『英語学習』日本語と英語の根本的な違い:発音編
私はイギリスの大学で大学生に選択教科として日本語を教えています。今まで教えた学生は数百人になります。学生たちの第一言語は、英語、欧州語(スペイン、オランダ、フランス、ドイツ、イタリア等)、アジア語(中国、タイ、シンガポール、香港、韓国等)と、多岐にわたります。
イギリスに渡る前、日本の学校で英語を教えている時、「大人になって外国語を勉強してもネィティブみたいな発音にするのは難しい。だから外国語学習を始めるのは幼少期の方が良い」とテレビや教育雑誌などで聞いていました。そう思っていました。
ところが、イギリスの大学で日本語を教え、今まで教えた学生たちの日本語の上達を見て、
「いや、大人になって日本語を勉強しても、ネィティブのような発音になるのは可能だ!」と思えました。
「じゃぁ、どうして、日本人の英語は日本語アクセントが強いと言われるのだろうか?」
「どうして、日本語を学習しているイギリス人学生たちの発音に英語アクセントが消えていくのか?」
その質問を自分なりに、私自身の英語発音学習の経験や、日本語を学習している教え子たちの経験から、発音指導が大切であると思っています。
まず、学習者は「日本語の発音と英語の発音の根本的な違い」を知る必要があるのです。
日本語と英語の違い:発音編
英語の方が音素が多い
日本語の音素数は24音素:5母音(あ、い、う、え、お)16子音+3特殊音素イギリス英語の音素数は44音素:20母音+24子音
英語と日本語の音素数の違いを見ても、日本人が英語を発音する難しさがよくわかりますね。日本語の母音は5個(あ、い、う、え、お)に比べて、英語はなんと20個もあるんですよ!
子音も24個もあるけど、日本語にない音で、混乱を招きやすい音をしっかり練習すれば大丈夫です。日本人が間違いやすい音については、別の記事で書きたいと思います。
アメリカ英語発音とイギリス英語発音を両方勉強した私が、オススメするのはイギリス英語発音です。イギリス人学生の日本語発音から見てもそう思います。これも別の記事で書きたいと思います。
英語はストレス(強勢)・日本語はピッチ(高低)
単語を発音する際、日本語と英語では全く異なります。
英語は、Stress Accent言語、日本語は、Pitch Accent言語と言われます。
日本語で、「はし」を発音するとき、「は」と「し」は同じ長さで発音します。「橋」と「箸」では、「は」と「し」を発音する時に、高低をつけますね。これが、ピッチです。
単語の中で、一つの母音を中心としたひとかたまりを「音節」といい、英単語はいくつかの音節で構成されています。「ストレス(強勢)」とは、単語の特定の音節を強く読むことを指します。
例えば「beautiful [bjúːtəfl] 」は、音節に分けると「beau・ti・ful」となりますが、最初の音節「beau」にのみストレスがかかります。
英語では、ストレス(強勢)のかかる音節は大きくゆっくり発音し、それ以外の音節は弱く曖昧に発音します。ストレス(強勢)の場所を間違えると、単語の意味が変わってしまうこともあります。
英語を日本語のPitch Accentで発音してしまうと、カタカナ英語になってしまうんです。
次に、文単位で日本語と英語の発話の違いを紹介しましょう。
英語の文単位での発音:Rhythm
日本語を文単位で聞いていると、単語と単語の間は助詞(て、に、を、は)で区切って、一つの塊で発話しているのに気が付きませんか?
わ た し は/ あ し た/ ロ ン ド ン に/ い き ま す
〇 〇 〇 ゜ 〇 〇 〇 〇 ゜〇 ゜ ゜ 〇 〇 〇 ゜
それぞれの音素は、太鼓を叩くようにほぼ等しく発音し、助詞(は、に、に)と「ん」は弱く発音しませんか?「ます」の「す」は(su) ではなく、 (s)と軽く発音します。日本語は、「強弱」があまりなく平坦なリズムだといわれています。
一方、英語のリズムは、発話の「強弱」や「スピード」の差によって起こります。英語は、基本「内容語」を「強くゆっくり(強・遅)」発音し、「機能語」は「弱く速く(弱・速)」発音することが原則です。
「内容語」と「機能語」とは
「内容語」は通常、名詞、本動詞、形容詞、副詞、疑問詞、数詞などのことをいい、「機能語」とは、実質的な内容が薄く、文法上の関係を表す単語のことを言います。
例えば、
There is a dog under the table.
Which do you like, cats or dogs?
I’m reading a book which I borrowed from the library.
