PFAS汚染を追って〜明石川流域、10万ngという“脅威値”
“基地由来のPFAS汚染”という表現が変わってきたと感じる昨今。
いわゆる工場ではなく、“産廃由来”の汚染が岡山吉備中央町に続き、兵庫県明石川流域でも発覚した。
急遽、勉強会が開催されるという情報を耳にし、現地調査を兼ね新神戸へと向かった。
汚染発覚は、県議の気づきから
13日、新神戸から地下鉄で約30分、西神中央駅へ。
ショッピングモールにマンション群など整備された綺麗な駅周辺。そこで待ってくださっていたのが、汚染発覚を明らかにした丸尾まき兵庫県議だ。
丸尾さんは、尼崎市議(4期)を経て現在県議5期目。有機野菜を販売する八百屋さんを開業し、一貫して環境問題に取り組んでおられる。
(丸尾さんの詳報はこちら)
丸尾さんが明石川の汚染に注目したきっかけは、全国のPFAS汚染問題と血中濃度測定の第一人者である小泉昭夫先生の(京大名誉教授)勉強会に参加したことから始まる。
大阪摂津での工場由来のPFAS(特にPFOA)汚染については、Tansaの報道で詳報されている。現在は、遮水壁の設置等で対策にあたると言っているが、実際はどうか。昨年筆者も見てきたが、目に見えないPFAS汚染は深刻だ。
それでは早速、現地調査をご覧いただきたい。
橋〜川〜汚染源、“素人でもわかる汚染源特定”
はじめに、丸尾さんご自身が独自に活動費を捻出し、実施した血液検査結果を見ていただきたい。
検査人数は少ないとはいえ、米アカデミーの指針(20ng/mL)を超えていた人や多摩地区に匹敵する点からもわかるように、汚染は深刻、対策は急務だ。
丸尾さんの車に揺られ、約15分。
初めに立ち寄ったのは、堅田橋。ここを流れるのが明石川だ。
同地は、今年2月の神戸市調査で、PFOAが1300ng/L(PFOSは12ng/L)検出された。(神戸市調査)
実際に見てみると、上流からの水流は弱く、風で水面が押し戻されているようだった。
なお、2019年度の河川調査では、明石川は105.4ng(水道取水口)。明石川を水源とする明石川浄水場のPFOSとPFOAの合計値も19年度で46ng/Lを計測している。
続いて、さらに上流へ車を進め、明石川へ流れる高濃度を検出した地点へ。
前述の産廃処分場からの排水が流れ、10万ng/L・210ng/Lが記録された場所だ。
水の流れは多くはないが、微かに泡が確認された。これがPFOAなのかはわからないが、異常値であることに留意いただきたい。
ここで水が“合流する”ことで、明石川、そして堅田橋と下流へ、そして海へと汚染は広がる。
ちなみに、同地近くの藤原橋(マップ上で赤く渋滞しているあたり)でも、PFOA66ng/L(昨年11月)、52ng/L(2月)が検出されている。また、近隣の田んぼの用水からも190ngという結果も出たそう。同地は、野菜の産地ともいうこともあり、土壌・野菜への汚染拡大も懸念される。これではまるで、摂津の事例と同じだ。
以下は、水路よりも若干上流部の明石川の様子だ。
桜が季節を感じさせるが、ここより上流地点での高濃度検出は確認されていないので、産廃処理場からの水?地下水?土壌?が原因ではないかと推測されている。
【動画ダイジェストはこちら】
丸尾さんが車からおもむろに取り出された、バケツと少し曲がったクリアファイル。
これで、水質調査にあたられたとのことだ。
「素人でも、辿れば汚染源はわかる」
丸尾さんのこの言葉を、行政はどう受け止めるか。
財源、人、検査技術など、市民に丸投げであってはならない。
汚染源については、“あのあたりだ”という目星はついているという。
だが、断定はできないので、ここでは詳報はしない。
確かに、産業廃棄物工場は汚染源の上流にあった。
PFAS関連の処理はされていないと想定されるが、実際はまだ未知数。
さて、こうした時対策はどうするのか?
