枠配分予算はバラ色か
もう朝か。査定、全然間に合わないな。
あとは委託料と工事請負費はコンマ8掛け、事務費は既決枠内対応にしとくか。
#ジブリで学ぶ自治体財政
一件査定の頃はよくこんなことがありました。
膨大な量のヒアリングに追われて一つ一つの積算精査が十分できず、エイヤーで数字を丸めていく乱暴な査定。
大事なことも些細なことも味噌もクソも一緒くたの毎日でした。
ところが、枠配分予算ならそんなことはありません!
ということで今回も枠配分予算万歳(笑)です。
「そんなにいいものならどうしてみんなやってないの?」あるいは「うちは枠予算がうまくいかないからやめたよ」という自治体の方も多々おられると思います。
そこで今回は枠配分予算礼賛への異論反論にお答えしていきたいと思います。
①配分される枠がそもそも足りないので裁量がない。
十分な枠が与えられず,既存事業の見直しを財政課から押し付けられているとしか思えない,という意見はよくいただきます。
これは自治体財政が直面している収入減少や義務的経費の増加という避けられない現実に起因するもので予算編成手法云々の話ではありません。
お金が足りない中で何を残すのか,事業手法をどのように見直すのか,を財政課が主体となってそれぞれの現場に査定で切り込んでいくのか,現場が自分たちで主体的に見直して与えられた枠の範囲に収めるのか,というだけの話です。
その二択でも,予算を使う方法以外の解決策を考えられるという点,目の前の市民とのコミュニケーションを十分にとりながら見直しを進められる点において,自分たちで主体的に見直すことの方がよりよい結論を導けると私は思いますけどね。
②枠の配分が公平でない
これもよく言われますが,当たり前の話ですね。
自治体の各現場で皆さんが担当している仕事は,それぞれ組織的に,あるいはその中の各職員で役割を分担していますがそれは均等に配分されていません。
忙しい職場にはたくさんの人が,確実に成果を出さなければいけない課題のある職場には優秀な人材が配置されていると思いますが,そのことを「不公平」とは言わないでしょうし,財政課が一件査定する場合でも,予算がつく事業,つかない事業,結果はさまざまですが,それも「不平等」とは言いません。
これが資源配分です。
福岡市では,配分する財源の積算にあたっては,一定の共通原則はありつつも各部局の抱える課題の濃淡や既存事業の見直しの可能性など部局の個別事情を考慮し,その部局が達成可能な目標額として個別に設定しています。
各部局がやる気を失わずに創意工夫を発揮し,その結果としてよい予算を組めればいいのですから,そこに各職場を平等に扱うという考えは存在しません。
もっとも,あまりに不平等であればそのことが原因でやる気を失う人もいますので,ある程度の公平性は担保しないといけませんけどね。
③それぞれが勝手に部分最適を図り全体最適にならない
これは各事業所管課あるいは特定の政策推進を担って部局横断で調整するリーダーの判断が自治体全体の方針と整合するかという話で,制度設計上は重要な話です。
確かに財源だけ配分して「好きなように使っていいよ」と言えば,部局ごとに好き勝手な判断をしてしまうことが想定されますので,この全体方針に従って各部局で配分財源の使い道を考えるようにと指示することが必要ですし,それがきちんと守られているかをチェックする関門は通る必要があります。
福岡市では次年度の予算編成,機構整備に先立ち市長から市政取組方針が発出され,総合計画に掲げた都市経営の基本戦略に基づき,社会経済情勢の変化等を踏まえて各局区の自律経営の下で施策・事業を構築するための基本方針が示されます。
同時に,特に取り組みを強化すべき重点分野を総務企画局長が,財政運営についての具体的な留意事項は財政局長から各局・区長に示され,配分された枠に基づき各局区でまとめた予算原案,機構整備原案については,早い段階で市長,副市長とも協議,意見交換を行い必要な指示を受けたのちに,財政課において全体を俯瞰し,枠配分予算の対象としていない義務的経費や個別調整経費とともに必要な調整を行うという流れになっていて,この過程で,各局区の自律経営を重んじつつも予算や組織が部分最適にならないよう全体調整をしています。
枠予算であろうと一件査定であろうと全体最適を図る俯瞰的,総合的な調整は当然必要ですが,それは各事業の内容に入り込んだ積算根拠の調整とはレベルの異なるものであり,逆に一件査定の過程で各事業を個別撃破している過程では見ることがない視座からの調整になります。
④財政規律が保たれない
よくこの言葉を財政課職員やOBから聞きますがそもそも「財政規律」っていったい何でしょう。
私のイメージでは,税収等の収入,社会保障費,公債費の義務的経費の見通しを踏まえた中長期的な収支均衡,基金や公債での資金繰りといった全体フレームの話,あるいは補助金や負担金など行政からの支援や受益者負担のあり方など,行政と外部との関係性についての共通ルールに限定され,予算編成の中で個別の事業査定の中で議論すべきものではないものも含まれます。
むしろ,財政課が予算査定でよく指摘する,事業の必要性や緊急性,実現可能性,費用対効果など,市民から預かった税金を使うことの是非やその額の多寡の妥当性は,実は全市一律の基準として守るべきルールではなく,予算とは何か,行政サービスとは何かという議論が本質であってその意味合いは個々の事業で全く異なりますので,財政課がこれを全市一律の基準で全ての事業を査定することで守らせることは不可能ですし適当ではないのではないかというのが私の考えです。
だいたい,福岡市でいえば一般会計で3000もある事業をたった一人の財政課長がすべて同じ判断基準で判定し,優先順位付けと金額の積算根拠の妥当性を同時に判断することなどできるわけがありません。
現場に予算編成の裁量を委ねることで失われる「財政規律」なんてもともとあったのかというのが,財政課で係長として個別の事業査定を5年間やってきた私の偽らざる気持ちです。
財政課長として枠配分予算を大幅に拡充して各部局に裁量を委ね,それを全体的に俯瞰し総合的に調整し予算を編成する作業を4年間やり通したことで,財政課が果たすべき役割と現場の事業担当課やそれを束ねる各部局の長がどのように情報を共有し,意思疎通し,役割分担,連携していけばいいかということが体感できた今,一件査定だった昔を振り返ると,財政課が一つ一つの事業を査定することで「財政規律」を守らせていた,なんてただの神話だったんだろうという気がしています。
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