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PFAS汚染を追って〜静岡市清水区〜
12月13日、第212臨時国会が閉会。“政治とカネ”問題で、与党の腐敗が露呈し、今本稿を書いているときにも事が動きそうな予感だ。
話はそれたが、ここ1年くらいで全国各地の河川等でのPFAS高濃度汚染が明らかになり、国会で取り上げられる機会が増えた。
環境省でもPFASに対する総合戦略検討専門家会議をこれまで4回開催し、国も一定の対策への姿勢は示しつつあるものの、道半ば。
他方、1日には、WHOのがん専門機関である「IARC(国際がん研究機関)が「PFOAの発がん性は確実」と見解を発出。今夏に摂津に行った頃と比べると、対策は世界で前進しつつあるが、汚染拡大を食い止めることは急務であることに変わりない。
閉会後の翌14日、静岡市清水区へ足を運んだ。
※参考)大阪・摂津に行った記事はこちらから
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清水区での汚染はいつから?
静岡県と聞いて思い浮かべるのは、富士山。
清水といえば、ちびまる子ちゃん…?
歴史を紐解くと、東海道五十三次の18番目の宿場であった江尻宿から江戸時代の浮世絵師、歌川広重が描いた、「江尻 三保遠望」が有名。また、清水次郎長が名を馳せ、“アウトロー”として当時の清水を動かしていたことも。
今ではサッカー清水エスパルスのホームタウンで、静岡市全体人口676,477人のうち、清水区民は223,185人という規模。マグロ等水産物の名産地という街だ。
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筆者は、人生の半分は静岡で過ごし、馴染みのある地だが、そんな清水で、この問題の報道がで始めたのは、今秋10月頃と記憶する。それは、とある工場の従業員を対象とした血液検査でPFASの一部であるPFOAの高濃度検出が発覚していたことに起因する。
ジョン・ミッチェル氏の著書『永遠の化学物質 水のPFAS汚染』によれば、1965年開業の三井・ケマーズ フロロプロダクツ株式会社(米デュポン社から2015年7月1日付で分社化・独立)の工場でPFOAを使用したテフロンが製造されていた。
同著によれば、1981年9月にデュポン本社が米国の労働者の血液検査の結果を清水に送り、曝露確認の為に清水工場の労働者の血液検査を要求していたとのこと。
PFAS問題を長きにわたり取材されている諸永氏「PFAS高濃度を従業員血液から検出の清水工場「今後のヒアリングも検討」静岡市長」の記事を引用するが、その数値は凄まじい。
約40年前から米国側と三井は、汚染と健康影響を把握していたにも関わらず、今まで“ひた隠し”にしていたのだ。
清水工場の労働者の血液検査が1981年から行われていた。2000年から2010年に行われた4回の結果は、被験者のPFOA血中濃度を低いほうから順に並べたときに真ん中にくる「中央値」が1670〜3000ナノグラム(血漿1ミリリットル)。個人別の最大値は8370ナノグラムで、全米アカデミーが「健康への影響が懸念される」とする20ナノグラムを当てはめると418倍にあたる。
こうした事態を受け、静岡市と三井が対策に向かおうとしているのが現在地。住民の方の不安を払拭し、健康調査などをするかが問われている。
汚染源を上(空)から辿る
今回の視察は、筆者が師匠と(勝手に)慕うまさのあつこ氏から静岡新聞の坂本昌信記者をお繋ぎいただいたことで実現した。
坂本記者は、清水と富士市の間を流れる富士川と河口口周辺・駿河湾で取れる名産桜エビの異変を追って「課題解決型報道」をされてきた方。
坂本さんにアテンドいただき、各所へ赴いた。
ご参考)地方紙が見せた調査報道の矜持、記者が語る静岡新聞「サクラエビ異変」の裏側【川から考える日本】東京に搾取された富士川とサクラエビの関係
視察は、名勝指定されている日本平から。
汚染が広がっていると報道された三保半島地区と工場等の位置関係を確認した。
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桜エビと生シラスは駿河湾の宝石といえるほど、美味。
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船が見えるが、湾は、伊豆半島の西側へと接している。