行政は動くのか?
しかしながら、汚染と血中からの高濃度はわかっているという事実は揺るがない。
地域に住むみなさんの声
午後からは、明石川の水が危ない!実行委員会主催の勉強会に参加。
同会は、昨年、11月に発足し、丸尾さんらと共に、PFAS問題について知見を深め、これからの世代へ汚染を残さないために精力的に活動されておられる。
会場には、約100名の参加者、さまざまな意見が寄せられた。
冒頭、香川しんじ神戸市議がご令嬢が明石川で遊ぶ写真を投影された。
コロナ禍の頃というが、汚染を知った今、非常に心配だと仰っていた。
香川市議は、議会でも市の対策について質問をされ、地域の方とも連携、尽力されておられる。
続いて、講師の小泉先生。この間、幾度もご助言等いただいてきたが、お会いするのは初めて。気さくな先生だが、問題の本質はセキュリティ・クリアランス法案にも及び、企業の社会的責任はもちろん、自治体任せの対策ではなく、国が率先して対策にあたるべきと強くご指摘。
PFASの環境汚染は、社会的要因。
半導体製造が増えると、PFAS関連物質の汚染も広がる可能性がある。
IARC評価で、アスベストやダイオキシンと同レベルの評価となった
しかしながら、内閣府食品安全委員会は十分な検討・規制をしておらず。論理破綻をしているのではないか。
吉備中央町の事例は、世界で最高レベルの汚染かもしれない。
780ng/L飲んでいたとも考えられなくない。
6120万円の予算をつけて血液検査の実施に至ることは、町の英断であると。
また、先生は治療薬も検討していると。
東京でも血液検査ができる(測れる)拠点を作ったという。
血液検査が増えてきた分、迅速な医療体制を“市民”が先行して実施していることは
明らかだ。
米国基準並みに動くべき。
「土壌汚染対策法」の対策もこれから強く求められると。
続いて登壇されたのは、丸尾さん。
この間の明石川流域の汚染と血液検査についてのご報告。
明石川の取水が大きい浄水場の方が血液の値が高かった。
明石川の水は農地にも使うし、最終的には海に流れ、海産物にも影響が出るのではないか。その点で、いずれ、人間に戻ってくるのではないか。
産廃処分場内の汚染源を見つけ出し撤去すれば、汚染は止まるはず。
=PFAS土壌調査をすれば“誰でも”わかるはず
最も現実的なのは、事業者とともに汚染源対策交渉に入るべき
その他、環境省等国との連携・補助金制度などを創設すること
処分場からの排水データの公表などの提言・要望がなされた。
続いて、パネルディスカッション。
登壇されたのは、香川市議、小泉先生、丸尾さんに加え、近隣にお住まいの3名。
以下、コメント概要。
質問は、一人1分と言われていたものの、終了時間ギリギリまで飛び交った。
小泉先生は、「血液検査は、国あるいは自治体の責任でやるべき。公共の場で起こっている」と最後に警鐘された。
“永遠”の汚染を止めるためにできることは?
政府答弁や各種資料を見ても、PFAS関連物質の製造はしてないのに、なぜここまで汚染が深刻なのか。
それは、言わずもがな“フォーエバーケミカル”であるからだ。
米国の基準がこの度厳しくなったが、日本は相変わらず追従型なのか。
そして、環境省所管とはいえ、内閣府食品安全委員会や予防・健康管理を責務とする厚生労働省はどう対応するか。
我が国には、PFAS対策の“司令塔”が存在しない、対策の連携が必須だ。
これからの世代、環境を守るため、PFAS対策の歩みをとめてならない。
(最後に…余談ですがこちらの文献に小論を掲載したので、ご参考いただけば…)