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フィールドワーク人生の原点

自己紹介と、これからしようとしていることをまとめたnoteを書こうと思ったが、なかなか筆が進まないので、昔のブログ記事を再録・リマスタリングすることにする。私が人類学を学ぶに至った原初的な体験の一端である。

歴史クラブ

小学校の歴史クラブメンバーだった頃。小学校高学年のとき、土曜日だったかな?月2回だけ行うクラブ活動の時間というものがあった。バレー等、スポーツ各種、茶道や生花など習い事っぽいことなど、いろいろあった。

どれも学校の先生ではない地域の人々を講師に招き、実施していた。おそらく地域と学校の交流活動のような位置づけだったのだろう。なぜか僕は歴史クラブを選び、すごく楽しかったことを思い出した。

他のクラブ活動は十数人いる大所帯なのだが、歴史クラブ員は僕1人だけだったとおもう。3人だったような気もするのだがうまく思い出せない。とりあえず、熱心な部員は僕だけだった。

顧問の先生はおばさん教員、後藤先生である。彼女は1mlという量を小学生に教えるために出してきたティースプーンを「後藤先生の小さな魔法のスプーン」と呼んでいたり、「後藤先生のおならはバラの香りよ」などと言い笑いを取っていた。小学生に人気が出そうな先生である。僕も後藤先生が好きだった。算数は結局好きにならなかったけど…

地域から招待されたのが、食料品店を営む森田さんである。彼の店は、とても暗く、営業しているのかどうかも怪しい。卸などで儲けていたのだろうか?謎だ。森田さんは夫婦ともに熱い共産党員で、今思えば、近所の人からはちょっと白い目で見られていたように思う。そう、ここは自民党王国北陸である。共産党が選挙で勝つことはありえない。森田さんは当時すでに70歳くらいのおじいさんで、すごく痩せていた。食料品店の奥の座敷には日本人形や各地のペナント、各種資料が積まれており、後藤先生と僕が座るとぎゅうぎゅう詰めだった。

森田さんの歴史クラブは凄まじく濃く、素晴らしいフィールドワークだった。毎回地域の歴史的な「場所」を訪ねる。地元の神社や、弥生時代や古墳時代の遺跡、道に建てられた慰霊碑などである。森田さんは、行く場所に関わる古文書が引用された資料を作り、配布していた。資料の解説を学校で聞いたのち、森田さんの所有する、スズキの2ドア軽自動車でフィールドへ向かう。

遺跡は田んぼの真ん中や、線路端など、田舎の中でも更に辺鄙なところにある。砂利道を進み、車がやたら揺れる。酔いそう・・・と思った頃に到着する。

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古墳といっても、今ではただの丘。しかし、登ってみると市内が一望できたりして、感動した記憶がある。森田さんは古文書や木簡を引き合いに出しながら、考古学・歴史学的にどんな豪族がこの地を治めていたのかを解説してくれた。この地域が地形的な理由から穀倉地帯だったこと、大和豪族との婚姻関係、豪族は見晴らしのいい所に墓を作った事などを解説してくれた。また弥生時代と古墳時代の集住方法の違いなども実際の地形を見ながら学んだ。大学時代に日本考古学の授業を取った際、全く同じ解説を同じように受けて大変驚いた。森田さんは大学でのフィールドワークと同等のことを小学生に行っていたのである。

歴史クラブは古墳時代にとどまらない。神社には牛の像があったのだが、そこから、菅原道真の話、その子孫を名乗った前田家の話などがつらつらと解説が行われる。ただし結論は、なぜこの神社にこの牛があるのかわからないというものであった。なぜなら、天満宮でもないし、前田氏と関わりのある神社でもないためだ。寄贈者の村人の名前はあるが「なぜ牛の像を奉納したのかはわからない」と森田さんは結論付けていた。わからないという結論でいいのか!と感銘を受けた記憶がある。大変、科学的な姿勢である。

ある日は線路沿いに建つ「慰霊碑」を探しに行った。その慰霊碑は北陸本線建設のために亡くなった方々(朝鮮の方も含む)を供養した碑で、もう朽ちかかっていた。当時なぜ北陸本線が建設されたのか、どのくらい困難な工事だったのかなど文献を参照しながら、菜の花の揺れるあぜ道で講義が行われた。

フィールドワークからもどると、森田さんの家に招待され、陰気な奥さんからお茶をいただいた。(奥さんのことは苦手だった。森田さんと違って狂信的に共産党を勧めてくるから)お茶をいただきながら聞いたことで、いまでも覚えているのは、「報道は必ず誰かの目線で書かれたものだから、真実を知りたければ、現場に行き、自分の目で見て耳で聞かなければいけない」と言っていたことだ。実際森田さんは万景峰号が来航したとき新潟まで見に行ったそうだ。きっと、その精神から歴史クラブの活動はフィールドワーク中心だったのだと思う。

いま振り返れば、小学校で一番楽しかったのはこの歴史クラブの活動だったと思う。そして、いま人類学という学問をやっている原点はここにあるような気がする。僕の身体に森田さんの言葉が残っているのかもしれない。

(人名は仮名です)


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