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【ドラマレビュー】新暴れん坊将軍

子どもの頃に毎週楽しみに見ていた暴れん坊将軍がスペシャルドラマで復活すると知って、放送されたら見ようとゆるく楽しみにしていた。西畑大吾(なにわ男子)が出るという事以外は全く事前情報なく見たのだけど、めちゃくちゃ面白かったので、暴れん坊将軍ファンも新キャストのファンもぜひこのレビューを読む前にネタバレなしでドラマを見て欲しい。
以下のレビューにはネタバレを含む。

冒頭は、いきなりクライマックスから始まる。悪事をはたらく権力者たちの前に吉宗が現れ、大立ち回りをして直接成敗するアレだ。通常放送ではいつも終盤にやるアレをいきなり冒頭に持ってきたのはなかなか大胆だな、初めて暴れん坊将軍見る人ついてこれてるのかな?と思いつつも、お決まりのやり取りにテンションは上がる。「出合え!出合え!」とか「余の顔を見忘れたか!」とか、刀を抜いてカチャッと峰に返すシーンとか、これこれ!と記憶が蘇る。成敗が終わって御庭番の二人が吉宗に平伏しているのも、厳然たる身分の差に時代劇らしさを感じて良い。
そこへ畳み掛けるように、白馬で砂浜を走るオープニングである。もう子どもの私が好きだったシーンのオンパレードで、それだけでかなりの満足感だった。新☆暴れん坊将軍の☆には笑ってしまったが。

本作は、将軍・徳川吉宗の治世となって早十余年の、享保の大飢饉に江戸の町が苦しみ吉宗の人気に陰りが見え始めた頃の話である。しかもお世継ぎの長男・家重は片手が不自由で言葉もろくに喋れず癇癪を起こしてばかりで、後継者として不安視されている。家臣の中には優秀な次男・宗武を時期将軍に担ぎ上げようとする者も現れ、吉宗の悩みは尽きない。

さて、暴れん坊将軍は将軍である吉宗が貧乏旗本の三男坊・徳田新之助と身分を偽り江戸の町に出て、そこで出くわしたトラブルから町民を助け、さらに悪事を働く権力者を暴き自ら成敗する話である。本作でも上様は新さんとして江戸の町をぶらついている訳だが、そこで商家の三男坊・徳長福太郎を名乗る嫡男・家重に出会う。しかも家重は言葉も話せず片手が不自由で剣も持てないはずだが、その男はベラベラと悪口をまくしたて、西洋の短剣を操り悪漢と戦う。
ベタだけど、これには心を掴まれた。飢饉に苦しむ江戸の町や、後継者問題など、暴れん坊将軍らしくない流れになるのかと不安になっていたところで一気に暴れん坊将軍らしい雰囲気に戻ったのが良かった。しかも息子も同じ事をしてるじゃないか!というのがすごく嬉しかったのだ。これはネタバレを知らずに見て本当に良かったと思った。

何を考えているのかわからず自分に心を開かなかった家重の違う一面を知って、吉宗はそこから息子との距離を少しずつ縮めていく。正体がバレてしまった家重は、吉宗に反発しながらも喋りやすいべらんめえ口調で自分の気持や意思を言葉にするようになる。
しかしその頃、次男の宗武は自身を将軍に担ぎ上げようとする家臣たちに取り込まれていく。始めは父や兄を立てて誠実な事を言っていた宗武が、武器を与えられ悪い家臣たちの影響を受けるようになって、ついに兄の家重に面と向かって将軍になると言い始める。
さらには徳川御三家の尾張の当主も将軍の座を狙って存在感を強め、不穏な動きをし始める。
江戸の町で起っている、若い娘たちの失踪も含めて、そんな諸々の問題を最後の最後に吉宗がいつものアレ、大立ち回りで解決するのである。冒頭にやったアレの、デラックスバージョンである。このお決まりのやつを見たくて暴れん坊将軍を見ているんだ!という期待に応える、あのセリフ、美しい殺陣、大団円である。
ちょっと拍子抜けに感じたのが、尾張の当主の最後であった。もっと見せ場があってしっかり成敗されるのかと思ったのだ。でもまあ、これは演じるGACKTの存在感が大きすぎたせいなのかもしれない。

個人的にすごく良いなと思ったのが、嫡男・家重のような無能に思われていた奴が実は有能だったパターンって、ヨシお世継ぎは将軍に相応しい男であった!次期将軍も安泰めでたしめでたし!みたいな流れになりやすい。でも本作では、家重を含め息子たちみんながどんな人間であってもそれを尊重するし、将軍になる事を押し付けないと吉宗が伝えた事だった。将軍という立場にありながら市井の人々と別け隔てなく交流し、家臣たちの意見にも耳を傾け、そんな立場を超えて誰とでもフラットに付き合える吉宗の人柄が、息子たちとの接し方にも現れているなと思った。

暴れん坊将軍ファン視点ではなくSTARTOファン視点で言うと、嫡男・家重という重要な役どころを西畑大吾が演じきっていて安心した。彼の尊敬する先輩であるニノっぽさを感じたのは意外だった。今までも色んなドラマを見てきたけど、そう感じたのは初めてだった。元々演技は上手いけど、もう少し力が抜けるとさらに良い役者になっていくのだろうと思う。
そしてほんの数秒ではあったけが、岡野すこやかの出演には驚いた。事前情報ナシで見ると、こういうのが面白い。
さらに長谷川純も見つけた瞬間かなり驚いた。ハセジュンって最近は悪人とかオタクとか変な役ばっかりだなぁとは思うけど、ただなかなか出番の多い良い役どころではあった。

エンディングはサブちゃんの曲を流して火消したちが梯子乗りをしていたりして欲しかったが、まぁこれ以上のぜいたくは言うまい。かなり満足できる、久しぶりの暴れん坊将軍であった。それもそのはず、エンドロールで知ったのだが脚本・大森美香、監督・三池崇史という力の入りようである。キャストもスタッフも、これだけの才能をそろえられる暴れん坊将軍のコンテンツパワーに、町人として「ははぁーー!」と平伏してしまったのだった。

『新☆暴れん坊将軍』 3.5

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