組織開発を"イベント"で終わらせない:日常的に継続する「組織開発行動」の提案
私は現在、人と組織に関する専門性を持つ経営コンサルティングファーム株式会社MIMIGURIでリサーチャーとして働きながら、立教大学大学院経営学研究科 博士後期課程で「組織開発」の研究をしています。
先日、日本教育工学会に投稿していた論文「企業内ファシリテーターによるサーベイフィードバック型組織開発行動尺度の開発」が採録され、早期公開されました。
この研究をはじめて、論文という1つの形になるまで結構な時間がかかったので感慨深い気持ちでいるのですが…それはさておき、このnoteでは、論文の内容にも一部触れながら、論文では書き切れなかったことを補足的に書きたいと思います。
組織開発にはハレとケがある
本題に入る前に、みなさんが「組織開発」という言葉を聞いて最初に思い浮かべるイメージはどのようなものでしょうか。
チームで集まり、普段はなかなか話せないことをじっくりと対話する場、節目に全社員で集まって小グループ等に分かれて対話するワークショップの場など、非日常的な場(ハレの場)を思い浮かべる方が多いかもしれません。
一方で、1on1や毎回の定例、チームミーティングを組織開発の場になるように意識して設計や進行されている場合、そうした日常の一コマ(ケの場)を思い浮かべるかもしれません。
私は、今取り上げた例はどれも組織開発であり、組織開発には「ハレ」と「ケ」があると考えています。そして、組織開発は、このハレとケ、どちらか一方をやればいいというものではなく、両方を組み合わせることによって真価を発揮する、つまり組織開発が目指す状態(組織の健全性や効果性を発揮できる状態)になると思っています。
※本記事では「組織開発のハレとケ」について詳述はしないため、気になる方はぜひ上記のCULTIBASEの動画も合わせてご覧ください(無料でご視聴いただけます)。
見過ごされがちな「ケ」の組織開発
さて、組織開発にはハレもケも重要と書きましたが、案外見過ごされやすいのが「ケ」の組織開発です。
組織開発の研究においても、「アプリシエイティブ・インクワイアリー(通称AI)」や、しっかりとプログラムデザインされたワークショップの場を対象とした内容、大規模な組織変革時の組織開発など、いわば「ハレの組織開発」を扱った研究が多く見られます。
しかしながら、「ケ」の組織開発も侮ることはできません。組織開発は「目に見えない人間の心理や関係性」にアプローチすることを重要視する介入手法ですが、関係性の問題は放っておくとどんどん糸がもつれていくように複雑化していきます。
ハレの場で、こうした複雑に絡まった関係性の問題を扱う際に、「膿を出す」などと言われることもありますが、それが続くと心身ともに疲れます。また、たとえ膿を出し切ってその場でスッキリしたように見えても、それが後々のチームにとっての深い傷跡になることもあります。できることならば、問題が複雑化する前に対処しておくほうが健全にチームで協働しやすくなるのではないでしょうか。
そこで、「ケ」の組織開発を行っていくことが求められます。「ケ」の組織開発と一口にいっても、1on1、週次定例等を活用したチームビルディング、QCサークル、サーベイフィードバックなど、やり方もさまざまです。
その中でも、わたしが、有力な「ケ」の組織開発として提案したいのが、組織のメンバー1人1人が、日常的に継続して行う「組織開発行動」です。次のセクションでは、この「組織開発行動」について説明していきます。
組織開発行動とは何か
「組織開発行動」とは、チームや職場の健全性や効果性を高めることを目指して、組織内のメンバーが行う自律的な組織改善活動のことを指します。
また、組織開発行動の担い手を、便宜上「企業内ファシリテーター」と呼んでいます。企業内ファシリテーターは、必ずしもリーダーやマネージャーだけが行うものではなく、誰しもがなれるものだと思うので、敢えて担い手をそのように名付けました。
では、具体的にその組織開発行動がどのようなものなのか、研究してきた内容をもとに、もう少し具体的な内容を紹介していきます。
※なお、1つの論文では扱える範囲が限られていることから、私が行った研究は「サーベイ結果を用いた組織開発」に絞って行いました。しかし、明らかになった知見は、「サーベイ結果を用いた組織開発」に限らない内容だと私自身は感じています。そこでこのnoteでは、論文をベースにしつつも、サーベイの有無に左右されない「組織開発行動」としてアレンジしてご紹介します。
5つの組織開発行動
組織開発行動は、下記5つの具体的な行動に分類されます。
👉 1つ目が「相互理解の促進」。
チームメンバーに対する傾聴や、寄り添い、チームメンバー同士の理解を促すような行動です。
👉 2つ目が「的確な課題設定」。
これは、エビデンスに基づいて、的確で焦点を絞った課題設定をしようとする行動です。ファシリテーターが、自分の主観だけでチームの状態を見立てるのではなく、情報の対称性をとりながら課題設定をする必要があるということです。組織調査の結果があれば、それを元に課題設定をすることもできますが、たとえ組織調査結果がなかったとしても、多様なステークホルダーにヒアリングをすることで、多角的な視点を取り入れた「的確な課題設定」を目指すことも可能だと考えています。
👉 3つ目が「配慮ある情報伝達」。
組織内には日々さまざまな情報があふれていて、良いものもあれば悪いものもあると思います。職場やチームにおいて、ファシリテーターから現在のチームの状態(業績、組織調査結果、自チームの見立てなど)を伝えることがあると思いますが、全部の情報を一緒くたにチームメンバーへ伝えるのではなく、どの情報をどの順番でどのように伝えるか、という配慮も必要です。
👉 4つ目が「ボトムアップ型の計画策定支援」。
チームや職場では、収集したさまざまな情報、データをもとに、今後の活動計画を立てることがあると思います。4つ目は、そうした計画策定の際に行われる組織開発行動です。計画策定をファシリテーター自らが主導するというより、チームメンバーに計画を考えてもらいやすくするための工夫が含まれます。
👉 5つ目が「話し合い時のプロセスの観察」。
職場やチームのメンバーで話し合う際に、その場で話されているトピックそのものというよりは、1人1人が抱えている葛藤などの気持ち、場の熱量等、目に見えにくいものを観察することが必要です。
以上、5つの組織開発行動のご紹介でした。みなさんの職場やチームにおいて、どのくらい当てはまる行動がありましたか?
ご自身のチームや職場での活動と照らし合わせて振り返りに活用いただいたり、部分的にでも活用いただけると嬉しいです。
組織開発を"イベント"で終わらせないために
さて、ここまで「ケ」の組織開発の重要性や、「ケ」の組織開発の一環としての組織開発行動を提案し、紹介してきました。
この研究の根底にある個人的な想いは、「組織開発は単発で終わるものではない。継続的に行ってこそ意味がある」ということと、繰り返しになりますが、「組織開発はハレとケを組み合わせることで真価を発揮する」ということです。
組織開発行動は一見インパクトは薄く見えるかもしれませんが、とっかかりやすく、じわじわ効果も感じられるものかと思います。組織開発を単発の "イベント" で終わらせず、しっかり効果を出していくためにも、ぜひ実践してみていただけると嬉しいです!
▼元となった論文はこちら(早期公開から本公開されたのでURLを差し替えました)
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