ただ今ここにある無防備に散らばった色たちは
それは何層にもなって重なり合った
わたしたちの果てしなく続く追憶と希望の色


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