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【灘中学校2020年度入試(1日目)算数第11問】灘の受験生は大変だなぁ…

毎週金曜日の投稿が1日遅れましたが、いよいよ1日目のラスボスの登場です。灘中学校2020年度入試1日目算数の第11問を取り上げたいと思います。展開図の問題です。

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灘中学校・高等学校
2011年8月28日、Saoyagi2撮影、Wikipediaより

[問題] 展開図が下の図(原文では右の図)のような立体の体積は,すべての面が 1辺の長さが 1cm の正三角形からなる三角すいの体積の (ア  ) 倍です。

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ただし,印●をつけた角の大きさはすべて 60° です。[問題終わり]

この問題は中学入試としては難問中の難問なのは間違いないでしょう。ということで、この問題が1日目の算数の最後の問題になっているのは妥当です。というか親切です。笑

ところで、合格者でこの問題を解く子ってどのくらいいるんでしょう?気になるところではあります。

難しさは次の2点。

・展開図を頭の中で組み立てることができない。
・立体は頭の中に浮かんでいるけど、(1辺が 6cm の正四面体から切り取られる部分の)体積が分からない。

(灘中学校の受験生ではなく)一般にはおそらく最初の段階で断念する人が多いだろうと思います。大人であっても。

苦手な人にとって展開図は簡単なものであっても頭の中で組み立てるのは難しいです。例えば、立方体(さいころ)の展開図、どことどこが重なるかが分からない人は案外多い。

娘は立方体の展開図の問題では塾で習った方法を使っていましたが、頭の中で組み立てられる人間にとってそんな方法はゴミ箱にポイです。頭の中で組み立てられるから必要ないのです。

この問題は残念ながら頭で組み立てることでしか解けないと思います。少なくともこんな展開図を事前に準備するなんて無駄すぎるので。

ということで、この時点で解ける人は限られてきます。その意味で落とす目的の入試では適切なのかもしれません。

しかし、この手の空間認識能力って果たして算数・数学の能力なのでしょうか?もちろん、あって損はないのですが、なければ算数・数学ができないのか?

私はそれに対して否定的です。

現に娘は上記の通り中学受験当時、空間認識能力は高くなかったですが、算数の能力は高かったです。少なくとも早稲アカの某NNで1位を取れる程度には。必ずしも必要ではない。

もっとも、もし「空間認識能力が高い⇒数学の能力が高い」が言えるのであれば、逆が言えなくても中学校にとって空間認識能力が高い受験生を取ることは立派な理由になります。戦略として必ずしも間違ってはいない。

(数学の能力が高い受験生の一部を取り逃す可能性はあるわけですが、確実に数学の能力が高い受験生を取ることができるので。)

灘中学校はそういう理由でこういった展開図の問題を出しているのかもしれません。

批評はここまでにして解説に移りますが、ハッキリ言って、今回の問題に特別な手法があるわけではありません。その意味でつまらない問題です。

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まず展開図を組み立てると上図(左)のようになります。

正四面体は 1辺が 6cm で、そこを青い線で切り取った図形が出来ます。

切り口の説明をすると、奥の辺の両端点から奥の辺以外の辺に沿って 2cm のところを起点に、奥の辺に平行に V 字で切り込んでいます。V 字の先端部分は手前と下の三角形の重心を結ぶ線分になります。(説明が難しい。苦笑)

ちなみに、手前の正三角形を見ると、切り取られている部分は辺の長さが 2cm のひし形になっています。

今回の基準は 1辺が 1cm の正四面体の体積で、それの何倍かが問題なので、ひとまず 1辺が 6cm の正四面体の体積を求めておくと、6 × 6 × 6 = 216 倍となります。

あとは、切り取られる部分の体積を見積もることができるかです。

切り取られる部分から赤い正四面体(1辺 2cm)を切り離して、手前の青い正三角形部分に貼り合わせると、上図(右)になります。

中学入試ではこういう図形をくみかえることをよく行います。その意味では典型的です。立体図形ゆえに殆ど頭の中で行わなければならないのが難点ですが。

ちなみに、この図では分かりにくいかもしれませんが、この図形は平行六面体です。平行六面体の体積の求め方は四角柱と同じで、底面積 × 高さとなります。

今回の場合、底面は 1辺が 2cm の正三角形 2個からなるひし形、高さは 1辺が 6cm の正四面体から 1辺が 2cm の正四面体を取り除いたときの高さになるので、1辺が 4cm の正四面体の高さと同じになります。

ということで、1辺が 1cm の正四面体の体積と比べると、切り取られる部分の体積は
・底面は 2 × 2 × 2 = 8倍
・高さは 4倍
・すいと柱の違いで 3倍
ということで、8 × 4 × 3 = 96倍になります。

したがって、展開図から得られる立体の体積は 1辺が 1cm の正四面体の体積の 216 - 96 = 120倍になります。

ハッキリ言います。

この問題が出来ないからと言って数学の能力が否定されるわけでも何でもありません。受験生の皆さんは安心してください。

灘中学校は間違いなく最高峰の中学校なので、入試問題一つとってもその世代の子たちへの影響力が大きいです。それゆえ、誤ったメッセージをこの問題から発信しかねないことを心配しています。

いたずらな図形の難問のせいで、不必要に自分の数学の能力を否定する受験生がいるとしたら、それは人材を殺すという意味で犯罪的に罪深いことです。

中学校側の論理も分からないではないので、こういう問題を出すなとは言えませんが(本当は言いたい)、こんな問題はもらい事故みたいなものです。

理系の人間として、できなかった受験生に対して周りの人間がフォローすることをぜひともお願いしたいです。

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