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生成AIと法律問題 -vol.6-著作権法④

こんにちは!
生成AIを使う際に生じる法律問題を、自分の頭の整理も兼ねて簡単に説明しています。
2024年4月18日に、文化庁の著作権分科会から、「AIと著作権に関する考え方について」の概要が発表されました。

AI と著作権に関する考え方について【概要】
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_02.pdf

こちらは、2024年3月15日版の「AIと著作権に関する考え方について」の簡略版です。
以下、2024年3月15日版の「AIと著作権に関する考え方について」を、「考え方」といいます。

生成AIと関連する著作権法上の論点は以下のとおりです。

1 著作者・著作権者
2 著作物性
・プロンプトの著作物性
・ 生成物の著作物性
3 著作物の利用
・学習モデル構築における著作物の利用(著作権法30条の4)
・生成物による既存の著作物の著作権侵害
4 著作者人格権

前回は、上記「3 著作物の利用―学習モデル構築における著作物の利用(著作権法30条の4)」について解説しました。
※前回の記事はこちら
https://note.com/yumipyon____/n/n22d5d79d9c2b

今回は、上記「3 著作物の利用―生成物による既存の著作物の著作権侵害」について解説していきます。

3 著作物の利用―生成物による既存の著作物の著作権侵害

(1) 前提―依拠性と類似性

他人の行為を著作権侵害行為であると主張するためには、
①自らが著作権を有すること
②相手方が著作権を侵害したこと

を主張・立証する必要があります。
そして、②については、特に複製権(21条)・翻案権(27条)の侵害の場合は、
㋐ 相手方の作品が、既存の著作物に依拠して作成されたものであること(依拠性)
㋑ 相手方の作品が、自らの著作物の表現上の本質的な特徴と同一性を有すること(類似性)

を、それぞれ主張・立証しなければなりません。

なぜこれらの要件を主張・立証しなければならないのかを簡単にご説明します。

㋐ 相手方の作品が、既存の著作物に依拠して作成されたものであること(依拠性)
「依拠」については、著作権法上規定されたものではありません。
しかし、たまたま既存の著作物と同一の著作物を創作した場合にも著作権侵害の責任を免れないとするのは理不尽です。
そのため、既存の著作物に接する機会がなく、したがってその存在・内容を知らなかったのであれば、これを知らなかったことについて過失があるか否かに拘わらず、著作権侵害の責任を免れることになります(最判昭和53.9.7〔ワンレイニーナイト・イントーキョー事件〕)。
後発の著作物の創作者が先行著作物を当然に知り得る立場にあったか、誤り(同様の誤記がある)・トラップ(例えば辞書では模倣された場合に備えてあえて編集者の名前を例文に用いるというようなトラップを仕掛けていることがある)・無意味の記載が取り込まれているか、等々の間接事実を総合的に考察して判断されることになります(中山信弘『著作権法〔第4版〕』737頁)。

㋑ 相手方の作品が、自らの著作物の表現上の本質的な特徴と同一性を有すること(類似性)
こちらも、著作権法上規定されたものではありません。
しかし、複製や翻案は(類似の範囲のどこまでが複製権の範囲で、どこからが翻案権の範囲かという問題はあるにせよ)いずれにせよ一定限度で類似性のある作品を創作することであるため、侵害の要件としてまとめて「類似性」が挙げられます。
ここにいう「類似」とは、「原著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できる」という意味です(最判平成13.6.28〔江差追分事件〕)。
ぱっと見は意味が分かりませんが、これは、「原著作物(既存の著作物)と後発の著作物との間で、創作的表現が共通していることが必要とされている」と理解します(文化庁著作権課「AIと著作権」NBL1246号)。

したがって、既存の著作物に依拠して創作された著作物であっても、思想、感情、アイデア、事実等、表現それ自体でない部分または表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するに過ぎなかったとしても、著作権侵害行為には該当しないこととなります(同判例)。
そして、表現上の本質的な特徴を直接感得できる作品を創作した場合に、当該創作者による創作的表現を付加していなければ複製となり、付加していれば翻案となります。
また、利用はしていても原作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できない程度まで改変(換骨奪胎)していれば別個の著作物となり著作権侵害とはならないと整理されます(前掲中山・744頁)。

(2) 生成AIの場面における著作物の「依拠性」と「類似性」

AI生成物による既存の著作物の著作権侵害の場面においても、同じく「依拠性」と「類似性」が問題となります。

「類似性」については、人間がAIを使わずに創作したものについて類似性が争われた既存の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できるか、という観点から判断されます(考え方5(2)イ(ア))。

「依拠性」についてはどのように考えられるのでしょうか。
生成AIの場合、その開発のために利用された著作物を、生成AIの利用者が認識していないものの、当該著作物に類似したものが生成される場合が想定されます(考え方5(2)イ(イ))。
例えばChatGPTに「「春」をテーマにした物語の冒頭部分を考えて下さい。」と指示すると、以下のような回答が返ってきます。

ChatGPTの学習済みモデルに含まれるデータに何が含まれているかなど、利用者である私は知りません。
上記と全く同じ冒頭の小説が存在して、ChatGPTがその小説の一文を学習済みモデルに組み込んでいるかもしれません。その場合、利用者がその小説の存在を知らなかったとしても、その小説に「依拠して」著作物を創作したと言えてしまうのでしょうか。

