いいこにして、マストドン! (メキシコの絵本コンクール受賞作品)
マストドンとくらすのって
ほんとうに たいへんだよ。
なんでも「いやだ!」っていうマストドン。ぼく、ついに大声でしかっちゃった。そしたら、こんどはいわれたこと全部やろうとしはじめたんだ。すごくがんばってるんだけど、失敗ばかりのマストドン…。2013年、メキシコのフォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社第17回絵本コンクール「風の岸辺賞(A la Orilla del Viento)」受賞作。(ワールドライブラリーの紹介より)
あらすじ
おとこの子の家のペットは、きょだいなゾウのマストドン! けれど、マストドンに なにをいっても へんじは おなじ。「やだ!」、「やだ!」、「やだ!」。
とうとう、おとこの子は めいいっぱい おおきなこえで おこります。
「いいこにして、マストドン!」
すると、一変。
マストドンったら、ベッドの上でジャンプしちゃうし、ノートには らくがき、それに家じゅう びしょびしょにしちゃった…。マストドンが いい子にしようとすればするほど、ますますややこしくなるばかり…。マストドンといっしょにくらすのはたいへん!
でも、やっぱり だいすき、マストドン。
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スペイン語と日本語のバイリンガルになった大型絵本になります。ページをめくるごとに、子どもは「やだ!」と大声を出して楽しんでくれるのではないかな?現代の子どもたちに失われつつある「わんぱく感」を肯定するスケールの大きなお話に、素材のセンスが光るディテールの凝ったイラストが魅力です。元気にのびのび育ってほしいけれど、やさしくあってほしい。この絵本は「やさしくて元気な子」をつくる絵本なのかもしれません。
■ マストドンとは?
マンムト科に属する絶滅した長鼻類でゾウ型の哺乳類。マンムト科には中新世から更新世初期にユーラシア大陸に分布したジゴロフォドンZygolophodonと,鮮新世から現世にかけて北アメリカ大陸で繁栄したマンムトMammut(マストドンMastodon)の2属がおもなものとしてある。アメリカマストドンMammut americanusは肩の高さ2.7~3mと高く,頭は低くて長く,上顎に2~3mの長いきばをもち,体は30cmもある長い褐色の毛でおおわれ,低地の開けた針葉樹の多い森林地帯で生活していた。(平凡社、世界大百科事典 第2版より)
■ 構成の面白さ
1.主客の転倒
いつもガミガミ言うお母さんの役割を小さな男の子が、叱られる子どもの役割を巨大なゾウのマストドンが演じています。
2.ストーリーの前半部と後半の転倒
お話の真ん中で、堪忍袋の緒が切れた男の子が「いいこにして!」と怒った一言をきっかけに、前半は、マストドンが「やだ!(No!)」の一点張りの運びでしたが、後半は「いい子でいなくちゃ(Yes)」の展開へと転倒します。ところが、がんばればがんばるほど、マストドンは失敗をくりかえしてしまうのです。前半と後半の転倒がある一方、前半の「やだ!」と、後半の「失敗」がくり返されるところは、くりかえしが好きな子どもが楽しめるように工夫されています。
3.終始一貫している姿勢は、すべてを受けいれる母親の愛情
お話の最後は「やっぱり だいすき、マストドン」という言葉でしめくくっています。上記1,2の転倒とは裏腹に、終始一貫しているのは「失敗してもいいんだよ」、「わんぱくでいいんだよ」という全てを受けいれる母親の愛情なのかなと思います。マストドンの絵を担当したイッサさんは、インタビューでこう語っています。「私たちはみんな、このおはなしの“ぼく”であって、“マストドン”なのです」
■ コラージュの魅力
イッサさんによると、マストドンの素材には特にこだわったそうです。木の粉砕や厚紙で何度も試した結果、最終的には木の薄片を使用することに決めると、そこから15体のマストドンを作り、写真に撮影してもらい、絵の中にマストドンをはめ込んでいったそうです。他にも、本や雑誌の切り抜きなど、様々な素材を組み合わせています。
■ 絵本コンクール審査委員の批評
「この絵本は、絵と文が相互に作用した擦り合わせ型(インテグラル型)の作品である。これは今まで見たことのないグラフィック上の挑戦ではないだろうか?マストドンのキャラクター作りにあたっては、事前にかなり調査がなされたように思える。そのおかげで、イラストがいっそう豊かな素晴らしい仕上がりになっている。」(ベルナルド・フェルナンデス、作家兼グラフィックデザイナー)
「この絵本は子どもに共感をもたらし、いっしょになって「いやだ!」と言い返せる楽しさを味わえる作品だ。質問と答えが軽快なやりとりで行われ、ディティールにこだわったイラストの効果によって、読者の関心を一層引く問いかけになっている。」(アナ・ファン、スペイン国民イラスト賞受賞作家)
受賞時の秘話:
審査員の満場一致で受賞した作品。特に、スペインの著名なイラストレーターであるアナ・ファンは、マストドンに一目ぼれしたとのこと。アナ・ファンは、これ(魅力的なキャラクター)は、子どものための絵本である以上、テクニカル的なものよりも、はるかに重要なことだと語っています。
■ 作者について:
文:ミカエラ・チリフ(Micaela Chirif)
1973年生まれ。詩人、絵本作家。ペルーカトリック大学で哲学を学ぶ。2001年に初の詩集『帰路で(De vuelta)』を出版後、『ありふれた空(cualquier cielo(2008))』、 『枕に頭をのせて(Sobre mi almohada una cabeza(2012))』の3詩集を発表している。絵本作品では、日系人詩人ホセ・ワタナベとの共著『アントニオさんとアホウドリ(Don Antonio y el albatros(2008))』、『おやすみなさい、マルティーナ(Buenas noches, Martina(2009))』(2010年のホワイト・レイブン選定)、『ことばのかたちについて(En forma de palabras(2010))』、 『かるわざし(El contorsionista(2011))』、『あさごはん(Desayuno(2013))』(2014年のホワイト・レイブン選定)を出版している。2013年には、『いいこにして マストドン(Más te vale, mastodonte!)』が、メキシコのフォンド・デ・クルトゥーラ・エコノミカ社 (FCE) 主催の第17回絵本コンクールで、「風の岸辺賞(A la orilla del viento)」を受賞した。リマ在住。
絵:イッサ・ワタナベ
1980年生まれ。リマカトリック大学で美術を学んだ後、スペインでグラフィック・デザインおよび美術教師として働く。2013年にリマへ帰国。現在は、ぺルー現代美術館で子どもたちにイラストのワークショップを開催するなど、活躍の場を広げている。絵本作品には『えにかいたとり(Pájaro pintado(2008))』、『せんたくむすめ(La lavandera)(2014))』がある。リマ在住。