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せんとうに立つ、赴く、はいる


銭湯が好きだ。大きいお風呂。
わけも分からず好きだ。

汗かくのも暑くなるのも銭湯だけは全然苦にならない。もはやカポーンって音考えた人、天才。
スーパーもスーパーじゃないのも源泉掛け流しも全部大好き。


嫌なことがあって、ムシャクシャして、でも友達やTwitterに話して発散できるものでもなくて(ムシャクシャすることは自分自身が原因のことが多い)、そういう時は、大抵1人で銭湯に行く。
ドライブも好きだから、車で、あんまり刺激しない音楽をかけて、できれば携帯は機内モード。
目処をつけた本日の場所に到着する頃には「やったったぞ、来たったぞ」みたいな気分になってるので、行ったことのない場所でも銭湯通みたいな顔をして暖簾をくぐることができる。



ここまで書いてきてなんなのだが、
しかし別に、私は100%リラックスして(ないし桃源郷にたどり着いたような気分で)銭湯に入るわけではない。

むしろそれどころか、さんむい日なのにあんまりメインのお湯が温かくなかったり、たまに常連方の謎のルールがあるし、
普段プライベートな空間として確立されている「家のお風呂」よりかは、銭湯というものは少々面倒くさい。
サウナなんか気持ち良いけど死ぬほど暑いし、水なんかめちゃくちゃ冷たいし、まず家から出ないといけないし金かかるし。体をただ休ませる意味では、家の風呂に入って飯を食って早めに寝た方がてきめんなのかもしれない。


ではなぜ銭湯に行くのか。

私は銭湯で、自分の中の 水 みたいなものを出したり入れたりかき混ぜたり、いわゆる「循環」を行っているのだ、と思う。


息ができなくて、あえぐような気分で裸になり、体重計にとどめを刺されて、血塗れ、敗北、もう駄目だもうだめだもうだめだああ湯、湯湯、シャワー浴びて髪を留めてタオル置いて1番大きなお風呂にでもゆっくり、ドボン。
その瞬間に吐き出す息に、自分の中の黒い水が乗っかっていて、でもそれは留まらずに、私の代わりに溢れ出たお湯の中で混ざり合い、暖かいものになって遠くの排水口へ流れていく。
そんな気がする。

底から湧き出る小さい泡がお尻や自分の腕を刺激して、流動するお湯が肌を包み進む。別にそんなところにいっつも意識はないけれど、体温の上昇を感じながらぼうっとほぼ夢想に近い考え事をしてるうちに、体の中の使ってなかった水と、いつの間にか新しく入ってきた水が、肌の外のお湯と同じ動きで、かき混ぜられる。
気がする。*


タオルで体を拭き化粧水を顔に染み込ませている頃には、何番に荷物を入れたかもわからない時の自分とは少し違うものになっているのだ。
そんな気がするだけなのだけれど。


最後のベットにはリラックスが待っているのだろうが、私は銭湯自体にはあんまりそれを期待していない。でも、銭湯以外に、こういうことができる場所を思い出せない。
小さな頃から母に連れられてよく来ていて、だから今でも好きなのかもしれないけど、それとは別の魅力も、銭湯にはあると思う。



私は好きなものが多い。銭湯もその1つ。
「好き」はときに何かから救ってくれたり、逆に呪いになったり、1つの役割では終わらない。
「好き」という感情はそもそも、(以前の記事にも書いたが)、そういった何かを経て、最後に辿り着くどこかの点なのだと、最近知った。
だからたくさんそういうものを作りたいし、伝えたり、人と話して知りたい。

私は人の話に興味がある。それは物語が好きであるからだ。言葉や文章がその人の目や脳を通って出てくるからだ。
感情を表す言葉はあるけれど、感情はもともと言葉の形を持っているわけではなく、私たちは感情を表すとき、各々適切であろう言葉を仕方なく選んで使っている。その道中を、感じたい。
そして同じくらい、人にそんな話をしたい。知って欲しい。私はとってもおしゃべりであるから!


自粛期間と、あとオーディションの掲載期間が始まって、いろんな時間の中で改めて自分のことを見直した。
そしてやっぱり、このnoteのような場所で、自分の物語を見てもらうことが、今1番やりたいと思い直した。

なので「好きなもの100」というものをやろうと思う。
これはもともと私が大好きな劇団の公式ホームページ内団員紹介の欄にあったもので、(今は多分新しい項目になっているのだが、)団員各々が100個好きなものを挙げて、それについての少しの説明を書いているものだった。そこには「お母さん」から「有名AV女優」「大学の時に通っていた飯屋」まで、さまざな「好き」が並べられていた。
読み物としてもなかなかの量だった千近くにもなる「好きなもの」を読み、わたしはそれに宿る人柄やユーモアに至極感動したのだった。
大切な価値観の構成要因である。

何度も1人で100個を書き連ねてニヤついていた。満を辞して、それを世に放とうと思う。
その時その時で好きなものは変わるから、今のわたしを知ってもらうには丁度いいよね。
今回はその1「銭湯」。
全部がこんなに長いわけではないと思うけど、なるべく、丁寧にやっていく。


どうか見て、そしてもし好きなものが同じなら教えてほしい。




* その時いつも、予約されて夜中に1人で回っている洗濯機を思い出す。1人でに動いている健気さと、その根元にある誰かの行動、その妙を想ってしまうのだった。

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