財政健全化をジブンゴトに
やっとわかったよ
財政が厳しいっていう言葉の意味が
なぜ毎年シーリングがかかるのか
財政健全化に取り組む理由もね
#ジブリで学ぶ自治体財政
間が開いてスイマセン。さらに前回の続きです。
とある自治体の行革担当の方から、私がかつて福岡市で担当した財政健全化の取り組みについてレクチャーしてほしいという依頼を受けたという話。
財政健全化に取り組むうえでの一丁目一番地は前々回に書いた「情報開示」。
それと同じ、あるいはもっと大事な、最も大事なことが前回に書いた「財政健全化の目的」そのものへの理解と共感でした。
この二つを丁寧にしっかりと説明し理解、共感を得ながら進めていくことが大事だと私は繰り返しいたるところで述べているわけですが、そのために私が行ったのが、職員向けに4年間で80回以上行った「財政出前講座」です。
2012年4月、福岡市の財政調整課長として着任した時に、私には「行財政改革プラン」なるものを策定するという重大な任務が課せられ、今後の中長期的な財政見通しを踏まえ、健全に財政運営を行っていくために、どの施策事業を見直して経費を圧縮して収支の均衡を図っていくか、ということを全庁的に調整する大変厄介な任務を背負わされました。
施策事業の見直しには関係する部局や市民、議会の十分な理解が求められます。このため、財政当局を中心とした官房部門からの指揮命令によるのではなく、市民とじかに接する職員が、職場での日々の業務遂行のなかで、自律的に改革に取り組むことが必要不可欠でした。
そこで私はそれぞれの職場に財政調整課長が出向き、職員が自治体財政について理解するための「財政出前講座」を実施することとしたのです。
「財政出前講座」は、福岡市の財政状況などについて、市職員としての理解を深め、共通認識を持ってもらうことを目的に、2012年8月に「行財政改革プラン(2013年6月策定)」の策定の過程で始めたもので、同プラン策定の前提として行った今後10年間の歳入歳出の推計結果を中心に、福岡市が現在抱える財政運営上の課題とこれを解決するために同プランに掲げた数値目標、その実現に向けた取り組みなどを、市職員向けにわかりやすく説明する内容としていました。
厳しい財政状況のなか、限られた資源を有効に活用しながら市民満足度の高い行政運営を行うには、財政当局を中心とした官房部門からの指揮命令によるのではなく、市民とじかに接する、現場に近い各職員がそのことを意識し、自発的、積極的に、各職場での日々の業務遂行のなかで改革に取り組むことが必要不可欠であるとの認識で始めたもので、課長在任期間中の4年間で80回以上開催され、2000人以上の福岡市職員が私の講座を受講してくれました。
他の自治体ではなかなか見ることがない、財政課長自らの各職場行脚。
これが私の財政健全化の取り組みの中で、のちに述べる「局区の自律経営」と双璧を成す、私自身の最大の取り組み成果だったと思っています。
「財政出前講座」開催の最大のねらいは、これまで広く一般職員に知られていなかった福岡市の財政運営上の課題とその課題解決に向けた取り組みについて基礎的な情報や認識を共有し、市民に身近な現場が一定の責任と権限を持って自律的に組織を運営することができるようになることでした。
そうすることで、限られた財源でも市民ニーズに即応した効果的な行政サービス提供できると考えた私は、それまで財政課で施策事業の要不要や経費の多寡を判断していた仕組みを改めました。政策部門を担当する組織ごとにあらかじめ財源を配分し、各部門での施策事業への投入資源の選択と集中、優先順位づけを各部門の権限と責任で行う「枠配分予算」の仕組みを強化したのです。
各部門、組織の自律経営機能を強化すれば、これまで官房部門が担ってきた施策事業の優先順位に関する調整を、同一・類似の政策を推進する部門単位で行うこととなります。
その結果、事業の内容や効果を知り尽くしている各部門の長が、直面する課題に対して自分に与えられた資源と権限で責任を持って対処せざるをえません。
この実現に向けては、市の財政に関する現状や課題を各職員、職場において「自分ごと」としてとらえることが必要不可欠であり、そのための情報や課題認識を共有することが、「財政出前講座」に託した役割だったのです。
「財政出前講座」をやってみて実感したのは、自治体財政に関する市職員の知識、情報共有の不足です。
今までほとんど情報発信ができていなかったことを再認識させられましたが、財政課の職員と2000人を超える現場の職員とで、財政健全化に関する認識を共有できたことで、所期の目的は達成されました。
