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ない袖の根拠を示す

どうして事業を見直さないといけないの
どうしてそんなにお金がないの
理由もわからないではいそうですかなんて
言えるわけないじゃない
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
前回の投稿から半年もの間休眠状態でしたが、安心してください!生きてますよ!というわけでぼちぼち再開したいと思います。
先日、とある自治体の行革担当の方から、私がかつて福岡市で担当した財政健全化の取り組みについてレクチャーしてほしいという依頼を受けました。
出張財政出前講座などでさんざん財政健全化の何たるかは語ってきましたし、あまつさえ本まで書いているのですが、よく考えると自分の業績としてきちんとまとめたことはないみたいで、当然資料もないというありさま(笑)
財政調整課長時代に財政健全化に具体的にどう取り組んだかについては組織として記録を残しており、組織に資料が保存されているのですでに卒業して数年たっている私からそれを紐解くことは控えたほうがいいのだろうと思うのですが、逆に取組の柱となる基本的な考え方やそれを実現するための方策については、実は組織的な資料としてはあまり残されておらず、むしろ私の中にしか体系的に保存されていないだろうなあ、とも思い、後者のほうについてはここに書き留めておこうと考えました。
現役の福岡市財政調整課の諸君及び当時の関係者の皆さんに差しさわりのない範囲で、当時の記憶を掘り起こしてみたいと思います。
 
私は2012年度から2015年度まで福岡市の財政調整課長を務め、2012年4月の着任時に行財政改革プランの策定に着手しました。
この時、私の着任前にすでに決まっていたことがあります。
それは、有識者による第三者機関を設置し、会議をweb上で生中継し、市民に開かれた場で行財政改革について議論することでした。
元三重県知事の北川正恭氏を座長とした「自立分権型行財政改革に関する有識者会議」は2012年5月の第1回から計9回開催され、その各回の会議資料及び議事録は今も福岡市のホームページに遺されています。
自律分権型行財政改革に関する有識者会議(全9回)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/manage/shisei/sakuteikeii.html
 
この完全公開型の議論テーブルが設置されたことで私たち事務局に課せられたのは「情報公開」でした。
福岡市の財政状況を収入支出の構造から明らかにし、その将来見通しを試算で示すことにより「お金が足りない」とはどういうことなのか、なぜ財政健全化に取り組まなければならないのか、を市民に対してわかりやすく説明することを余儀なくされたのです。
これは今から10年前の取り組みとしてはあまり例がなかったと記憶しています。
さらに10年さかのぼり私が係長だった2000年代初頭の頃を思い返してみると、当時、財政課内部では中期的な財政見通しを毎年度試算しており、毎年度の予算編成や数年に一度の財政健全化等のプラン策定時にはその試算をベースに将来の財源不足額を見込み、その不足額を補うために収入向上や支出削減方策を検討していましたが、その試算が財政課以外の職員に向かって開示されることはなく、ただ財政課は「財政が厳しい」と言い張るのみでした。
 
毎年予算要求時に設定する厳しいシーリング(予算要求上限額)も、個別の事業に対する鬼のような査定も、予算要求で対峙する現場の職員には大変不評でしたが財政課にいる我々は「ない袖は振れない」の一点張り。
しかもその「ない袖」の根拠を示すことはしないわけですから、「要るものは要る」と息巻く現場に査定への理解が浸透するはずもなく、行財政改革の名のもとに既存事業の見直しを迫られても協力してくれるはずもありません。
当時私は上司に、財政課で試算している財政見通しをせめて庁内で、職員同士で共有することができないかと提案したことがありますが、答えはNOでした。
あくまで一定の前提条件で試算した数字が所与のものとして独り歩きしては困る、財政状況が厳しいことが明らかになるとそれまでの財政運営への政治責任が問われる、お金がないとあまり言いすぎると(首長が)やりたいことに予算をつけにくくなる、などなどいろいろな理由をつけられて結局私の提案が実現することはありませんでしたが、私が失意のうちに財政課を卒業し、5年経って帰って来たときにすでに決まっていたのが「財政健全化議論の透明化」です。
もともと必要だと思っていたことがすでに方針として決まっていたのは、私にとってとても幸運だったといえます。
 
財政健全化の名のもとに既存事業のスクラップに取り組まなければならない。
財政課が大ナタを振るうだけでなく、その事業縮小、見直しを現場の職員が理解し、その影響を受ける市民が納得しなければならない。
その前提として必要だったのは、「なぜお金が足りないのか」「なぜ私のところが見直し対象になるのか」「そのお金はどこに行くのか」といった財政健全化の総論がきちんと共有されることでした。
その共通理解があって初めて、その理解を土台として何をどう見直すのかという各論に入ることができるのです。
議論の入り口で必要な、市民にわかりやすいかたちでの財政状況の情報公開が、私の財政健全化の一丁目一番地でした。
この基礎の上に、私がのちに「これが財政健全化の決定打だ!」と豪語することになる「ビルド&スクラップ」と「局区の自律経営」の二本柱が打ち立てられることになるのですが、その詳細については次回以降に稿を改めたいと思います。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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