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悩んだらプレスリリースを書いてみよう

先日とあるビジネス系Youtubeを見ていたら、スタートアップ企業の社長さんが「新しい事業アイディアを思いついたら、プレスリリースを書いてみることにしている」と仰っていて驚きました。「事業計画書を書いてみる」「人に話してみる」というのはよく聞きますが、「プレスリリースを書く」という方法論ははじめてだったのと同時に、私自身もとても有効な方法だと思っていることだったので、なんだか嬉しくなって、思わずその社長さんのビジネスを調べてしまいました。(IoTのなんちゃらかんちゃらで全然なんのことやらわかりませんでしたけど。)

私の場合は、事業アイディアなんて大層なものではありませんが、新しいイベント企画や新商品などのプレスリリースを書く機会がよくあり、アイディアを人から相談されると「プレスリリースだとどう書くか?」と考えることがクセになっています。そうすると、私なりにですが「それはヒットしそう!」「このあたりをもっと詰めた方がいいかも...」なんてことが見えてくる気がします。決して理論的にその方法に辿りついたわけではないのですが、たくさんプレスリリースを書いているうちにその利点に気づいたというか、慣れていったという感じでしょうか。


そもそもプレスリリースとは?

企業の広報職やメディアの仕事でもしていない限りあまり触れることはないかもしれませんが、プレスリリースとは、別名「記者発表」とも言い、企業がメディア(新聞、雑誌、報道番組など)に対して、公式に情報を発表する書式のことです。メディアに対して新商品の発売、イベントの開催はもちろんのこと、上場企業であればIR情報や重要な人事、事件事故の報告なども含まれます。

かつては、直接記者宛てにFAXやメールで送ったり、記者クラブという公式機関を通して配布することが一般的でしたが、最近はPR Timesなどのサービスを通してネット配信ができるようになり、一般の人も検索すればいろんな企業のプレスリリースが簡単に読めるようになりました。

なので、ここでいう「プレスリリースを書いてみる」というのは、正式に発表までしようということではなく、まだアイディアレベルや構想段階でも、プレスリリースという形式に則って書いてみようということです。ではなぜプレスリリースを書くのがおすすめなのか、その利点をいくつかまとめてみました。

プレスリリースのいいところ|ゼロベースの相手を想定する

プレスリリースとは、大前提として「メディアに対して情報をお知らせするツール」です。メディアとは、その時々に応じて新聞だったり雑誌だったりTVだったりしますが、いずれにしても基本的にそのメディアに所属する記者やディレクターは、我々がやろうとしていることも、なんなら我々が何者でどんな組織なのかも何も知りません。なのでプレスリリースを書くときは常に、前提知識ゼロの相手に対して自分達がやりたいことを正しく伝える、ことを意識する必要があります。

この「ゼロベースの相手を想定する」というのは意外に難しくて、特に意識せずにアイディアの説明をしようとすると、そもそも新しいお店を作る話をしているのか、新商品の話なのか、イベントの企画なのか、はたまたなにか新しい概念を提唱しているのか...みたいな、超重要な出発点のところが抜け漏れてしまっているケースはよくあります。自分では散々そのことを考えていて、自分の頭の中に明確に絵が描けているのに、むしろ描けているからこそ、肝心のところをすっ飛ばしてその先の細部の説明へと先走ってしまうのです。

例えば、

『恋に落ちるような空間』をつくりたいです。
入場料は1,500円くらいで、場所は六本木です。

と言われたら、どう感じますか?
「恋に落ちる」っていうのはなんだかキャッチーな気はするけど、そもそも空間ってのは店?施設?小説のタイトル?もしや婚活イベント??なんてところから疑問だらけです。この状態だと、入場料1,500円とか場所は六本木とかの具体的な部分も判断しようがないし、ヒットしそうか?なんてことまで評価しようがないという状況に陥ります。

