見出し画像

おすすめの小説|ドロシーギルマン作|おばちゃまはアルペン・スパイ


あらすじ

主人公ミセス・ポリファックスは、どこにでもいるアメリカの気のいいおばちゃま。それが、ひょんなことからCIAのスパイに採用されてしまった。そんなのうまくいくはずがなかったのに,予想外の大手柄。今では本部の信頼もすごく厚いエース・スパイだ。本人もすっかりその気になって空手のレッスンを欠かさない。さて今回は、アメリカとイギリスで盗まれたプルトニウムの行方を追い、スイスの高級クリニックに潜入!

本作より引用

今作の見どころ

訳者によると、今作主人公のおばちゃまは脇役に転じているとのこと。
任務のために潜入したクリニックには何やら怪しげな患者たちが。彼らの訳ありな事情を探りながら捜査を進めていくおばちゃま。
クリニックで初めて友達になったのはハフェズという10歳くらいのアラブの少年。
実は彼こそが今回の主役なのだ。
彼の正体は一体…
そして窮地に立たされ絶対絶命大ピンチのおばちゃまを彼がどうやって救出するのか、
おばちゃまの任務、爆弾の原料プラトニウム発見に彼がどう関わってくるのか…
いつも話の結末は最後の20〜30ページまで全く読めない。
舞台はスイスの療養所というなんとも穏やかなロケーションだが、穏やかではない事件が次々と起こる。
周りの平穏とはミスマッチなスリルが読者をさらにハラハラさせる。

今作の名言

今作にも心に刺さる名言がちりばめられている。
おばちゃまはある時89歳の元将軍に出会う。
彼はおばちゃまにこんな愚痴をこぼす。

「89歳の典型的な問題は、しっかり生きた人生を振りかえる余裕があるのに,それをいっしよに分かちあえる友達がもはや誰もいないということじゃ。」

ー今作より引用

長生きする、て本当はすごいことなんかじゃないのかもしれない。
彼の孤独がいとも簡単に想像できてしまった私もまた孤独なのかもしれない。

かくいうおばちゃまもひょんなことからCIAに採用されるまでは死を考えるほどの孤独な夫人だった。

それが長年の夢だったスパイへの道を踏み出した途端、人生は180度変化した。
たくさんの人と出会い、たくさんのスリルを味わい、死と隣り合わせの事件に巻き込まれ、自分の「生きること」への執着に気づく。

そんなおばちゃまだからこそ分かる孤独のつらさ、生きることの大変さ。
おばちゃまの言葉にはどこか包み込むような温かさ、包容力が感じられる。

人間力とは本来生まれ持っているものではなく、自分のつらい過去から身につくものなのかもしれない。

おばちゃまの名言に、こんな言葉がある。

「うれしいことも嫌なことも、思いがけないことがしょっちゅう起こるわ。でも、どちらかだけがほしいってわけにはいかないのよ。人生、楽しいことと辛いことでワンセットですからね」

ー今作より引用

そんなおばちゃまのひとことになんだかヒントをもらった気がする。

いいこともあれば悪いこともある。
人生という長い線の中には上に上がったり下がったりカーブはつきもの。

それでも客観的に見ればその線は生まれた時から成長というゴールへと徐々に上向きに上がっているのかもしれない。

生きるのがしんどくなった時、おばちゃまのこの名言を思い出したいものだ。

おわりに

いつもドロシーギルマンのおばちゃまシリーズを一冊読み終わるたびになぜだか幸せな気持ちになる。

冒険小説とはいえ、元児童小説家だからなのか、はたまた作者自身の人柄ゆえなのか、作品に残虐なシーンはほとんどない。
かと言ってスリルがないかというと全くその逆で、悪と戦うおばちゃまと一緒になって息を潜めたくなるほどハラハラさせられる。

そして衝撃のラストシーンのあとにはなんともいえない達成感のような満足感のような感情に包まれる。

さて、次はおばちゃまに連れられてどこに行くことになるのだろう。

いいなと思ったら応援しよう!