好きだった人。
若い頃、京都⇔広島で遠距離恋愛をしていた。
ちょうど学生から社会人になったあたりのころ。
彼はどこまでも私に優しくて、誠実だった。
だからだろうか、彼はあまり約束をしなかった。
「あなたには嘘をつきたくない。些細なことで終わりたくないから」と。
アフォな私は、そんな大げさな、などと思っていたけど。
自然な流れで互いに将来を意識し始めたけれど、
学生から社会人へと人生でも大きなターニングポイントにふたりともいて、
どんどん消耗し、疲弊していった。
会いたいときに会えない。声を聴くのもままならない。
話したいことも満足に話せない。
互いに負担になりたくないがゆえに、小さな嘘が増えた。
結局、あっさりと(でもない、自分的には)ダメになってしまった。
それでも、互いに嫌いになって別れを選んだわけではなかったから、
近況報告とかベタな口実で連絡を取り合っていた。
互いに次の恋には進めずにいた。
今思えばそうやって互いに束縛していた向きはあったかもしれない。
状況は変わらないし、変える勇気も持てなかったのに変わりたかった。
変わればまたやり直せるかも、とも思っていたんだと思う。
でも、どんな理由であれ、いったんダメになったらもとに戻れないこともわかっていた。多分同じ状況になったらきっと同じ選択をして自滅する。
そんなこんなで1年くらい経ったころ、彼が東京赴任になった。
「本当は一緒に来てほしいと言いたいけど、言えない。あなたも一緒に行くとは言えないでしょ?」と言われた。
私は卑怯な人間なので、いつも最後は相手にゆだねてしまう。
彼は私のそんな性格も十分知っていたので、切り出してくれた。
そして、改めてもう戻れないことをお互いがお互いに理解してしまった。
東京に行くタイミングで電話番号を変えようと思う、と言われたので、
新しい番号は教えなくていいよ、と言った。
結局それが最後になった。
終わりはいつもあっけない。
ほどなく夫と出会った。
私は元恋人は全員不幸であれ、と思っているけど、
彼に対しては不思議とそうは思えない。
もう会えないし、多分死ぬまで会うことはないけど、
どこかで幸せに生きてくれていたらいいな、と思う。
思い出は色あせつつも美化されるものだと知っているけど、
結局何が正解だったのかは今もよくわからないし、
遠距離恋愛を成就させた方は尊敬している。