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『 愛の代償 』

   シナリオ・センター 本科課題⑭「ヒモ」

               作  瀬下祐美

⭐️「ヒモ」…言葉は知っていたけど一応意味を
ちゃんと調べて執筆に取り掛かりました!!笑
昭和感満載の描写が溢れたエモい作品になったと自負しています。
性描写や表現が苦手な人は…観覧注意です!!笑
まあ…嫌いではない人の方が多い気もしますが…笑

人物👤
高橋 千鶴子(40) 春栄出版社編集長
岡本 雅彦(30) 詩人
木村 和夫(30) 千鶴子の部下

◯春栄出版社・外観(夕)
   雑居ビル3階に『春栄出版社』の看板。

◯同・中(同)
   慌ただしく動き回ったり、机に向かって
   顰めっ面しながら書き物、
   電話対応している男たちが10人程。
   煙草の煙で空気が悪そうな様子。
   疲れた様子で煙草をふかす木村和夫(30)の
   姿もある。
   ブラウン管テレビからは、東京タワー完成
   のニュース映像と音声。
   『編集長 高橋千鶴子』と表示された
   プレートが置いてある机で
   『明日に羽ばたく 作 岡本雅彦』と
   きれいな文字で書かれた
   原稿用紙の束をジッと眺めている
   高橋千鶴子(40)。
   終業のブザーがなる。
   帰り支度を始める男たち。
   煙草をもみ消し、千鶴子の机に近づく
   木村。

木村「お疲れ様です!…皆んなで一杯行こうって話していたんですけど…編集長もどうですか?」

   愛想よく、お猪口で呑む様な仕草をする
   木村。
   様子を見守る男たち。
   笑いながら木村を見る千鶴子。

千鶴子「…木村くん!すごい魅力的なお誘いだけ
 ど…今日は早く帰りたいの…みんなも
 ありがとう…そういえば、奥さん今臨月でょ う?あなたも早く帰ってあげたほうがいいわよ…
 クリスマスイヴでもあるんだから!」

   微笑む千鶴子。

木村「…えっ?編集長…イヴは明日ですよ?」

   慌てて引き出しから手帳を出し、確認する
   千鶴子。

千鶴子「やだ…私ったら…」

   ニコニコして千鶴子を見る木村。

木村「…明日のイヴ…編集長こそ早く帰って
 ゆっくりしてください…!では、また明日」

   どやどやと楽しそうに帰っていく木村と
   男たち。
   手帳の12月24日のところの『まーくん誕生
   日』の文字を見ながら微笑む千鶴子。
   机の上の『明日に羽ばたく 作 岡本雅
   彦』の原稿用紙の束に視線を移し、
   ジッと見る。

◯高橋家・外観(夜)
   古民家風の平屋。
   郵便ポストには『高橋千鶴子』の文字と
   消えそうな薄い『岡本雅彦』の文字。

◯同・茶の間(同)
   炬燵の上の原稿用紙に顔を乗せ、半纏を着
   てうたた寝している端正な顔に無精髭の
   岡本雅彦(30)。
   原稿用紙は白紙。『同窓会のお知らせ 東
   京大学 文学部OB会 木村和夫』と書か
   れた往復葉書もある。
   玄関が開く音。

千鶴子の声「ただいま…」

   うたた寝したままの雅彦。
   疲れた様子で入ってくる千鶴子。
   雅彦を見つめ、微笑みながら
   バックハグをする千鶴子。
   身じろぎして、目を覚ます雅彦。

雅彦「あっ…おかえり!ちずちゃん…」

   振り返り、千鶴子を微笑みながらジッと
   見つめる雅彦。
   雅彦とは目を合わせず、バックハグのまま
   炬燵の上の白紙の原稿用紙と往復ハガキを
   無表情で見ている千鶴子。

