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【京都大学1986年度入試数学第1問および1989年度入試数学第2問】平均より易しい、平均の問題

今回は平均に関する問題を2問取り上げたいと思います。京都大学(理科系、文科系)1986年度入試数学第1問と1989年度入試数学第2問。古い問題です。

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京都大学 百周年時計台記念館
2015年5月5日、Soraie8288撮影、Wikipediaより

問題そのものは易しいと思うのですが、入試で出すと案外手こずるのかなぁ…評価が難しいです。でも、あくまで私の主観としてこの問題は簡単だと思います。

※以下、a(n) は a に添え字の n を表します。note.com では <sub></sub> が使えないため、苦肉の策です。

[問題(1986年度)] すべては 0 でない n 個の実数 a(1), a(2),…, a(n) があり、 a(1) ≦ a(2) ≦ … ≦ a(n) かつ a(1) + a(2) + … + a(n) = 0 を満たすとき,a(1) + 2a(2) + … + na(n) > 0 が成り立つことを証明せよ.
[問題(1989年度)] n 個 (n ≧ 3) の実数 a(1), a(2),…, a(n) があり,各 a(i) は他の n - 1 個の相加平均より大きくはないという.このような a(1), a(2),…, a(n) の組を全て求めよ.
※文科系では n = 5 として出題しています。 

1986年度の問題は当たり前の話に思えますし、1989年度の問題も a(1) = a(2) = … = a(n) のときかつそのときに限り条件が成立することはすぐに出てきます。

もしこのことが当たり前と思えない場合は、問題の読解力が不足しているか、平均についての理解が不足しているかのどちらかです。後者の場合、平均の本質を理解していないと言わざるを得ないです。

この問題から私が見えているものについてのちほど説明したいと思います。

さて、解答について考えていきたいと思いますが、当たり前のことほど証明の方針が立たない、なんてことはよくあります。京都大学はそういうところを狙ったのでしょうか?真相は分かりませんが、それでも京都大学としてはやさしい問題だと思います。

まあまずは解いてみましょう。1986年度の問題は解答を2種類用意しました。

[解答1(1986年度)] まず、a(1) < 0 かつ a(n) > 0 であることを示す。背理法のために a(1) ≧ 0 と仮定する。このとき、0 ≦ a(1) ≦ a(2) ≦ … ≦ a(n) であり、a(1), a(2),…, a(n) はすべてが 0 ではないので、a(n) > 0 である。したがって、a(1) + a(2) + … + a(n) > 0 となり矛盾である。したがって、a(1) < 0 である。

同様に、a(n) ≦ 0 を仮定すると、a(1) ≦ a(2) ≦ … ≦ a(n) ≦ 0 であり、a(1) < 0 であるので、a(1) + a(2) + … + a(n) < 0 となり矛盾である。したがって、a(n) > 0 である。

さて、a(i) ≦ 0 である最大の i を k とおく.a(1) < 0 かつ a(n) > 0 であるのでこのような k は必ず存在し、1 ≦ k ≦ n - 1 である。ここで、a(1) ≦ … ≦ a(k) ≦ 0 かつ 0 < a(k+1) ≦ … ≦ a(n) であるので、

a(1) + 2a(2) + … + ka(k) ≧ k { a(1) + a(2) + … + a(k) }
(k+1)a(k+1) + … + na(n) > k { a(k+1) + … + a(n) }

が成り立ち、二つを足すと

a(1) + 2a(2) + … + na(n) > k { a(1) + a(2) + … + a(n) } = 0

が証明された。

[解答2(1986年度)] n に関する数学的帰納法により証明する。ここではあえて n ≧ 2 で証明する。

n = 2 のとき、条件を満たすのは a(1) = - a(2) かつ a(2) > 0 のときのみであり、このとき a(1) + 2a(2) = a(2) > 0 である。

n = k (k ≧ 2)のとき題意を満たすと仮定し、n = k + 1 のときを考える。すなわち、a(1) ≦ a(2) ≦ … ≦ a(k) ≦ a(k+1) かつ a(1) + a(2) + … + a(k) + a(k+1) = 0 である、すべてが 0 ではない a(1), a(2),…, a(k), a(k+1) に対して、a(1) + 2a(2) + … + ka(k) + (k+1)a(k+1) > 0 を証明する。

a(k+1) < 0 と仮定すると、a(1) + a(2) + … + a(k+1) < 0 となり矛盾するので a(k+1) ≧ 0 である。

まず a(1) = a(2) = … = a(k) = - a(k+1) / k であると仮定する。

a(k+1) = 0 のときはa(1) = a(2) = … = a(k+1) = 0 となり条件を満たさないので、a(k+1) > 0 である。このとき、a(1) + 2a(2) + … + ka(k) + (k+1)a(k+1) = (k+1)a(k+1)/2 > 0 より題意を満たす。

