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何を測るか何で測るか

太ってるだなんて失礼な。
これでも30kgやせたんだよ!
何を基準に太ってるって言ってるの?
#ジブリで学ぶ自治体財政

財政健全化の話をするとよく「どこまで健全化すればいいのか」「健全化を達成できたと判断する指標は」といった質問を受けます。
財政に関する指標は様々あって,例えば余力を表すものとして財政力指数や経常収支比率,基金残高などがあり,現在や将来の義務的な負担を表すものとして実質公債費比率や将来負担比率などが,キャッシュフローを表すものとして実質収支や資金不足比率などがありますが,それぞれ,自治体財政のある部分を測定するモノサシであって財政が健全であるかどうか自体を直接診断するものではありません。

例えていうなら,健康診断で体位測定や血液検査,レントゲンやエコー,内視鏡等による各種臓器の検査を行ってわかることはそれぞれの部位の状態であって,その人が健康かどうかを直接診断できるものではない,ということです。
また,健康であると言っても人それぞれで,毎日普通に暮らす人に必要な健康と,プロスポーツ選手の健康は求められるレベルが全然違います。
自治体の財政健全化も同じで,財政の健全化を果たすことで何を実現したいかによって,目指すべき到達点も違い,その判断基準も変わってきます。
そういう風に考えると,財政健全化を示す指標は自治体が財政を健全化する目的を踏まえ,その目的を達成しうる状態かどうかを判定する指標でなければいけないということになります。
では,自治体の財政健全化の目的は何でしょう。

我々は何を実現するために財政の健全化を果たそうとしているのでしょうか。
拙著「自治体の“台所事情”“財政が厳しい”ってどういうこと」でも書きましたが,財政の健全化はそれ自体が目的ではありません。
財政健全化の目標として「4年間で100億円削減」などという目標を掲げる自治体もありますが,地方自治体の財政健全化の目的は「今後必要になる政策的経費の財源確保」であって,事業費の削減そのものではありません。
100億円削減することが目的なのではなく,今後の政策推進に必要なお金があと100億円足りないので,それを捻出するために行うのが財政健全化なのです。

従って財政健全化が政策的経費に投じる財源の確保を目的とすると,その判断指標は新たな施策事業に投資できる余力を表す指標である経常収支比率や,標準的な財政運営に必要な財源を自主的に確保できているかを表す財政力指数になると思われます。
しかし,自治体の財政健全化を論ずるうえでこの数値を判断基準にできたとしてもそれを目標にすることは避けるべきと私は考えています。
それはいずれの指標も投資余力の有無を判断する材料にはなりますが,その余力がどの程度あれば足りるのか,つまり目標としての指標にならないからです。

財政健全化は優先的に実施すべき政策を実現するための手法,新たに手掛ける優先度の高いものを実現しようとする限り,永遠に続きます。
逆に言えば,今がよければ新たに手掛ける必要はないわけですから,ことさら財政健全化に取り組み財源を捻出する必要もないということ。
財政指標がどれだけよくても,今後取り組むべき重要な政策課題があり,その実現に向けて多くの財源を捻出する必要があれば,既存事業の見直しにも積極的に取り組まなければならなくなりますし,逆に,現在の財政指標では投資余力がないと判断された場合であっても,新たな政策を実施するために既存事業を常に見直していくことができるのであれば,財政運営上は特に問題がないということになるわけです。

ちなみに,経常収支比率は毎年入ってくる収入の範囲で毎年必ず出ていく支出を賄うことができているかを表す指標であり,現在の常識では100%を下回ればその分投資余力すなわち新たな政策の実施ができる余力があると判定されます。
しかし,経常収支比率が90%だからと言って10%分は事業費を見直す余裕があると考えるのは間違いです。
なぜなら,統計上はその10%の余裕分で経常的でない支出を行っていることになっていますが,その内容は毎年度新たに始める新規事業や新たな施設の整備,あるいは臨時的なイベント等の突発的な支出ではなく,既存施設の維持や更新に係る経費のうち投資的経費と認められるものや,政策決定してから間もないものでこれから自治体の政策として本流をなしていくものも含まれているからです。
逆に経常収支比率が100%近くても,長年続けているという理由でこの事業に要する経費が経常的なものとして織り込まれているのであれば,この事業をやめると決断することで新たな財源が生まれるわけですから,必ずしも現在の指標がそのまま財政健全化の取り組みの必要性や困難性を表すわけではないということを正しく理解しておく必要があります。

先日投稿した「何を削るのかではなく」でも書きましたが,行財政改革の議論で欠落しがちな「何を残すのか」がこれからの時代は本当に大切になってきます。

人口が減少し,自治体の収入減少に応じてサービスも縮小してくなかで求められるのは,新たな政策に振り向ける財源の確保ではなく,縮小する既存サービスの中で優先順位の高いものの維持。
そのための撤退戦略としての財政健全化にならざるを得ないとすれば,その時点では目に見える新たな投資余力などどの自治体も持たないわけで,余力の有無を表す指標はすでに意味がないものになっているでしょう。

悲観的に考えれば,そんな時代で求められるのは縮小されたまちの将来像について行政だけでなく市民も議会も具体的に共有し,その実現に向けて「何を残すのか」について苦渋の選択をとることができる自治体。
そこで必要になるのは財政指標に基づく削減目標の設定や他都市との比較,あるいはその指標に向かって振るう鋭い大鉈ではなく,自分のまちがこうありたいと願う明確なビジョンと,その実現に向けて異なる意見を集約し,まちへの思いと振り向ける資源を一つの方向に結集させる行政運営手法です。
自治体経営シミュレーションゲーム「SIMULATIONふくおか2030」でいつも申し上げているように,「ありたい姿」から考え「対立を対話で乗り越える」ことができる自治体が生き残る時代が来るのだと思っています。

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