見出し画像

あの日、ドラッグストアで

我が家にはテレビがないので、夕食の後、アマゾンプライムで映画を観る事が多いんです。

夫婦それぞれ映画の好みは違うけど、お互いがこの映画好きだなぁ、時々観たくなるなぁっていうのが、「ノッティングヒルの恋人」です。

今、これを書くにあたって調べてみたら、公開が1999年、今から23年前とのこと。


そうあれは、確かそれくらい前の話です。


その頃の私は、商店街のアーケードにある調剤もしている小さなドラッグストアで、土日のパートをしばらくしていた時期がありました。

土日は病院がお休みで、調剤がほとんどなくのんびりなので、お店は薬剤師のオーナーと、パートの私の二人体制。

パートを始めて間もないある日の午後、ちょうどオーナーが昼休憩で外出していた時、一人の若い女性がふらり店に入って来て、商品を見ている様子でした。

そんな風にふらっと入って来るお客様は珍しいわけではなく、沢山いらっしゃるけど、狭い店内での彼女の挙動が少々気になったので、もしかして新手の万引きか何かか?と不審に思い、レジを打ったりしながらずっと彼女を目で追っていました。
でも何事もなく、そのまま彼女は店を出て行ったんです。

次の土曜日。

午後に、またあの彼女が店に入って来ました。
その時は他にお客様もいなかったので、「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」と声を掛けてみたんです。

そしたら、チラッと私を見て、何も言わずにくるっと背中を向け、そこにある商品を手に取り眺め始めました。

「なに???」やっぱりちょっと挙動不審!って思ってた所に、別のお客様が来店。
それを見た彼女は、手に持っていた商品を丁寧に元の場所に戻して、何事もなかった様にすーっと店を出て行きました。

あんまりにも気になったので、オーナーに話してみたら、

「あぁ、あのちょっと一風変わった娘ね。」って気付いていた様で、
「毎週土曜日に来るけど、特に買い物するわけじゃなく、店に入って、見て、出るっていうのをしないと、落ち着かない娘なんじゃないかな?」

オーナー曰く、どうも万引き目的とかじゃないんじゃないか、とのこと。

そして次の土曜日、やはり来店。

長い黒髪を後ろで一つに束ね、いったい何が入っているのかわからないけど、やたらと物が入ってる雰囲気の大きなトートバッグを重そうに肩から下げて、それと、後ろ姿をよくよく見たら、履いている靴が、白くて甲の部分にゴムの付いた所謂「学校の上履き」で、かかとの上にある引っ張る布部分に、、、

黒マジックで「〇〇」って名前書いてある!!

恐る恐る、「〇〇さん?、、、」って、声を掛けてみたら、

「はい、そうです。」と、

こちらを見て応えたんです。
それも、もの凄く自然に。

ちょっと変なんですけど、
私にとってそれはまるで、やっと海外で異文化交流出来た嬉しさというか、こんな言い方したら叱られるかもしれないけど、野生動物とコミュニケーション出来た喜びというか、、、

それでも怪しさは全然払拭できてないんですけどね、客観視するなら、どちらかと言えば増してるのかもしれないんですけどww
だけど、あまりにもキャラの際立っていた彼女が、自然に応えてくれた事に驚き、妙に嬉しかったのを覚えています。

それをきっかけに、来店する度に少しずつ話しをする様になりました。
学生で、年齢は19才、アニメと映画が好きで、住まいは近所ではないとか、おぼろげながら、そんな会話をした記憶があります。

そうそう、最初「???」ってなった彼女の謎の行動。

いつも会話の途中に、お客様が来店すると話をスッとやめ、くるっと商品棚の壁の方を向き、指でそこにある商品をなぞったりして、どう言ったらいいか、「私はここにいません」的になって、でもまた二人になればこちらに振り向き、何事もなかったように話の続きをするというやつです。

他の人はどう思うか分からないけど、彼女なりのそういうコミュニケーションの取り方の何とも言えない不器用さが、私にはとっても興味深くて、会う度ごとに微笑ましく思えてなりませんでした。


あなたがそうしたいのなら、そうすればいいよ
そして、あなたがそうする事で心が落ち着くのなら、そのままでいいよ、って、ただただそう感じて彼女と接していました。


年が離れていたせいか、彼女が話す内容は、私にはあまり馴染みがない事が多く、そんな中で記憶に残っているのが、ある日私からの「お勧めの映画は?」という問いに、すぐには答えず次の週にわざわざメモを渡してくれた事です。

そこには「ノッティングヒルの恋人」と、もう一つ書かれてあったんですが、、、残念ながらもう一つの方は忘れてしまいました。

何かの機会にせっかくだからと、(当時は)ビデオ屋さんでレンタルして夫と観てみました。

大好きなエルビスコステロが挿入歌を歌っている事もあって、二人して大のお気に入りになり、素敵な映画を教えてくれた彼女にお礼を言わなきゃと思っていたんです。

そして土曜日。

午後になっても彼女は現れず、次の日の日曜日も、その次の週も、、、
もしかしたら平日に来店してるかもと思い、オーナーに聞いてみても、来ていないと。

一言お礼が言いたかったけど、その後、私が彼女に会うことは一度もありませんでした。

それから私も引っ越しを重ね、あれから何年も経ちますが、あの映画を思い出すたびに、彼女との事を想います。

お元気かしら。
あなたに出逢えたご縁に心から感謝しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?