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静岡で考えた、防衛・原子力・環境問題
静岡と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。雄大な駿河湾、緑あふれるお茶畑、そしてもちろん富士山。他にも、桜エビ・生シラスといった海産物に自然環境豊かな当地は、国内有数の観光地。
筆者は、学生時代&20代を静岡で過ごしたが、改めて様々な問題に取り組む中で、今回思い立って幾つか尋ねてみた。
航空自衛隊浜松広報館で、防衛・外交を考えた
筆者にとって、静岡は18年ほど暮らした第二の故郷である。今回の旅は、「航空自衛隊浜松基地」に隣接する「同広報館エアパーク」からスタート。
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浜松というと、浜名湖や鰻が有名。新幹線が踏切を走るところを見られる、「東海旅客鉄道浜松工場」も。さらには、浜松餃子などなど観光スポットがたくさん。
そんなエリアにある「航空自衛隊浜松基地」、4月〜6月頃には、周辺河川・水路で、PFAS(有機フッ素化合物)の高濃度検出が明らかになり、その対策も待たれるところである。
今回はその取材が目的では無いので割愛するが、そもそも同基地の概要はどのようなものか。HPによれば、下記の通り。
基地概要
○基地の総面積
約313万㎡(東京ドーム約67個分)
○滑走路
長さ:2,550m 幅:60m
○隊員数
基幹隊員約2,600名 学生(ピーク時)約800名
○浜松基地のあらまし
浜松基地は、静岡県西部の中心的な都市、浜松市に所在します。航空自衛隊で初めて航空団が置かれるなど、航空自衛隊発祥の地としての歴史を持ってます。基地設立の頃から、パイロットや航空自衛隊の主要装備品の整備員などを教育する部隊等が置かれたことから、現在でも航空自衛隊における教育の中心地としての役割を担っています。
筆者は、大学院生以来、2度目の訪問。
今回は偶然にも現役自衛官の方による説明ガイド付きということで、基地の歴史はもちろん(少し踏み込んで、防大生の任官拒否や弾道ミサイルへの対策等々…)諸々マスコミ報道についてもお聞きすることができた。(あくまでも雑談)
以下、写真多めなのでキャプチャと共にご覧いただきたい。
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昨今、北朝鮮によるミサイル等からどう守るか、まさに喫緊の課題
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特に、左手前のブルーインパルスコーナーは人気
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他にもブルーインパルスの歴代機体の展示や飛行VR体験、制服を着て写真撮影ができるコーナーもあり、家族連れで賑わっていた。
ご案内いただいた際に、今の防衛・外交政策などについてもお話(雑談)することができたが、今、〝防衛増税〟や〝台湾有事〟に備えてなど、私たちの生活につながりかねない事象が多く報道されている。その最前線にいるのは、現役自衛官の方だ。
ハラスメント問題、労働環境等々、組織内で解決すべき課題があるのは事実だが、まずは知ること・考えることから、我が国の防衛(政策)を考える契機となるのではないか。その点で広報館の役割は大きい。
いずれにしても、政府が何のための予算か、何のための防衛かを国民への丁寧な説明は必須だ。
☆丁寧に説明をしてくださった現役自衛官の方に感謝
余談だが、筆者は半田滋さん(防衛ジャーナリスト)のお話をよく拝聴している。いわゆる“爆買い”する武器は、果たしてどういった意味を持つのか?これはまた別に考えていきたいと思う。
おまけ;お昼はこちらで…
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浜松の老舗うなぎ藤田さんにて
浜岡原発で考える我が国の原子力政策の行方
続いては、中部電力浜岡原子力発電所(以後、浜岡原発)。
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遠州灘と風力発電は圧巻
立地するのは、静岡県御前崎市。灯台や、御前崎ロングビーチが有名だが、ここは、1F事故時、1、2号機は運転を終え、廃炉に向けた作業に入っていた。3号機は定期検査中で、4、5号機は稼働中であった。そして、2011年5月から政府要請により全炉が停止、現在に至っている。
中部電力は、「福島第一のような事故を起こさない」とし、新規制基準を踏まえた対策(例えば、津波対策として防潮堤を22mにかさ上げするなど安全対策を強化)をこの間、講じてきてはいるが、川勝静岡県知事は、使用済み核燃料の処理方法が確立されていないことなどを挙げて「再稼働できる状況にない」との認識を示している。
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その他にも、「使用済み燃料プールの空き容量は1008本分しかなく、仮に再稼働すれば、わずか1、2年で埋まることや、津波対策工事が完了していない」旨、言及されており、政府のGX〝原発再稼働〟政策とは逆行している状況だ。
とはいえ、「早く再稼働を」という声もあり。声は様々…
