Episode#5 シドニーべシェ流、最高のクライマックスの作り方
私の敬愛するサックスプレイヤーであるボブウィルバー氏(1928-2019)の自伝"MUSIC WAS NOT ENOUGH " by Bob wilber を読んで、印象に残ったエピソードを紹介します。
シドニーべシェのソロはかなりよく構成が練られているのだな、と思わせるお話。
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例えばシドニーべシェが"Blue Horizon"のソロをとる時、コーラスの最後の4小節は毎回同じようなブルースのフレーズを吹いている。そうすることで全体に統一感が出てくるのだ。
また、”Sheik of Araby"や”China Boy”などでは、自らのソロの最後のクライマックスとして、1コーラス丸々決まったメロディーを度々演奏している。
これはべシェの音楽のクレドの1つである、「曲の最高のエンディングに向かって、自分で自分を興奮の上昇曲線に乗せること。」に繋がる。
(べシェのクレドについては、以下の記事で。)
というのも、ソロのクライマックス、すなわち”1番の盛り上がりを魅せるべきところ”に定番のメロディーを持ってくることで、自らのコントロールがしやすくなるのだ。それまでのコーラスは、どのように最高のクライマックスを演出するかという準備と捉えてもいい。
ソロのクライマックスに差し掛かった時、自分を見失ってしまうミュージシャンも多い。彼らは、それまでのコーラスですでに演奏のピークを迎えてしまったために、それ以上、行くべき場所が分からないのだ。
べシェは自らが作った1コーラスのメロディーを教材としてボブウィルバーに大切なポイントを指導していた。
ところで、デュークエリントン楽団の超スタープレイヤーのジョニーホッジスも10代の頃にべシェに手ほどきを受けていたそうだ。その後の1925年にエリントン楽団に参加している。
当然ボブウィルバーにとって、ジョニーホッジスは超憧れのプレーヤーの1人だったわけだが、べシェに習い始めた当時、ボブはその事実を知らなかった。
それに気づいたのは、"The Sheik of Araby"のエリントン楽団の録音で、ジョニーホッジスが吹いていたソロが、ボブがべシェに習ったコーラスと同じであると気づいた時であった。
その演奏は、べシェが1人で全ての楽器を演奏して多重録音しているという(稀有な)アルバムで聞くことができる。しかもソロはテナーサックス!対して、ホッジスがソプラノサックスというどちらもレアな演奏。
↓ The Sheik of Araby・Sidney Bechet
1:35からテナーサックスでのソロ。
ジョニーホッジスはこちら。
↓The Sheik of Araby · Johnny Hodges · Duke Ellington and His Famous Orchestra
1:27からソプラノサックスでのホッジスのソロ。
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ここから感想。
本に書いてある、べシェとホッジスが同じソロ吹いてる演奏、探しあてるの苦労したんだ。
べシェはテナーサックスを吹いても、その音圧にベシェっぽさを感じる。
対してホッジスはソプラノだとホッジスらしさあまり出ていないような。
このベシェ流のクライマックスの魅せ方、すごく面白くも、実用的じゃないでしょうか。