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【子育て2.0】 第3章(事例1)がんこなイヤイヤ娘まっちゃんの「金の箱」

3人の子どもの「金の箱」

第2章前半では、「新しい時代」は自分らしさが大切な時代なので、「金の箱」を使えば使うほどうまくいく時代だ、ということがわかりました。第2章後半では、「新しい時代」では今とは全く違ったことを求められている事や、「自分軸」が大切になることがわかりました。自分軸を育てるための一つの案として、「自分らしさを育てることとはどんなことなのか。」というイメージが具体的に湧いたならばうれしいです。

第3章では、子どもと「金の箱」の関係について、実際にあった子どもの成長ストーリーを追うことで、もう少し深く理解してみましょう。
まっちゃん、だいきくん、かんくんの3人が登場します。それぞれの事例から、これらのことを一緒に探ってみましょう。

• 彼らが、どんなものを「金の箱」に入れて生まれてきたのか。
• 「金の箱」をうまく使っていなかった時には、どんな様子だったのか。
• 「重い思考」がのしかからないように、どう工夫したのか。
• すでにある「重い思考」を、どう取り除いていったのか。
• そして、彼らが「金の箱」を使って『4つの望み』を叶え始めた時、どのような変化が起きたのか。
• 子ども時に自分の「金の箱」の使い方を知った彼らは、その後どう成長していったのか。

幼児期の事例が多いですが、「心理が形成される仕組み」が一番わかりやすいのが幼児期ですので、大きな子どもに接している方にも参考になるとうれしいです。「金の箱」を使うとなぜ「自分らしさ」が育つのか、なぜ飛躍的に成長できるのかが感覚として伝わり、「金の箱」をめぐる心の仕組みを理解する助けとなれば幸いです。

名前は変えてありますが、全て実話です。ブダペストに住んでいた頃にゼロから立ち上げた、アドラー心理学を取り入れた手作りカリキュラムの日本の幼稚園「なかよしブダペスト」で出会った私の大事な教え子です。みんな、参考にさせてくれて、どうもありがとう!

その前に、「金の箱」について要点をおさらいしたい方は、こちらをサクッと読んでから進んで下さいね。

「金の箱」について、これまでの章でわかったこと
• 子どもは、『4つの望み』と「金の箱」をもって生まれてきたということ。
• 『4つの望み』は、人とつながりをもちたい、自ら成長したい、人の役に立ちたい、困難を自分で乗り越えたい、という願いだということ。
• 「金の箱」には、その子ならではの〈性格的特徴〉〈能力〉〈人生の設計図〉〈愛情やエネルギー〉〈幸運、ご縁〉などが入っている、ということ。
• 「金の箱」の中身を使って『4つの望み』を叶えれば、 自分らしい人生を送ることができ、キラキラと心が元気な人になるということ。
• でも、「金の箱」の上に「重い思考」が乗ってしまうと、「金の箱」が使えなくなってしまうということ。
• 「金の箱」が使えないと、自分らしさを失い、本来の自分から離れた人生になり、心に元気がなくなるということ。
• 「重い思考」というのは、必ずしも辛い思いをした時にできるわけではなく、社会全体で抱えているものもあるということ。
• 今は「新しい時代へ」の変換期であり、今まで当たり前だった子育ての常識でも、今後は重くなる思考があるので、いろいろと手放すチャンスだということ。
• 「重い思考」に気付いて取り除いてあげることができれば、子どもは「金の箱」へたどり着きやすくなるので、自分らしい人生を生きる大きな助けになるのだ、ということ。