写真、赤丸で囲ったあたりが三井・ケマーズのフロロプロダクツ工場。その先が駿河湾。
汚染は、工場付近の住宅街の排水路や井戸から確認されているが、汚染を食い止めないと住宅地にも広がっていくのではないかとの懸念がされている。
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見た目は綺麗…工場・雨水ポンプ場付近の水
続いて、工場付近へ。
半島の先の方にあり、道すがら造船工場があるなど歴史も垣間見える。
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工場前を通る車はトラック等、関係車両ばかりなので、我々の姿は逆に目立ったかもしれない…
工場門のほぼ向かいには、工場からとされる水の排出口がある。現在、静岡市の職員の方が計測をしているとのことだが、この目と鼻の先にある三保雨水ポンプ場で、国の指針値の220倍となる1万1000ng/LのPFASが検出されたことが明らかになったと視察前日の13日に報道された。そうしたこともあってか、テレビクルーも取材に来ていた。
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写真をご覧いただきたいが、一見すると非常に綺麗・透明度の高い水だ。
しかし、ここにPFAS(PFOA)が含まれ、ポンプ場にて浄化処理されるという。
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ポンプ場は、静岡市の管轄ということもあり、市の対策も今後問われる。
ちなみに、ポンプ場の先は、駿河湾(=海)。海水浴場もあり、シラスの漁場でもある。
ということは、高濃度汚染が続けば、海水浴場で遊ぶ子どもたちや“汚染されてしまった”シラスを口にする人が、PFASを口から摂取し、体内曝露につながる恐れがあるということだ。
すなわち、食物連鎖も懸念され、体内中に蓄積される“毒”に私たちの体が知らないうちに蝕まれることに。だからこそ、管理・製造者は、早急に対策を講ずるべきだ。
現在、工場ではPFOAを製造していないというが、同敷地近くの南西付近のマンホールで高い数値が検出されたという。長きにわたり滲み出たものなのか、それとも今でも排出されているものなのか、真実はわからない。
清水工場においてフッ素樹脂製造時の重合助剤としてPFOAを1965 年より使用しておりましたが、2013 年 12 月に使用を中止し、以後、使用しておりません。
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水を急に飲めなくなるという感情
その後、ご厚意で、工場から直線距離200メートルほどの距離にお住まいの方のお話を伺うことができた。
今回の汚染発覚まで、PFASがどのようなものかは知らなかったという。三保地域では、以前から三井と住民間で連絡会があったとのことだが、改めて「PFASに係る三者連絡会」が設置された。
今後の議論が注目されるところだが、同地における三井は〝身近な〟企業であったようだ。
ご自宅に設置されている井戸を見せていただいた。70年以上前のものとのこと。
飲用利用は最近されていないが、周辺にも井戸を所有されている方がおられ、農作物の栽培等で使用していたこともあったという。
しかし、井戸の水は、国の定める暫定目標値(50 ng/L)の5倍・250ng、畑では10倍の500ngが計測され、汚染の蓄積が明らかになった。
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お話を伺った際、「靴べら」を見せていただいた。
いたって普通だが、柔らかく・軽いものだが、これこそテフロン加工されたものである。
地域のお祭りで三井が配っていたとのことだが、日常生活に“溶け込む”PFASの危険性は、この時にはもちろん知る由もない。
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また、三保の自治会を対象に、静岡市による説明会も行われ、問題意識は共有されてはいるとのこと。とはいえ、急な高濃度検出の発覚で、〝水が飲めない!〟“水を飲むな!”という状況…。
・身体への影響の解明、血液検査等バイオモニタリングの早急な実施。
・科学的検証と汚染を食い止める具体策を講じてほしい
と強く仰られた。