「考え方」は以下のとおり基準を整理しています。「考え方」では、例外や具体例が詳細に示してありますので、詳しく知りたい方は原文をご参照ください。

① AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
→依拠性が認められる。
(例)Image to Imageのように既存の著作物そのものを入力する場合や、既存の著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合

② AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合
→客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成AIを利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと推認され、AI利用者による著作権侵害になりうると考えられる。
依拠性が推認された場合は、当該生成AIの開発に用いられた学習データに当該著作物が含まれていないこと等を、被疑侵害者(※利用者)の側で主張・立証(反証)する必要がある。

③ AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI学習用データに当該著作物が含まれない場合
→依拠性が認められない。

考え方5(2)イ(イ)

すなわち、上述した、「「春」をテーマにした小説」(ChatGPTによると、この小説のタイトルは『春の少年』とのことなので、以下この著作物を『春の少年』といいます。)の例だと、
仮に利用者が既存著作物の存在を知らなかったとしても、ChatGPTが既存著作物を学習しており、『春の少年』が既存著作物に類似している場合は、依拠性があると推認されてしまい、利用者の方で、ChatGPTが既存著作物を学習用データに含んでいなかったことを証明しなければならないということになります(上記②の例)。

ただ、通常AI開発業者は、もともとOpenAI 、Microsoft、Metaなどが有償又は無償で公開している学習済みモデル(GPT-3、GPT-4、BERTなど)に調整を加えてサービスを開発していることが多いため、その学習済みモデルがどのデータを取り込んでいるかはわからない可能性が高いと言えます。
AI開発業者ですら難しい証明を、利用者が行うのはさらに困難であると考えます。

(3) 著作権侵害の責任主体

AI生成物が著作権を侵害する場合、その責任を負う主体としては以下の2通りが考えられます。
① 生成AIの利用者(プロンプトの入力を行った者)
② AI開発業者・サービス提供業者
この点について「考え方」は、原則①、例外②としています(「物理的な行為主体である当該AI利用者が著作権侵害行為の主体として、著作権侵害の責任を負うのが原則である。」(5(2)キ)。
そして、例外②となる場合として、以下を挙げています(5(2)キ)。

A ある特定の生成AIを用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。
B 事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する措置を取っていない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まる。
C 事業者が、生成AIの開発・提供に当たり、当該生成AIが既存の著作物の類似物を 生成することを防止する措置を取っている場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなる。
D 当該生成AIが、事業者により上記Cの手段を施されたものであるなど侵害 物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成AIにプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなる。

考え方5(2)キ

Aの場合、利用者が特定のプロンプトを入力した結果、たまたま侵害物が高頻度で生成された場合に、そのことを意図していなかったAI開発業者等を侵害主体として評価するのは酷であるため、プロンプトの内容に関わらず、高頻度で種々の侵害物が生成される場合に限って、AI開発業者等を侵害主体と考えるべきとの見解もあります(池下他「生成AIを使用して出力された生成物(アウトプット)についての著作権侵害の責任主体と差止請求の可否」(NBL No.1269 59頁))。

(4) 侵害に対する措置

一般的に、著作権侵害が認められる場合、被侵害者は以下の措置を取ることができます。
① 差止請求(著作権法112条1項/故意・過失の有無問わず可)
② 廃棄請求(同条2項/①の請求とともに行う)
③ 損害賠償請求(故意・過失が必要)
④ 不当利得返還請求(故意・過失の有無問わず可。著作物の使用料相当額の請求)
このうち、利用者に対する①は、具体的には特定のプロンプトの入力行為、侵害物の生成行為、侵害物の利用行為の差し止めを、②は、具体的には侵害物(AI生成物)の廃棄を請求することになります。
AI開発業者等に対する①は、当該AIサービスの提供の差し止めを、②は、具体的には、当該データセットから当該侵害の行為にかかる著作物等の廃棄を請求することになります。
ただし、データセットから特定の著作物のみを廃棄することは不可能とされているため、実際には学習済みモデルそのものを廃棄する必要あるのではと思います。

(5) まとめ

複製権・翻案権の侵害にあたっては、著作権侵害行為の主張立証にあたって「依拠性」「類似性」の主張立証が必要であること、
AI生成物が既存著作物の著作権を侵害しているか否かの判断においては、「類似性」はAI生成物でない場合と同様に考えられる一方で、
「依拠性」は仮に生成AIの利用者が既存著作物を知らなかったとしても、学習用データに組み込まれていれば依拠性が推認されてしまうこと、
その反証(学習用データに既存著作物が含まれていなかったことの証明)がかなり困難であること、を説明しました。
類似性、依拠性の部分は、2024年3月15日版の「考え方」においては何の更新もなかった箇所なので、今更感がすごいです。
また、著作権侵害の責任主体、侵害に対する措置としては、学習済みモデル自体を廃棄するのは、それはダメージが大きすぎるのでは?と思っております。

次回は、著作者人格権について整理していきます。
それでは今日はこの辺で🐑
めえめえ


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