まっちゃん

当時3歳だったまっちゃんは、その日が初めて登園する日でした。
その泣き声は、門の外から聞こえていました。ギャーギャー大きい声で泣き叫び、「いやだー!こわいー!」と言って逃げていました。 お母さんが一生懸命声をかけ、何とかなだめて呼び込んでいました。まっちゃんは超がつくほどの恥ずかしがり屋。まだオムツをしていました。近づくと、怖がるように泣きながら私を避けました。
当園では入園式というものはせず、数人ずつ初登園の日を決めていました。また、異年齢クラスであり、しかもほとんどの子が日本から海外赴任で越してくる途中入園の子だったので、新しい仲間が来る日にはみんなで丁寧に歓迎していました。
そんなわけで、この日もクラスのみんなはまっちゃんの登園を楽しみにしていて、みんながまっちゃんの名前を呼んだり、近くまで迎えに行ったりしていたのですが、まっちゃんは大きな声で「いやだー!」と泣いてました。泣き声のボリュームは全く下がらず、かなりパワフルなものを感じました。
そんなまっちゃんを観察していると、彼女には障害や発達の問題は全くなく、ものすごく賢い子なのだろうということがわかりました。彼女は、ものすごくしっかりした「リーダー格」のある子なんだろうな、と思いました。

オムツを身にまとい、たくさんの人を巻き込んで、全ての人の言うことに激しく「ノー」を突きつけている、このアンバランスなボス・ベイビー。
「私はもっと、自分のことを自分で決めたいの。自分でやりたいの。でも、ちっともうまくいってないの!」と言っているように聞こえました。

なだめるお母さんの声を被せるように、まっちゃんは「いやだー!帰るー!」と叫んでいます。私はそっと近づいて、小さな声でまっちゃんに聞きました。
「お部屋に一緒に行く?それとも、帰りたいの?」
すると、まっちゃんはふくれっ面で、「帰る。」ときっぱり即答しました。
そこで、私はまた小さな声で言いました。
「そうなんだ。わかった。帰るんだね。」

すると、まっちゃんはびっくりした顔で私を見ました。
初めてまっちゃんと目が合いました。
まっちゃんは、まっすぐに私を見つめていました。

私は続けました。「明日はどうする?来る?」
すると、彼女はまたきっぱり即答で、「来ない。」と言いました。
それを聞いて私が、「そうなんだ。残念だなぁ、来ないんだね…。まっちゃんに会いたかったなぁ〜。」と言っていると、まっちゃんは、
「10時に来る。」と、悔しそうに言いました。
とっても悔しそうでした。でも、なんだかちょっぴり、嬉しそうでした。

それなので、小さな袋に『10時に来てね。』と書き、お部屋にあったどんぐりをたくさん詰めて、お土産にしてまっちゃんに渡しました。

そして次の日…
まっちゃんはひとりで来ました。お母さんとは、門のところで「お母さんはここでバイバイね。」と送り去ったとのことで、門からひとりでかなり得意げに歩いてきました。

まっちゃんが叶えたかった強い望み

この急展開は、子どもがどれだけ強いエネルギーで、「自分の人生を自分の力で歩もうとしているのか」を教えてくれます。また、「とはいえ、子どもはそれを上手に表現できない」と言うことも教えてくれます。「こわい、こわい」と大泣きする3歳児が、そんな自立心を秘めていたなんて。

登園初日に「帰る」と答えたまっちゃんの心には、こんな「重い思考」があるのがわかりました。

ー周りの大人は、私のことを思い通りに動かそうとしているの。だから私は断固として、それに反抗しなければならないの!ー

だから、彼女にとっては、クラスの子どもが「おいで、大丈夫だよ。」と誘う言葉ですら、彼女をコントロールする声に聞こえてしまっている状態だったのです。「大丈夫だよ。」と言われれば「こわい。」と言い、「おいで。」と言われれば「いやだ。」と言い、「手を洗っておやつ食べよう。」と誘われれば「おやつは食べない。」と、言われる全てに「ノー!」を突きつけることで、「コントロールしないで!私に経験させて!私を成長させて!」というメッセージを送っていたのです。

だから、まっちゃんが「帰る。」と言った時に、まっちゃんの言葉通りに本当に帰ることにしたのは、まっちゃんの「重い思考」を揺さぶることが目的でした。「この場所は、あなたをコントロールしないから安心していいよ。あなたが自分で決められることがいっぱいあるよ。あなたの成長の機会を奪わないよ。」と言うメッセージを送りたかったのです。
もちろん、「まっちゃんは本当はしっかりした子だ。」という確信があったからこそできたことであり、「帰るって言ったばっかりに、早々に帰らされたっ。」と感じることがないよう十分配慮した上での関わりで、お母様にもちゃんと説明しました。せっかく汗だくでやっと入り口まで来れたのに、もう帰ることになるなんてびっくりされたと思いますが、お母様が信じて下さったお陰で共同作業で出発することができたのです。