また、水の対策をしたとしても、工場から排出される煙で大気、ひいては土壌汚染にも繋がるのではないかとのご指摘。排煙が夜寝ている暗闇の中で出されているようなことを想像するだけでも恐ろしい。
近隣には、学校も点在する。しかし、現在の日本において、PFASの大気と土壌の規制値はない。それゆえ、広範・具体的、実効性ある対策を講じ、この事象を風化させず、データ集積も急務だ。
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摂津も同様だが、水は長期に染み渡るもの。継続した対策が求められる。
三井は、今後、汚染を止めるため遮水壁等を設置するというが、どうか。
以下、対策に係る項目をご参照いただきたい。
1. 短期的対策
① 静岡市三保雨水ポンプ場内への浄化設備の設置による PFOA 除去
② 静岡市雨水幹線及び弊社所有暗渠の補修による地下水対策
③ 弊社敷地内の浄化設備 1 号機稼働(12 月 18 日稼働予定)
④ 弊社工場前溝渠の浄化
なお、上記①、②の市所有施設については、関係当局のご指導に基づき実施します。
(下記2.の中長期対策①においても同様です)
2. 中長期的対策(検討中)
① 静岡市雨水幹線内の流水の浄化
② 弊社敷地内の浄化設備の増強
③ 弊社敷地内での雨水浸透抑制対策(コンクリートによる表土の被覆)
④ 弊社敷地境界への地下水遮水壁の設置
環境を守るための優先順位とは?
本来ならはじめに紹介すべきだが、三保半島には、三保松原(平成25年6月富士山世界文化遺産の構成資産に登録)がある。
富士山と駿河湾、その絶景を見に平日にも関わらず多くの観光客の方がいた。
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しかし、この松を維持するには、大量の薬剤が散布されてるという。
それもあってか、近隣の神社の手水舎では、水を昔からあまり使用してなかったという声もあったと坂本さんは言う。
見方を変えれば、PFAS汚染発覚前から、同地では水に対しての危機意識があったのかもしれない。
環境、景観と私たちは日々の営みにおいて価値を見出す点は違えど、何を優先するか。
PFASも生活において便利なものを編み出した結果、負の産物となってしまった。
良いものを追求するだけでいいのか。その代償を鑑みた上で、未来を守るべきだ。
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政府は、自治体は、市民の声をどう受け止めるか
冒頭に示したように、“発がん性”が改めて指摘されたPFAS。
国はもちろん、自治体、そして扱う事業者の対策は待ったなしである。
PFASの代替とされるC6という物質があるが、安全かどうかは疑問だ。
「ペルフルオロヘキサンスルホン酸」(PFHxS)についても同様で、先月28日に製造や使用を原則禁止にされたとしても、これまで使用された“蓄積・堆積分”の影響は免れないだろう。
12日には、国がエコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)において、PFASと喘息の関連性に関する研究結果を発表した。
結果は、「明確な関連は見られなかった。」ということだが、こうした研究の積み重ねも踏まえ、人体への健康影響評価・検査体制の構築が早急に求められることには変わりない。
WHOや米国追従型ではなく、政府主導の対策をすべきではないだろうか。
いのちの水を守る戦いは、始まったばかりだ。
余談:病院移転ー老朽化・津波対策…地域医療の課題
視察終了後に、 JCHO 桜ヶ丘病院(独立行政法人 地域医療機能推進機構 Japan Community Health care Organization)の移転予定地にも足を運んだ。同病院は、現在老朽化が進んでおり、清水駅東口への移転が決まっているが、津波への対策等も懸念されている。
地域医療の抱える課題はさまざまにあるが、アクセスのしやすさという点であればメリットがあるが、慎重に考える点も多々ある。これはまた別の機会に記す。
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☆今回の視察において、改めて坂本記者と地域住民の方のご厚意に感謝いたします。この場をお借りして、御礼申し上げます。
(参考記事)
・坂本記者、静岡新聞記事
・諸永裕司氏、各noteの記事