太字の単語が「内容語」で、それらは強く遅く発音します。
内容語は「強・遅」・機能語は「弱・速」と覚えておけばいいのですが、話者の意図や文脈などで「強・遅」の場所が変化することもあるのです。これは、英語のリズムの奥深い部分の一つです。同じ文でも、リズムを変えることで、異なる意図や感情を変えることができるんですよ!皮肉っぽくしたり(笑)
このリズムのルールを知っていると、リスニングの際に役に立ちます。話者が重要だと思っている「強・遅」の部分を聞き逃さないようにすることで、話者の言いたいことの大意は取れるんですよ。一語一語全て聞き取って、理解しようとしなくてもいいんですよ。重要でない単語は脱落したりしていますから。
「弱く速く発音されるところ」には「リエゾン」が起こりやすいのです。次に英語のリエゾンについてお話ししていきます。
英語のリエゾンとは
英語のリエゾン(音声変化)は、大きく分けて「Linking 連結」「Assimilation 同化」「Elision 脱落」の3種類あります。
英語は「意味を成す単語郡」がひとかたまりで発音されるため、単語と単語がリンキングしながら、つながって発音されるのです。
これが分かると、リスニング力も上がるし、スピーキングもネィティブのように近づきますよ。
では、英語のリンキングを簡単に紹介しますね。
英語の文単位での発音:Linking(連結)
「単語と単語の音がつながること」を連結と言います。英単語は、一つ一つ独立して発音されずに、つながって発音されるため、単語の切れ目がわかりにくくなるのです。
例えば、
I am going to go to London tomorrow.
・I am が繋がって「Im アイム」と聞こえます。
・going toが繋がって「gonna ゴナ」と聞こえます。
・go toの toは殆ど聞こえないでしょう。
・London と tomorrowはキレイに聞こえます。
⇒Im gonna go (to) London tomorrow.
この連結には以下のパターンがあります。
1.「子音」+「母音」で音がつながる場合
take_up
[téikʌ́p]
「テイク アップ → テイカップ」
hand_in
[hǽndin]
「ハンドゥ イン → ハンディン」
give_up
[gívʌ́p]
「ギブ アップ → ギバップ」
2.「母音」+「母音」で音がつながる場合
go_ahead
[góuwəhéd]
「ゴゥ アヘッド → ゴゥワヘッド」
[w](ワ)の音が入る
May_I
[méi j ái]
「メイ アイ → メイャイ」
[j](ユ)の音が入る
3.「子音」+「子音」で音がつながる場合
take_you
[téik j júː]
「テイク ユー → テイキュー」
[j](ユ)の音が入る
than_usual
[ðən j júːʒuəl]
「ザン ユージュアル → ザンニュージュアル」
[j](ユ)の音が入る
英語の文単位での発音:Assimilation(同化)
「単語と単語の音がつながって別の音に変化すること」を「同化」と言います。「同化」は「連結」と似ていますが、「同化」は、音がつながったときに「スペルとは違う音」になります。「連結」の場合も音つながった時にその音が変化しますが、スペルと違う音にはなりません。
例えば、
miss_you
[mís(ʃ)júː]
「ミス ユー → ミシュー」
「ス」が「シュ」に変化
get_you
[gét(tʃ)júː]
「ゲットゥ ユー → ゲッチュー」
「トゥ」が「チュ」に変化
Did_you [díd(dʒ)júː]
「ディドゥ ユー → ディジュー」
「ドゥ」が「ヂュ」に変化
英語の文単位での発音:Elision(脱落)
自然な会話スピードでは、発音しやすくするために、子音などを発音しないことがあります。これを「脱落」と言います。ゆっくりと発話した時には発音される音が、自然な会話スピードでは、省略され、発音されなくなるので単語が聞き取りにくくなりますよね。
例えば、
①子音 + 子音で音が落ちる場合
stop calling
[stá(p)kɔ́ːliŋ]
「スタップ コーリング → スタッコーリング」
[p]の音が発音されていない
wet towel
[wé(t)táuəl]
「ウェットゥ タゥェル → ウェッタゥェル」
[t]の音が発音されていない
good time
[gú(d)táim]
「グッドゥ タィム → グッタィム」
[d]の音が発音されていない
②文末の破裂音が落ちる場合
I did it.
[ái dídí(t)]
「アイ ディドゥ イットゥ → アイディディッ」
文末の[t]の音が発音されていない
I’ll do that.
[áil dúː ðǽ(t)]
「アイル ドゥ ザットゥ → アイル ドゥ ザッ」
文末の[t]の音が発音されていない
最後に
英語の発音はとても複雑ですね。日本語の発音ルールと異なことが多くて、日本人が英語の発音を難しく感じたり、相手の英語は速すぎて聞き取れない、といった悩みはここからくるのではないでしょうか?当然ですよ。
英語の発音、リズム、イントネーションに慣れるには、まずは、なるべく近い音を出すための口や舌の使い方を学び、単語レベルで、それらを音にしてみます。そして可能であれば、英語話者にその音を聞いてもらいフィードバックを貰えるのが一番です。
実際、日本語を学んでいる学生たちの発音指導し続けると、彼らの発音がどんどん日本語話者に近いものへと変わっていきます。
次に文章レベルでは、日本語とは異なる英語の独特のリズムやイントネーションを練習する必要があります。まずは、沢山英文を聞いて、耳をならし、慣れてきたら、実際聞いた文章を繰り返し真似てみる(シャドーイング)のも良い勉強方法だと思います。その際、日本語にはない音(例えばThの音、Vの音、Sの音など)を、どんな口や舌の動きで音にするのかを知って、シャドーイングをすることをオススメします。