【ご参考;浜岡原発の再稼働をどう考える 静岡県内 全自治体トップ NHKアンケート】
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今回訪れたのは、隣接する「浜岡原子力館」。
最大の目的は、実物大原子炉模型や実物大防波壁模型、中央制御盤、燃料模型を見るため。筆者はバリバリの文系、ここ1~2年で初めて原発(原子力)政策に関わることとなり、恥ずかしながら、机上と頭の中で〝原発のイメージ〟を考えていた程度…。
実物大を見れたことで、改めて原発という巨大機械(システム)・1000万点にのぼる部品の数、それを点検するにも膨大な労力と時間が割かれることを再考させられた。こちらも写真&キャプチャをご覧いただきたい。
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発電に係る体験コーナーもありわかりやすい
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2メートルもあるのか、それがわずか?なのかどうか…
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本当に巨大システム
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下記の燃料集合体の大きさとなるとまた別
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浜岡原発における各設備詳細もご参考ください。
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参考;FoE Japan「Q&A 原発の運転期間の延長、ホントにいいの?」
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1F事故で、放射性ヨウ素やセシウムが放出され周辺の住民に健康リスクをもたらしたことへの教訓からも重要
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運転者の養成・訓練も重要
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事故はもちろん、核防護対策も問われる。
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そして地震大国である我が国が原発をその災害から守れるのかどうか…
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写真(展示)を見て、どのような印象を抱かれるだろうか。
原発というシステムを初めてみると、圧巻だという方も多いのではないだろうか。
とはいえ、1F事故後の今、どう考えるかが重要だ。
原発について、賛成・反対、さまざまな意見があるのは事実。国は、“国民の理解”を得ない限り政策を進めてはならないことに変わりはない。
最後に、近隣地域にお住まいの方の“声”をお届けする。
Q.福島原発事故前と事故後、あなたの原発への意識は変わりましたか?
A: 変わりました。
⚪福島の原発事故由来のセシウムなどの放射性物質の降下で、静岡県の一部では椎茸やお茶などの農作物に実害があったと思います。風評被害ではなく農家には実害だったと思います。風評被害というのは何となく危険そうだから購入したくない…という心理面の被害だと思います。福島県や東北では農業、畜産、水産業が長期間、厳しい状況に置かれました。
⚪1番心配なのは、もし浜岡が稼働中に同じような事故を起こしたら、避難できるのか…という懸念です。
⚪原発については、小学生の頃のチェルノブイリの原発の印象が強かったので、原発は危険で、一度事故を起こすと、あらゆる国や地域に放射性物質が降り注ぐだけでなく、原発周辺ではその土地に人が居住できなくなる、農作物、水産物への汚染。そして遺伝子の変異、甲状腺がんなど健康被害への懸念…が自分自身にも起こるかもしれないという危機意識です。
Q浜岡原発は、1976年(1号機;廃止措置中)から数えて、47年経過。立地地域の方にとっては、身近な存在であるとは思いますが、これからも原発を稼働していくべきと思いますか?そうであればその理由も教えてください。
A: 稼働すべきではないと考えます。
⚪原発の設計段階で使用年数がmax40年と設定していたとしたら、事故のリスクが高まるだけです。
⚪福島の事故後の廃炉はまだまだ終わりませんし、本格的な事故の検証がなされてないのに、新たなリスクを日本中に広めていいわけがない。
⚪稼働すれば電気料金が安くなるのはまやかしだと思っています。原料の仕入れから廃炉までコスパ悪いと思います。ウランを採掘するのも環境破壊だと思うのと、使用済み核燃料の貯蔵スペースも残り僅かしかないとしたら、その後はどうするのでしょう…。
⚪もし津波が想定外の高さになって、防潮堤を超えた場合どうなるのか。使用済み核燃料は安全なのか。心配が尽きません。
県や市では避難計画という物がありますが、XX市民全員が地震で原発事故に遭った場合、YY県に避難できるはずがありません。災害後の避難計画は現実不可能です。UPZの市では、原発事故が起きた場合、それぞれがどの県に避難するか、それすら知らない市民が大半だと思われます。
Q.町(地域)にとって、原発は必要だと思いますか?
