ただの物差しされど物差し
財政力指数は県下随一だけど
財政調整基金の残高は年々減少
経常収支比率は年々増加
実質公債費比率も高くなってるけど
これって大丈夫なのか よくわかんねえよな
#ジブリで学ぶ自治体財政
拙著『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』をご購読いただいた方からお問い合わせをいただきました。
第4章で私が述べている「財政指標はただの物差し」というくだりででてくる「経常収支比率や財政力指数などの財政指標は他の団体と比較したり,過去からのトレンドを分析したりするために使用する物差しであって,それ自体は財政が健全であるかどうかの判断基準になるものではない」という説明が「財政指標など気にする必要はない」との誤解を招くのではないかというご指摘です。
確かにここだけ切り取ると,そんな風に読めなくはないですが,全文を読めばそういう文脈ではないことがご理解いただけると思います。
財政指標はただの物差し(拙著より抜粋)
講座でよく「どこまで財政健全化すればいいのか」「どういう状態になれば財政健全化が達成できたと言えるのか」という質問をいただきます。非常にいい質問です。私は即座に答えます。「財政健全化は目的ではなく手段です。」と。
第二章でお話ししたように,自治体にないのは「新しいことをするお金」です。そこにある政策課題を解決するために今やっていることを見直す。財政健全化はそれ自体が目的になるものではなく,優先的に実施すべき政策を実現するための手法に過ぎません。つまり,新たに手掛ける優先度の高いものを実現しようとする限り,永遠に続くものなのです。逆に言えば,今がよければ新たに手掛ける必要はないわけですから,ことさら財政健全化に取り組み財源を捻出する必要もないということ。
経常収支比率や財政力指数などの財政指標は他の団体と比較したり,過去からのトレンドを分析したりするために使用する物差しであって,それ自体は財政が健全であるかどうかの判断基準になるものではありません。財政指標がどれだけよくても,今後取り組むべき重要な政策課題があり,その実現に向けて多くの財源を捻出する必要があれば,既存事業の見直しにも積極的に取り組まなければならなくなるのです。(引用終わり)
「それ自体は財政が健全であるかどうかの判断基準になるものではない」ということの趣旨は,以前も書きました。
財政指標がどれだけよくても,今後取り組むべき重要な政策課題があり,その実現に向けて多くの財源を捻出する必要があれば,既存事業の見直しにも積極的に取り組まなければならなくなりますし,逆に,現在の財政指標では投資余力がないと判断された場合であっても,新たな政策を実施するために既存事業を常に見直していくことができるのであれば,財政運営上は特に問題がないということになるわけです。
財政健全化は時に,他の自治体の比較によって目指すべき目標を定めたり事業見直しを論じたりすることがあります。
ここで注意しなければならないのは,財政運営は他都市との横並びで判断されるものではないということ。
行財政改革の議論でも自治体が任意で行う給付事業や補助金,施設使用料の単価設定等についても「他都市に比べて給付や補助が手厚すぎる」あるいは「他都市に比べて施設使用料が安すぎる」といった議論が行われるケースもあります。
耳を傾けるべきはその指摘の裏側にある「なぜ他都市よりも高いのか」という理由であって、それを踏まえ「それは問題なのか」を議論しなければいけません。
福祉施策が他都市よりも手厚いと指摘されたとしても、それが都市の魅力として市民が認めているものなら直ちに他都市と同水準にすべき理由はありません。
他都市と同水準でないことが見直しの根拠であったり,同水準まで引き下げることが見直しのゴールであるはずはなく,あくまでも自治体が主体となってその施策を維持できるのか,維持したいのか,維持するためにほかの施策を犠牲にできるのかという観点で議論し結論に至らなければいけません。
財政指標や数値目標を軽視してよいと言っているわけではありません。
雑誌やwebサイトでよくある「自治体ランキング」に関して自治体経営にもっと関心を持ってもらいたいと思う立場からは、「豊かでない」こと、「余裕がない」ことに焦点を当ててほしいと思います。
財政に余裕があることを市民に知らせることにさほど意味はありませんが、財政に余裕がないことは将来の財政運営の持続可能性に懸念があり、正確な情報を市民と共有し、市民の理解のもとで持続可能な自治体運営のために必要な方策を選択しなければいけません。
「余裕がない」ことは他の自治体よりも相対的に良いか悪いかは問題ではなく、その自治体の単年度実質収支、基金残高、経常収支比率の絶対値が問題になるのですから、比較すべきはその自治体での過去からの現在の推移と将来予測です。
過去と比較し、あるいは将来を予測し、収支悪化傾向であればその要因を明らかにすることで対応方策が見えてきます。
収支悪化の原因が税収減であれば、税目や納税者のトレンドを分析することで将来の回復が見込めるか想定できます。
収支悪化の原因が支出増であれば、内訳として義務的経費、経常的経費が増えているのか、政策的経費、投資的経費が増えているのかを見て将来推計を行い、収支均衡のために支出を削減すべき経費や金額を想定することができます。
また、現在の公債(借金)残高や今後の投資計画から、将来の借金返済額の負担を見込むことや、公共施設の保有量から将来の施設維持・更新に要する費用の負担を見込むことで、将来の財政運営における費用負担リスクを想定することもできます。
すべてはその自治体の財政状況を過去、現在、将来にわたって把握し、評価すること。その出発点としての現状評価は、他都市との相対評価ではなく絶対評価なのです。
経常収支比率や財政力指数などの財政指標にはそれぞれに物差しとしての意味があります。
それが自治体のどの部分の実態を測定する物差しなのかを正しく理解し,その物差しで測ってみて何か問題があるのであればその要因を把握し,改善すべき。
その際に問題があるかどうか判断するため同じ物差しで測った他都市との比較や同じ自治体の過去からの経年変化を見るのですが,単に他都市と異なるから,経年変化があるからよいとか悪いとかいうものではありません。
あくまでも他都市との差異や経年の変化を事実として把握し,その要因はなにか,そのことが財政運営にどんな影響を与えているか,今後も同様の影響があった場合にどのような財政運営になることが見込まれるかを自治体の実情に応じて個別に想定したうえでその良し悪しを見定めることが必要なのであり,そのためには,統一的,客観的な財政指標による実態の把握は不可欠なのです。
自治体の財政運営に関して理解が深まり,その何たるかが市井で語られるようになることは大変喜ばしいことです。
ただ「自治体にはお金がない」と言ってもその実状や要因は様々です。
ぜひ,財政指標や他都市比較のみで財政健全化の是非や目標設定を論じるステレオタイプの紋切り型ではない,実態を踏まえた中身のある議論をしていただきたいと思いますし,その一助として私の著書やこのブログがお役に立てれば幸いです。
自治体の財政運営に関して,何かご質問,ご意見あれば,ぜひこちらお寄せいただければ,答えられることをお答えし,あるいはこの場で記事としてお示ししたいと思います。
★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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