その点でプレスリリースは、原則として社外の何も情報を持たない人が読み、一瞬でその概要を理解できるかどうか、が最重要なので、「プレスリリースを書く」というモードを利用することで、5W1Hを確実に伝えることが意識しやすくなります。

例えば上記のアイディアをプレスリリース風にすると

株式会社⚪︎⚪︎(代表:⚪︎⚪︎、本社所在地:⚪︎⚪︎)は、本との新たな出会いをテーマにした本屋「△△」を、⚪︎年⚪︎月⚪︎日、六本木にオープンいたします。本店舗では「恋に落ちる」をコンセプトに約3万冊の書籍を販売します。入場料1,500円をお支払いいただき、一日中本に浸る。珈琲をお供にじっくりと過ごす。3万冊の中から、意中の1冊と出会うための時間をご提供いたします。

※実在するプレスリリースを参考に作文しました

となります。(なお、知っている人はすぐにお気づきと思いますが、2018年に六本木にオープンした「文喫」を事例に使わせていただきました。これを書いている今たまたま文喫の博多店にいるというだけで、特に意図はありませんのでご了承ください。)

これを読めば、やろうとしているのは書店という実店舗で、「恋に落ちる」は本とのときめくような出会いを表現する比喩で、入場料をとる代わりに喫茶を含めたサービスが併設されて1日居座れるというスタイルなのだと理解できます。この「文喫」は実際に存在しているのでちょっとややこしいですが、もしアイディアを思いついた段階でここまで書ければ、人に伝えるための準備は整います。

ちなみに、「書き出してみる」という点では「企画書」じゃダメなの?という疑問もありそうですが、企画書は、基本的に社内の会議や上長に提出することを前提としているので、あらかじめ互いに共有している情報が多く、大事な情報が抜け落ちていても案外問題にならないのです。「日頃から新店舗のアイディアを募っている」という前提が共有されていたら、「『恋に落ちる本屋』をやりたいです」とだけ言われても、聞いている人は少なくとも「本屋をやりたいんだな」と比較的簡単に状況を思い浮かべることができてしまいます。そのこと自体は悪いことではないのですが、客観的に自分のアイディアを整理する、という目的にはやや物足りない気がします。また、企画書というのは比較的自由に書くことが許されていて(会社によってはがっちりフォーマットが決まっているのかもしれませんが)、フォーマットがしっかり決まっているプレスリリースに比べると手を動かしにくいというのもあります。ひとまず書いてみるという点では脳内会議をしているだけよりは圧倒的にいいと思いますが、とっかかりやすく第三者からの視点が担保されるという点では、プレスリリースが優秀だな、という考えです。

プレスリリースのいいところ|断言しなきゃいけない

次に、実際に書いてみると気づくと思うのですが、しっかりと人に伝える文章にするのは意外に大変なもので、「○○です。」「○○します。」と語尾まで書き切ろうとすると、手が止まってしまうというのはよくあります。つまり、自分のアイディアを曖昧な雰囲気だけで捉えていると、いざ書こうとすると言い切れないのです。
上記の例文だと、
・今お知らせしたいのは、⚪︎月⚪︎日オープンすること。
・やろうとしているのは業態で言えば「書店」であること。
・店が顧客に提供するのは「意中の1冊と出会うための時間」。
という中身が明確にまとまってからでないと、この文章は書けません。

これは、プレスリリースに限らず「書いてみる」ということの作用でもあります。とある編集者の方も、起業家の方に著書を書いてもらおうとする時に、今どきはYoutubeで喋るほうがラクだしリアルだと主張する相手に、いざ書くと曖昧だったことや辻褄が合わないところに気がつけるので、自分の思考や主張を明確にするにはオススメだ、と口説くそうです。私自身も、ライティングの仕事でインタビューの文字起こしをすることがあるのですが、喋り言葉だと「まぁなんていうか、○○みたいな、△△とでもいうような、あるじゃないですか、そういうのっていいな、と思ったりしたのが理由なのかもしれないですねぇ。」なんて言われると、話を聞いている時には、なるほどなるほど、と思っていても、いざ書き言葉にすると「○○のような△△に共感したことが理由ですね。」くらいにはまとめないといけなくて、他人の意見をここまで断定するには勇気がいるな、と思うことがあります。

