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【東京大学2020年度前期入試数学(理系)第3問】標準的な面積問題、でも…

今回は微分・積分の問題です。正直、離散数学と比べてこの手の数学を扱う機会は乏しいのですが、そんな私でも簡単に方針が立つ問題でです。おそらく受験生も多くは何事もなかったかのように最後までたどり着くと思います。

しかし、答えにたどり着いた受験生の何割が減点を食らっているでしょうか。しかも大きな減点を食らっているのではないかと想像します。

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東京大学安田講堂
2016年12月24日、 Kakidai撮影、Wikipediaより

[問題] -1 ≦ t ≦ 1 を満たす実数 t に対して,
       x(t) = (1 + t) √(1 + t)
       y(t) = 3(1 + t) √(1 - t)
とする。座標平面上の点 P(x(t), y(t)) を考える。
(1) -1 < t ≦ 1 における t の関数 y(t)/x(t) は単調に減少することを示せ。
(2) 原点と P の距離を f(t) とする。-1 ≦ t ≦ 1 における t の関数 f(t) の増減を調べ,最大値を求めよ。
(3) t が -1 ≦ t ≦ 1 を動くときの P の軌跡を C とし,C と x 軸で囲まれた領域を D とする。原点を中心として D を時計回りに 90° 回転させるとき,D が通過する領域の面積を求めよ。

この問題の中で (2) は (3) のために必ず調べることなので、特になくてもいいかなと思いますが、あっても邪魔にはならない、無害な誘導問題だと思います。

(1) は単に代入すればいいだけの話です。条件の範囲で 1 - t ≧ 0 かつ 1 + t > 0  であるので

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が得られ、2/(1+t) が単調に減少するので、y(t)/x(t) も単調に減少します。

ここで、y(t)/x(t) を微分するのは面倒です。これで十分でしょう。

g(t) が単調減少 ⇔ g'(t) ≦ 0 と考えるのは病気です。しかも重症。

仮に g が微分不可能ならどうするのでしょう?単調減少の定義をよく読んでおくといいでしょう。

(2) も単に計算すればいいだけです。f と f' を計算すると次のようになるので( t ≧ -1 なので 1 + t ≧ 0 であることに注意)、

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増減表を書くと次のようになります。

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よって f(t) は t = 1/2 のときに最大となり、最大値は f(1/2) = 3√6 / 2 となります。

(注) f(t) の代わりに g(t) = {f(t)}^2 = (t + 1)^2(10 - 8t) を微分する方法もあります。このとき、g'(t) = (t + 1){ 2(10 - 8t) - 8(t +1) } = 2(t + 1)(6 - 12t) となります。

(3) ですが、まず P の軌跡を描くと次のようになります。これを見た方が分かりやすいと思うのでアップしてますが、実際にはどういう図形であるかを解いている間は明確ではないかもしれません。

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しかしながら、この図形が分からなくても (1) と (2) によっていろいろと調べられていて、t が増加するにしたがって y(t)/x(t) が単調減少している一方、f(t) は t = 1/2 までは単調増加、それ以降は単調減少しています。

したがって、この図形を原点を中心に 90° 回転させると、次のようになります。

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黒っぽいけど実は青の縦線の領域が A1、濃いピンクの縦線の領域が A2、緑色の扇形が A3で、求める面積は A1~A3 の3つの領域の面積の合計となります。また、A1 と A2 を合わせると D になります(上の図だと D が分かりにくい?)。A3 は半径 3√6 / 2 の 90° 扇形になります。

(注) A1 は y ≧ √3 x である D の領域、A2 は y ≦ √3 x である D の領域を時計回りに 90° 回転させた図形です。

実際に上記のようになることをきちんと説明しておきます。

θ(t) = arctan(y(t)/x(t)) とおくと、-1 < t ≦ 1 の範囲で θ(t) は単調減少関数であり、0 ≦ θ(t) < π/2 となります。P'(x(t'), y(t')) とします。このとき、次のことが言えます。

(1) -1 < t < t' ≦ 1/2 のとき、θ(t) - π/2 < θ(t') < θ(t) であるので、O を中心に時計回りに線分 OP を90°回転させると OP' を通過しますが、逆に OP' を時計回りに90°回転させても OPを通過しません。また、f(t) < f(t') であるので OP' を通過する線分はすべて長さが短いです。

(2) 1/2 ≦ t < t' < 1 のとき、θ(t') - π/2 < θ(t) - π/2 < θ(t') であるので、P, P' をO を中心に時計回りに90°回転した点を Q, Q' とすると、O を中心に時計回りに OP' を 90°回転させると OQ を通過しますが、逆に OP を90°回転させても OQ' を通過しません。また、f(t') > f(t) であるので、OQ を通過する線分はすべて長さが短いです。

以上のことから、上記の図形が出来上がります。

D の面積を求めることになりますが、x(t) は単調増加するので次のように計算できます。

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ここで、積分式の t √(1 - t^2) が消えているのは奇関数だからで、最後の積分式は半径 1 の半円の面積と同じです。

さて、これに A3 の面積の π/4 を加えることで、求める面積は (9π/4) + (π/4) = 10π/4 = 5π/2 となります。

さて、この (3) ですが、どこまでどういう風に説明すれば十分なのか、なかなか悩ましいところがあります。

特に、A1 と A2 の部分が合わさると D になるという部分ですが、上記の通り、(1) と (2) が強烈に効いているのをどのくらい把握できているでしょうか?

私が採点者の立場ならば、この点に関して何も言及していない答案は (3) に関して 50% 程度しか点を与えないと思います。

答案の多くはおそらく、簡単には触れているけれども微妙な出来であったような気がします。それでは減点は必至でしょう。この問題は方針は簡単なだけに、議論の厳密さが合否に影響を与えた可能性があるかもしれません。

その意味で、(3) は問題は見た目よりもはるかに難しい問題だったのではないかと予想しています。

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