子どもは、自分の『4つの望み』を叶えてくれる人や場所に、強く惹かれます。「自分のことばを尊重してもらえて、私は本当に帰ることになった!自分のことばが現実になった!自分で決められるって、なんて清々しいんでしょう!」と感じる気持ちや、「この場所は、私を成長させてくれる気がする!」というわくわく感こそが、怖さや恥ずかしさを吹き飛ばし、彼女を飛躍させたのでしょう。

まっちゃんの「金の箱」の中身

まっちゃんのような子どもの「金の箱」には、ものすごい「自立心」や「物事を決める力」、「リーダーシップ」「オーガナイズ力」「芯の強さ」「粘り強さ」「洞察力」「戦略的思考」などが詰まっています。そして、「成長したい」と言う強い願望。それを叶えるための強い「エネルギー」も。

自分でどんどん成長していくことができる子なのです。自分の人生を自分で仕切りたい子なのです。だから、まっちゃんのような子にはなるべく手出し口出しせず、凛とした態度でやるべきことを示し、あとは子どもにどんどん任せる方が、よほどうまくいきます。大人が手出ししようとすると警報がなり、「コントロールされるのを防御しなければ!」と、何もかもに抵抗しなくてはいけなくなるからです。
すると、その子は全エネルギーを「反抗すること」に注いでしまい、せっかく目の前に〈成長するための経験〉があっても、見えなくなってしまうのです。
もったいないですよね!
成長したくて「イヤだイヤだ!」とももがいている間に〈成長の機会〉を逃してしまい、さらに「もっと成長したい!」と願うことになるのですから。

そんなわけで、まっちゃんのことは「まだ3歳だけど、5歳児の心をもっている」と思って接しました。まっちゃんには5歳の子と一緒に針と糸で縫う遊びができるようにしたり、ちょっと責任の重い役目などをわざと頼んだりしました。まっちゃんの「成長したい」という願いを、「金の箱」の中身を使っていい経験をして、どんどん叶えていくためです。
案の定、彼女はチャレンジを楽しみ、ものすごいスピードで成長していきました。まっちゃんは自分の時間とエネルギーを「コントロールから逃れるため」ではなく、「経験して成長すること」に使うことができたので、目覚ましい成長を遂げたのです。

ガンコなイヤイヤをやめると「自分で決める」という成長

まっちゃんのガンコなイヤイヤは、そう簡単にはなくなりませんでしたが、彼女にとって社会生活が大切なものになるにつれ、気持ちを切り替えられるようになっていきました。それには、「意地を張るくらいならさっさとやるべきことをやって、みんなで楽しんだ方がいい。」と、まっちゃん自身が自分で決めることがポイントでした。どんなことでも、自分で決めたいのです。それがまっちゃんの成長の仕方なのです。だから、人から言われれば言われるほど、反対方向へ行ってしまうまっちゃんは、「反対方向に行かないやり方に変える」ということを自分で決めさえすれば、とってもうまくいく子だったのです。

そんな風にまっちゃんを見ると、彼女が当初まだオムツをつけていた意味も理解できるでしょうか?そんなしっかりとした子がおむつをまとっているのも、端から見ると滑稽(こっけい)ですし、まっちゃんはおそらくお姉さんに見えるファッションを楽しみたいはずだったのですが…、彼女にとっては真剣勝負だったのです。
周りが「もう3歳だから、パンツにしよう。」「出なくていいからトイレに行くだけ行こう。」とあれこれ世話を焼くたびに、「私はそれには従わない、自分で決めるよ!」と、意地でオムツをつけていたパターンです。「自分のオムツは自分で決める!」が、その時のまっちゃんにとっては、唯一で、かつ「最強の意思表示」だったのでしょう。
そこでがんばる必要がなくなった時に、オムツはあっさり取れました。