プレスリリースのようなビジネス文章では、なおさら言葉を言い切る必要があって、「自分がやりたいのはなにか」「なぜやるのか」「誰のためにやるのか」など、いざ書いてみること「なんとなく○○みたいな感じ」くらいにしか考えてなかった部分に気づけるし、じゃあまず自分自身の脳内をちゃんと整理しよう、ということに気づけるのです。

プレスリリースのいいところ|そのアイディアに強みはあるか?

プレスリリースは、事前情報ゼロの記者に自分達がやりたいことをお知らせするツールだと書きましたが、では記者はプレスリリースから情報を受け取ったら次に何をするのでしょうか。一般的には、彼らはこの情報を自分が所属するメディアにニュースとして掲載するかどうか、言い換えれば、自分が担当するメディアの読者や視聴者にわざわざ届ける価値があるかどうかを考えます。メディアによって読者層やジャンルは違うので、ひとくちに価値があると言っても一様ではありませんが、メディアとしては日々届けられるプレスリリースを、ニュース性、希少性、社会性などの厳しい目で審査し、その審査をクリアしたものしか掲載しません。つまり、記者とはその分野の目利きであり、そのアイディアにニュース性があるかどうかを厳しい目線で判定する審査員でもあるのです。

翻って、プレスリリースを書く側は、この厳しい審査基準をクリアできるようなものを書く必要があります。「このニュースは記者に評価してもらえるか?掲載してもらえるか?」という視点で自問自答して、弱いと思えばアイディアを練り直すとか、もっとキャッチーな表現ができないかとか、もっと違う切り口はないか?と思考を深める必要があります。

もちろん、アイディアには必ずしも人目を引くニュース性がなければならないというわけではありません。ありふれたアイディアではあるけど、普通にビジネスとしては成立するってことはあるはずで、それはそれでひとつのハードルはクリアしているけれど、現実には、なにかしらニュースになるような「強み」がないとビジネスとしても苦しいと思います。その時に、いったん「記者の視点」という厳しく高い視座を想定することができるのも、プレスリリースを書いてみるという方法論ならではだと思います。

例えば、先ほどの「文喫」の例で言えば、もしこれが、単に「六本木に新しい本屋がオープン」というだけだったら、ビジネスとしては普通に成立するのかもしれませんが、わざわざメディアに掲載する価値があるとは判断してもらえないでしょう。「恋に落ちる」というコンセプトを設定し、「文喫」というあえて今っぽくないノスタルジックな店名にして、あえて入場料をとるという通常の書店ではあり得ないスタイルにしたことなどで、「単なる本屋ではなさそうだ」というインパクトがあるし、デジタル全盛の時代にどっぷり紙の本に浸る、書店という偶然の出会いを演出する場所を見直すという社会性も相まって、わざわざ掲載したい!と考えてくれるものになったと言えます。もしかすると、最初は「堂々と長居ができる本屋をやりたいな」という程度のアイディアだったものが、「いやいやそれじゃ弱いよね」からアイディアを練り直し、キャッチーな店名を考え、いっそ入場料をとってしまおう!という進化を遂げたのかもしれない、なんて勝手な想像もしてしまいます。(あくまでも妄想なので全然違ったらごめんなさい。)

事例はいくらでも見つけられる便利な時代

ありがたいことに、今はネットで「プレスリリース」と検索するとか、『PR TIMES』などの配信サービスのサイトを見れば、いくらでも事例が出てきます。

企業によってはホームページに自社が配信したリリース原稿を掲載したりもしています。自分がやりたい業態や、ベンチマークしている会社のリリースを探してみるもよし、大手上場企業の美しく整えられたリリースを参考にしてみることも簡単にできるので、ぜひ活用してみてください。

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