千鶴子「今日は…どうしたの?」

   原稿用紙を眺めてバツが悪そうになる
   雅彦。

雅彦「…いや…なんかさ…考え事していたら
 書けなくなっちゃった…」

   雅彦を訝し気に見る千鶴子。

千鶴子「なに?考え事って…」

   言葉に詰まり、千鶴子からそっと
   目を逸らす雅彦。

雅彦「…大した事じゃ…ないよ…」

   雅彦をジッと見て、顔をそっと両手で挟み
   微笑む千鶴子。
   なされるままの雅彦。

千鶴子「どうしたの?何かあったの?その…往復
 葉書にまーくんを困らせるような何か…書いて
 あったの?」

   炬燵の上の往復葉書をそっと手に取る
   千鶴子。
   見入って、驚く千鶴子。

千鶴子「ねえ…この木村和夫って…?」
雅彦「ああ…同じ学部だった悪友だよ…」
  
   考え込む千鶴子。

千鶴子「行くつもりなの?」
雅彦「だめかな?」
千鶴子「…ダメじゃないけど…私の事は誰にも話
 さなくていいからね?」

   訝し気になる雅彦。

雅彦「どうして?ほんとはね…色んな人に千鶴ち
 ゃんのこと自慢したいんだよね…」

   慌てる千鶴子。

千鶴子「何言ってるの!!まーくんと私は、そん
 な人様に言えるような関係じゃないでしょ
 う?」

   寂しそうになる雅彦。

雅彦「‥俺さ…最近特に思うんだ…こんなさ…
 仕事もせずに好きなことしていて…このままで
 いいのかなって…」

   笑い出す千鶴子。
   
千鶴子「考え事って…そういう事?
 それでいいじゃない!…まーくんには好きなこ
 とをしていてほしいの…それに…いつも私を慰
 めてくれてるじゃない…それがまーくんの立派
 なお仕事よ…」
雅彦「ねえ…ちずちゃんは…本当に俺の事好きな
 の?好きで好きでたまらないって…思ってい
 る?」

   雅彦にそっと口づける千鶴子。

千鶴子「…当たり前でしょう?
 私を慰めてくれる可愛い恋人よ…」

   真顔で千鶴子を見つめる雅彦。
   服を脱ぎ出す千鶴子。

千鶴子「…今日も疲れたわ…慰めて…」

   雅彦の手を、ボタンを外したブラウスの中
   へ導く千鶴子。
   動揺して、抵抗する雅彦。

千鶴子「私を慰めることはあなたの立派なお仕事
 よ…さっき言ったでしょう?」
雅彦「何か…その言い方…好きじゃない…」

   雅彦の下半身を手で確かめ、嬉しそうな
   千鶴子。

千鶴子「しっかり反応しているじゃない…ねえ
 私を抱いて…まーくんだって私を抱きたいでしょう?」

   雅彦の首に手を絡め、激しく口づける
   千鶴子。
   千鶴子を押し倒す雅彦。
   激しく絡み合っていく千鶴子と雅彦。

◯テーラード山形屋・店内
   背広、生地が並んでいる。
   店員にぎこちない様子で採寸されている
   下駄履き姿の雅彦。
   無精髭ではない。
   大きな買い物袋を何個か持ち、雅彦を見守
   る千鶴子。

雅彦「ねえ、ちずちゃん!さっき試着した既成の
 背広でもいいのに…オーダーメイドって高いん
 じゃないの?」

   困り顔の雅彦。
   慌てて人差し指を唇に当てる千鶴子。

千鶴子「(小声で)人前でちずちゃんって言わない
 の!
 それに…そんなこと貴方は気にしなくていいの
 よ…
 買うなら…良いものを買わなきゃダメよ!」

   微笑む店員。
   千鶴子を見つめる雅彦。

◯銀座資生堂パーラー・店内
   談笑しながら、寛いでいる老若男女。
   混み合っている。
   テーブルを挟んで、向かい合ってコーヒー
   を飲んでいる千鶴子と雅彦。
   雅彦の前だけに
   ストロベリーパフェがある。

雅彦「‥色々買ってもらっちゃって…ごめん」

   訝し気な顔になる千鶴子。

千鶴子「どうして謝るの?恋人の誕生日に
 プレゼントをしただけよ?
 言われるなら…ありがとうのほうが嬉しいわ!」

   微笑む千鶴子。
   見つめる雅彦。

雅彦「(大きめの声で)千鶴ちゃん!!」

   周りの客が雅彦を見てクスッと笑う。
   慌てる千鶴子。

千鶴子「(小声で)だから…人前で千鶴ちゃんって
 言わないでちょうだい!声が大きい…」

   微笑む雅彦。
   真顔になり、雅彦を見つめる千鶴子。

千鶴子「やっぱりハンサムね…貴方って…」

   千鶴子から目を逸らし、真顔の雅彦。

雅彦「でも俺は…君のおもちゃみたいだなって…
 時々考えるんだ…」
千鶴子「何言ってるの?最近まーくん…何か変
 よ?どうしたの?」

   千鶴子に視線を戻し、見据える雅彦。

雅彦「…俺の事が好きなんじゃなくて…君の思い
 通りになる
 俺が好きなんでしょう?違うかな?」

   神妙な面持ちになる千鶴子。

千鶴子「(小声で)衣食住に困らず、好きなことし
 ていてお金も払わずに抱ける女もいて、貴方こ
 そ…何が不満なのかしら?」

   微笑む千鶴子。

       終