仕事術、3つめの神器を求めて⑤ 〜RACIチャート
段々扱うものが小ぶりというかそれほど応用が効くものではなくなっていく傾向を感じないでもありませんが、コンサルティングの仕事、プロジェクトワークや業務設計などにおいて、知っておいて損はないだろうなというものを取り上げたいと思います。一応、前回の記事へのリンクもつけておきます。
今回のテーマは、RACIチャートです。プロジェクトマネジメントの世界ではよく知られたものだと思います。伝統的には責任分担表とか、もうちょっと組織階層を意識したものだとLRC(Liner Responsibility Chart)というものもあったようなのですが、私が直接見知った事例ではこのRACIチャートの作法に則った図表が多かったと思います。これはプロジェクトなどの(業務設計の場合は定常業務のものを記述することもありえるので、必ずしもプロジェクトだけが対象とは限りませんが)各工程に対して誰がどのような関わりを持つのかを一覧化したものです。その際、関わり方の選択肢として以下の4つから選択するためRACIチャートと呼ばれています。
Responsibe (実行責任者)
Accountabe(説明責任者)
Consulted (協業先)
Informed (報告先)
の4つです。派生系としてVerified (検証者)とか Support (支援者)とか Signes off(承認者)、あるいは明示的に除外されるという関与の否定としてのOmittedを含めた流派もある様ですが、ここではシンプルな4つの区分を題材に話を進めたいと思います。
CとIは主役ではない関わりで、やり取りが双方向であるか一方通行であるかの違いとされています。これはまあ、ある程度わかりやすい区分ですし、そこが食い違っていたからといって大きな問題にはなりにくいかもしれません。
問題は、RとAです。日本語にするとどちらも「責任」なので、日本人としてはとてもわかりにくい。一応の説明としては、Rは実際にそのタスクを行う人、Aはその完了に最終的な責任を持つ人、ということになります。あくまで相対的な説明になりますが、Rの方が当該タスクに関する活動というインプットに対する責任で、Aの方はその結果としてのアウトプットに寄った責任区分であるとされています。なんとなく「説明責任」なのだからアウトプットよりもプロセスに重心があってもおかしくないと思うのですが、最近ではこのAccountableの派生系であるAccountability アカウンタビリティを説明責任ではなく成果責任と訳すこともあるくらい、結果にフォーカスした責任の在り方と整理されている様です。
(ちょっと話は、脇にそれますが、説明に重点をおいた解釈としての説明責任とコンサルティングワークの関係については以前noteに記事を書きました)
この記事でも書いているのですが、コンサルティングの場合は、仕事の成果が「まぐれ当たり」では困るので、結果だけでの評価というのはそぐわない部分があります。再現できる成功である必要があり、それには妥当な意思決定の積み上げからなるプロセスが求められるわけです。経営者や事業そのものの立ち場からすればまぐれであっても成果が出ればそれはそれで喜ばしいわけですが、コンサルティングにおいてはそれでは済まされません。(もちろん、そうでない立ち場でも、途中で違う意思決定をしていればもっと大きな成功を手に入れられていた可能性、が問題となることはあるでしょう)
話を元に戻します。Aが説明責任と呼ばれているのは、当該工程の外に対して責任を持って説明ができる人間が、その工程の完了の責任を持つという前提があるからだと思います。
RACIチャートの何が嬉しいのか
複雑なビジネスプロセスやプロジェクトの工程の中にあって、どの仕事に誰がどのような責任を持つのか、をクリアにしておくことには、もちろん価値があります。しかし、実際に作ってみるとわかるのですが、多くの場合は当たり前のことしか書かれず、同じパターンの繰り返しがほとんどになります。中には特定のポイントで特定の人物を名指しして責任を担ってもらうことがプロジェクトの成功に大きく関わるというような局面ももちろんあると思いますが、それほど重要なことなのであればチャートの1行にしれっと埋め込むというのはあまり賢いやり方ではなさそうです。
揉めがちな責任分担についてクリアな図表を用意し、プロジェクトの中で承認しておくことが、人を動かす意味で、(あるいは後から勃発するであろうトラブルを消火する局面において)価値を持つという教科書的な効能の他にも、私は、このような手法があることを知っておく価値はあると思ってこの記事を書いています。それは、責任分担についてすでに整理された手法が存在し利用されている、という事実を知っておくことそのものの価値です。
このような手法の存在を知らない場合、責任の分担で揉めそうだという利害の対立が表面化したところから、独自の表現で調整を試みなければなりません。それが、外部で定義された用語を使って、表面化するよりも前の段階で整理しておくことに比べて困難でエネルギーを消費する活動であることは想像に難くありません。実際、RACIチャートが表立って活躍しているところというのはほぼ見たことがありません。それは、これが火がたつまえに消火するための工夫だからだとも言えると思います。
この手法についても、例えばRとAの兼務はかまわないがAは一本化されるべきであるとか、絶対ではないが推奨されているローカルルールのようなものが色々とありますが、それについてはここでは深く立ちいりません。それほどの知見が私にあるかというとそれも疑問です。ただ、この作られたチャートが派手に活躍するわけでもないが、実際には目立たないところで役立っている、というのはフレームワークや手法の使い方の一つの典型であると思うので、地味なツールですが今回はこのRACIチャートを取り上げさせてもらいました。