それに加えて、大きな手ごたえとして感じたのは、これまで各職場、各職員が抱いていた「財政課は敷居が高い」という意識の変化です。
財政課に対する心理的距離が縮まり、親近感を持って「対話」できる雰囲気づくりができたことは大きな成果でした。
予算編成では多様な立場の者がそれぞれの利害を一方的に主張しあうのでその調整は困難を極め、それをたったひとりの財政課長に担わせるのは無理な話。
このため庁内での「対話」が必要だと思い至ったわけですが、実際の予算編成作業が始まってしまえばすでにそこは議論の戦場です。
しかし、少なくとも事前の情報共有によってその戦場に持ち込まれる案件の数をあらかじめ減らすこと、あるいは持ち込まれる議論の質を高めることは可能です。
何にお金がかかっているのか。
どうして既存の予算を削らなければならないのか。
なぜ新規の予算獲得が難しいのか。
自分たちの自治体が置かれた財政状況を正しく理解することで、個々の施策事業の予算を立案する前の地ならしが可能になります。
「財政出前講座」はまさにこれを狙ったものでした。
「財政出前講座」は私が想定しなかった役割も果たしてくれました。
それはワークショップなどで参加者の緊張を解きほぐして場を和ませ、これから行われるワークそのものへの期待感を膨らませる「アイスブレイク」。
「財政出前講座」が福岡市役所のなかで「対話」を進めていくうえでのアイスブレイクの役割を果たしたのです。
私は「財政出前講座」を、職員が財政課から嫌なことを押しつけられる場ではなく、財政のことを「自分ごと」として考える場にしたいというこだわりがありました。
そこで財政課主催の説明会ではなく、自発的に開催したいと注文してくれた職場からの依頼を起点とし、開催に係る準備の一切をすべて各部局に任せる「自主開催」というスタイルを貫きました。
また、主催者には開催後に必ず、感想や当日の写真などをまとめ、庁内イントラの職員専用掲示板に掲出するようにお願いしました。
主催者が楽しみながら作った投稿記事はとても出来栄えがよく、おかげで口コミが広まり、講座の開催が連鎖していきました。
この掲示板では、私からも「財政出前講座」をはじめた意義や福岡市の財政状況、予算編成手法を改めた理由などについても、私個人の言葉で語りかける投稿を続けました。
これも財政課長という肩書を脇に置いて生身の体で語ることで、少しでも職員が出前講座に参加することや開催を企画することへの心理的ハードルを下げたいという一心でした。
「自発的に」「楽しみながら」「心理的ハードルを下げて」といったこだわりが功を奏し、各職場で開催された講座には意欲的な参加者が集まり、どの会場でも心地よく話すことができました。
予算編成時に互いに対峙するあのピリピリした感覚を忘れ、心の中に張りつめていた氷の壁が解け、変に身構えることなく互いの言葉に真摯に耳を傾ける「対話」のための心の準備ができていったのです。
「財政出前講座」は、必ずしも参加者と講師である私との直接の「対話」の場ではありませんでしたが、財政課が現場との相互理解を求めているという意思表示になり、職員が一丸となって財政健全化に取り組むうえで立ちはだかる、それぞれの立場の持つ心理的な壁を崩す役割を果たしてくれました。
講座が、単に「情報共有」だけでなくこの壁を崩す役割を果たしてくれたおかげで、互いの意見を尊重できる信頼関係を構築し、組織間の「対話」による建設的な意思形成ができるようになったのです。
財政出前講座が福岡市の財政健全化にもたらしたもの。
それは、すべての職員が財政の現状や見通し、財政健全化の必要性を理解し、財政健全化の取り組みが市民の求める政策の実現に必要な手法であることを正しく理解し、各職場、各職員が“ジブンゴト”として取り組む素地をつくるための庁内コミュニケーション改革でした。
そしてこの“ジブンゴト”として取り組む具体的な制度として設計されたのが「局区の自律経営」という思想に裏打ちされた「枠配分予算」というわけなのです。
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★書籍を購読された方同士の意見交換や交流、出前講座の開催スケジュールの共有などの目的で、Facebookグループを作っています。参加希望はメッセージを添えてください(^_-)-☆
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