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お金がないなら

これは別枠でお願いしますって言われても,財布はひとつだからねえ
#ジブリで学ぶ自治体財政

枠配分予算編ではかなり財政課のことをきつく責め立ててしまい申し訳ありませんでした。
今日は財源不足に悩む全国の財政課職員が言いたいことを代弁したいと思います。

今年は特にコロナの影響もあって税収減やコロナ対策のための臨時的な支出が想定されるため,本当に厳しい予算編成になりそうですが,地方自治体の財政状況の厳しさは今に始まったことではありません。
人口減少や経済活動の停滞による税収減と少子高齢化による社会保障費の増,さらにはこれまで公共施設整備に充ててきた起債(借金)の返済が長期的に高止まりするなかでその公共施設の老朽化により維持管理経費や施設更新経費が必要になり,三重苦,四重苦の状況が続いています。
使える財源が限られている中で,住民からはこれまでのサービスを維持することが求められる一方で,社会ニーズの多様化によりこれまで以上のサービス拡充や新たな政策課題の解決のための取り組みも求められています。
当然,自治体の使えるお金には限りがあり,やりたいことのすべてを実現できない以上,施策事業に優先順位をつけたり取捨選択をしたり,あるいは少ない経費で効率的に事業が実施できるよう経費の精査を行ったりしながら見込まれる収入の範囲に支出を抑えていく,これが予算編成であり,これを複数年度の計画として行うのが行財政改革ということになります。

ところが,このことを現場と議論するとかみ合わないことがあります。
「どうして今年と来年で業務が同じなのに予算が削られるのか」
「最低限これだけの予算がないと今までと同じようにはできない」
現場では,与えられた持ち場で一定の水準を保って行政サービスを提供する責務を負っている以上,その責任に相応しい予算を確保しなければならないし,それは当然担保されると思っている方が多数おられますが,その認識は誤りです。
以前にも書いた,地方自治法が定める「会計年度独立の原則」。
地方自治法第208条第2項には「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」とあります。
いくつかの例外はありますが,原則としてある年度に必要な支出の財源は,同じ年度内の収入で賄うことになっています。
つまり,自治体の財政運営においては,やらなければいけないこと,必要な支出額が前提とされるのではなく,見込まれる収入が前提とされるのです。
収入が足りなければ支出を見直すしかなく,「今までと同じように」という考え方さえ改めなければならないし,それを市民にも理解してもらわないといけないのです。

また,こんなことを言われる場合があります。
「もうこれ以上予算の削減はできない」
「これだけは緊急,特別なものなので,別枠で配慮してほしい」
冒頭に書きましたが,自治体の財布は一つしかありません。(特別会計,企業会計があるじゃないかというツッコミは議論をややこしくするので今日は脇に置いておきます。)
ですから,何か一つの分野,事業を特別に配慮して予算を確保すればその影響は別の事業に及びます。
社会保障費や借金返済など,自治体の裁量の利かない義務的経費であれば,経費の性質上,何かを犠牲にしてでもその財源を確保する必要がありますが,通常の施策事業の場合,ある分野,事業を優先するその選択は,自治体の目指す将来像の実現に不可欠な政策の実現の手段であるかどうかが問われるわけで,それは住民の理解と合意のもとで行われることが望ましいのですが,全体を俯瞰しての議論ではない我田引水,自己防衛,部分最適の論陣を現場で張られるとかみ合わなくなってしまうのです。
この優先順位付けの話は今までも書いていますが,優先順位付けができない場合のリスクなども含め,いずれまた別稿で書きたいと思います。

また,自治体運営全般の話として「お金がない」という話をすると主に民間の方から「貯金はないの」「稼げばいい」「借りればいい」と必ず言われます。
「貯金」の話は以前「貯金はどのくらいあればいい?」で書きました。
端的に言えば,貯金はあくまでも年度間の調整の手段であって,貯金のために現在の市民のサービスをそぎ落とすというのは「会計年度独立の原則」に反するのではないかという話。


「稼ぐ」という話も以前「稼ぐ自治体と言うけれど」で書きました。
これも,小手先の副業収入のようなものはある程度稼げますが,一番大事なのは自治体収入の根幹である税収をきちんと確保していくことに尽きるわけで,市民の経済活動をいかに支える(直接的な支援だけでなく住みやすさ,暮らしやすさの提供といった間接的な支援も含め)かがカギとなるわけです。

さらに付け加えるならば,長年財政の仕事をやっていてつくづく思うのが,収入について計画を立て,それをコントロールするのは不可能だということ。
税収は市民の経済活動の総体ですので,どこをどう押せばどう反応するという単純な方程式があるわけではありません。
商売をされる方にはわかっていただけると思いますが,モノの値段は商品を作るのにかかった原価に利益を加えて算出するのではありません。
市場でそのモノがどのような価値で評価されるかが値段の全てであって,またそのモノがどのくらい売れるかも市場の評価によります。
販売する者は自分たちではコントロールできない「値段」と「販売数量」で算出される「売上」の範囲内に原価を抑え,利益を上げなければいけないのです。

自治体の財政運営も同じです。
行政サービスにこれだけの原価がかかるからそれに見合う税を徴収し,予算措置するのが当然ということではなく,税収がこれだけしかないからその範囲内で優先順位をつけて行政サービスを制御するという構造。
経済活動というコントロールできないものから発生する税という収入を自治体の努力で「増やす」というのは理論的には可能ですがそう簡単なものではなく,それが簡単ではないからこそ,限られた収入の範囲内で最も効率的な支出を考えることを財政課も現場も一丸となって考えなければいけないのです。

「借金」の話は少し長くなるので別稿に譲ります。

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