⚪不必要です。廃炉にすべきだと思います。
中部電力の企業努力もあると思いますが、原発が稼働していなくても停電したことはまだありません。しばらくはガスや水力など原子力以外の従来の発電を使えば良いと思います。ガスも火力も事故があっても、原子力ほど事故の影響は少ないはずです。
⚪リニアができたら大量の電力が必要とされます。まさか浜岡原発を稼働させたいと思っていないか?という心配もあります。これは近隣市に居住しているからこそ感じる事です。原発が安全な物なら反対はしませんが、福島の原発事故はそうではなかったからです。みんな故郷を追われてしまったのです…
⚪将来的には、環境破壊に繋がるソーラーパネル以外の自然エネルギーを用いた電力に切り替えていけるのが望ましいと考えます。
筆者の古いご縁の方からお話を伺うことができた。感謝。
(ご参考)
・NHK「政府の停止要請から10年 浜岡原発をどう考える」
・朝日新聞「動かない浜岡原発 東日本大震災から10年の道のりは」2021年3月9日
・東京新聞「運転60年超の原発、世界で実例なし 設計時の耐用年数は40年 配管破れ、腐食で穴...トラブル続発」、2022年12月9日
リニアのこと、桜エビのこと
2027年を開業目標にしている、リニア中央新幹線。
品川から名古屋間の286キロをおよそ40分で結ぶ巨大プロジェクト。JR静岡駅構内には、〝社運〟をかけてでも進めようとしている広報物が散見。
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計画は、1973年から現在に至るが、静岡工区のトンネル工事で出る地下水が、山梨県と長野県に流れ、大井川の流量が減少する可能性やトンネル掘削で生じる残土(発生土)の置き場についてなど、多岐に亘る課題が生じている。
主には、知事の発言等が報道されることは多いが、実際にその開通予定地に住んでいる方が、工事が進むにつれどのような想いを抱かれていたか。また違う事象が出てくる。(ダンプカー往来による騒音問題、賛成・反対派の分断etc…)
私たち(ほとんどの国民)は、リニアができたら便利だ!という想いがあるかもしれないが、ぜひ、下記の本を手に取っていただき、その背景を考えていただきたい。
参考)信濃毎日新聞社編集局『土の声を「国策民営」リニアの現場から』(2023)
他にも、サクラエビの水揚げ量が減少し、生態系への懸念が指摘されてきた。
富士川水系の濁りがその一つに挙げられるが、環境・生態系への影響も鑑みられてるのか…!?これはまた後日。
(ご参考)
・NHK「【まとめ】静岡県リニア中央新幹線 なぜ工事は進まない?リニア・南アルプスのトンネル工事を巡る静岡県とJR東海の争点 川勝知事の対応は」(2023年6月8日)
最後に
(これでも)社会科教員であった筆者。お茶からみる産業や地域経済について考えることはした。大学院でもそんなことを研究したが、今改めて思うことは、(当然だが)国の政策により、便利になる反面、環境への打撃等も大いに孕んでいる問題があるということ。そのために、まずは見る・知ることは本当に大切。
今回のnoteは記事というより、コラムだがお読みいただいている皆さんもぜひご自身の縁の地で社会・環境問題を考えていただければと思う。
記事執筆にあたりご縁をいただいた皆様に御礼申し上げる。