性格的特徴のA面とB面

お友達が嫌がることをしたり、いばったりするトラブルは、時々ありました。まっちゃんの「金の箱」入っている「人を率いる性格」は、A面である「リーダー格」としても使えるけれど、B面である「いばったボス」としても使えるからです。まっちゃんは、ふたごのように仲良くしているお友達に、ちょくちょく意地悪をしていました。
A面とB面を、試すかのように。

この問題については、まずはまっちゃんにとって「自分を受け入れてくれるこの集団が好き、だから、この集団でうまくやっていきたい。」と思えることを大切にしました。 同時に「この集団では、意地悪することは好まれていない」という集団の価値をしっかり示していきました。まっちゃんが「ここでうまくやるには、A面で使った方がいいんだろうな。」と自分で決めることが大事だからです。

お友達とのトラブルは、本人同士よりも親をビクッとさせます。まっちゃんの親も、どうにかして意地悪をやめさせたいと、心から願っていました。「育て方が悪いから、こんな意地悪になったのか」と反省もしていました。今すぐなんとかしたいと、焦ってみえました。
けれども、こんな時こそ「安心して下さい。まっちゃんはとってもいい子です。今は、家庭でも園でも「意地悪は良くない」という価値観を示しつつ、まっちゃんがそれを自分で理解して自分で変われるよう、支えましょう。今こそまっちゃんのことを好きだよって示しましょう。」と、みんなで確認し合いました。

まっちゃん自身がA面で生きていく選択をする近道は、「社会の中で育てる」とことにあります。子どもは「人とかかわりたい」という強い願いを叶える中で、自分の「金の箱」の中身を上手に使いこなす方法を試しているのです。どの子もB面を試してみる時期があります。そして、「やっぱりA面で行こう」と自分で思えるまで、少し時間がかかるのです。
だから、子どものケンカやトラブルは、その子が所属する社会にいるみんなで、長い目で見て育てたいものです。誰もが経験中。誰もが成長中。「悪い子」なんていないのですから。

遺伝か環境か、それとも…!?

「子どもの人格を作るのは、遺伝か環境か?」というのは、よく聞かれる問いです。まだ何色にも染まっていない幼い子どもを、たくさん見てきてわかるのは、やはり「生まれもった性格的特徴」というのはあります。小さな頃からしっかりしている子もいるし、ゆるい子もいます。気性が激しい子も、おっとりした子もいます。
けれども、一番重要なのは、「持って生まれた性格的特徴を、どんな風に使っていくのか」ということです。まっちゃんが、将来「よきリーダー」になるのか、「いじめっ子のボス」になるのか。それはまっちゃん次第なのです。自分の特徴をコントロールしていくのは、本人なのです。
いくら「まっちゃん、意地悪は良くないよ」と叱っても、まっちゃんはそれですんなり直すでしょうか?今までのエピソードで知る限りでは、まっちゃんなら、正反対のことをし・か・ね・な・い!ですよね。そうなのです。周りが口を酸っぱくして「いばっちゃダメ」と言えばいうほど、それに反抗する意味を込めて、「A面A面ってうるさいなぁ。じゃぁB面で突き進んでやる!」と、ボスっぷりを強めてしまうかも知れないのです。


というわけで、

「金の箱」にものすごい「自立心」や「物事を決める力」、「リーダーシップ」「オーガナイズ力」「芯の強さ」「粘り強さ」「洞察力」「戦略的思考」などが詰まっている子どもの「成長したい」と言う強い願望は、上手に「成長」に変えてみてくださいね。もしかするとその子は、人からのコントロールをはねのけることに夢中になり過ぎて、いい刺激すらはねのけてしまい、さらに自立できなくなって人にコントロールされる立場になる、という負のスパイラルに陥っているかも知れません。もし「一生懸命かかわっているのに、なぜか逆効果になっているなぁ。」ということがあれば、一度その子の「金の箱」をのぞいてみて下さいね。

さて…、その後のまっちゃんですが、実はありがたいことに、まっちゃんが小学校6年生くらいの頃、わざわざ会いに来てくれたことがありました。
素敵な少女になったまっちゃんは、毎年クラス委員や児童会長をしている、と言っていました。やっぱり!リーダーですね。そしてバッチリA面で生きているようで、本当にうれしかったです。


(第3章後半につづく)


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