次に a(1) = a(2) = … = a(k) = - a(k+1) / k が成立しない場合を考える。

任意の正の整数 i ≦ k に対してb(i) = a(i) + (a(k+1)/k) とおく.このとき、b(1) ≦ b(2) ≦ … ≦ b(k) かつ b(1) + b(2) + … + b(k) = a(1) + a(2) + … + a(k) + a(k+1) = 0 である。また、仮定より b(1) = b(2) = … = b(k) =0 とはならないので、帰納法の仮定より

b(1) + 2b(2) + … + kb(k) = a(1) + 2a(2) + … + ka(k) + (k+1)a(k+1)/2 > 0

が成り立つ。また、a(k+1) ≧ 0 であるので、a(1) + 2a(2) + … + ka(k) + (k+1)a(k+1) > (k+1)a(k+1)/2 ≧ 0 が成立する。

以上のことから、任意の整数 n ≧ 2 に対して題意が成立する。 [解答終]

とまあ、こんな感じでしょうか。少々記述が雑かもしれませんが、大体わかるでしょう。

一方、1989年度の方はこんな感じです。

[解答(1989年度)] 一般性を失うことなく a(1) ≦ a(2) ≦ … ≦ a(n) とする。また、背理法のために a(1) < a(n) と仮定する。このとき、

a(n) ≦ { a(1) + a(2) + … + a(n-1) } / (n-1) < (n-1) × a(n) / (n-1) = a(n)

となるため矛盾である。よって、a(1) = a(n) すなわち a(1) = a(2) = … = a(n) である。

逆に、a(1) = a(2) = … = a(n) であるとき、任意の i に対して a(i) = { a(1) + … + a(i-1) + a(i+1) + … + a(n) } / (n-1) であるので、条件を満たす。

したがって、任意の実数 k に対して a(1) = a(2) = … = a(n) = k である。[解答終]

今回の2問はどちらも平均を扱った問題になっています。

1989年度の問題はそれが分かりやす形で表現されています。a(i) ≦ { a(1) + … + a(i-1) + a(i+1) + … + a(n) } / (n-1) として条件を提示していますが、式変形をすると、

(n-1) a(i) ≦ a(1) + … + a(i-1) + a(i+1) + … + a(n)
na(i) ≦ a(1) + a(2) + … + a(n)
a(i) ≦ { a(1) + a(2) + … + a(n) } / n

となって、各 a(i) は a(1), a(2),…, a(n) の相加平均より大きくないと言っています。

一方、相加平均について次の定理が成り立ちます。

[定理1] a(1), a(2),…, a(n) の相加平均を L とおく.このとき,a(i) ≧ L を満たす i と a(j) ≦ L を満たす j は常に存在する.また,a(i) > L を満たす i (等価的に a(j) < L を満たす j ) が存在しないための必要十分条件は,a(1) = a(2) = … =  a(n) が成り立つことである.

これは私に言わせれば肌感覚で知っていてもらいたい定理です。平均とは値の凸凹を均(なら)したときの値なので、直感的に当然の定理です。

今回の問題では a(i) > L を満たす i が存在しないと言っているので、答えがすぐに出てきます。

おそらく京都大学も、定理1 は知ってて当然、常識だと考えていると思います。

だからこそ、この問題を単純な証明ではなく、成立条件を受験生に提示させる形で出題したのだと思います。その上で、証明しろというのが 1989年度の問題の意図だと思います。

一方、1986年度の問題が平均と関係していることは一見分かりにくいかもしれませんが、実は深い関係があります。それをこれから見ていきます。

まず、今回の問題は次のように一般化ができます。

[系1] a(1) + a(2) + … + a(n) = 0 で、a(1), a(2),…, a(n) のすべてが 0 ではないとき,w(1) ≦ w(2) ≦ … ≦ w(n) かつ w(1) ≠ w(n) を満たす正の実数 w(1), w(2),…, w(n) に対して w(1)a(1) + w(2)a(2) + … + w(n)a(n) > 0 となる.

証明は [解答1] と全く同じで、a(1) < 0, a(n) > 0, w(1) < w(n) に注意すると
・w(1)a(1) + w(2)a(2) + … + w(k)a(k) > w(k) { a(1) + a(2) + … + a(k) }
・w(k+1)a(k+1) + … + w(n)a(n) ≧ w(k) { a(k+1) + … + a(n) }
もしくは
・w(1)a(1) + w(2)a(2) + … + w(k)a(k) = w(k) { a(1) + a(2) + … + a(k) }
・w(k+1)a(k+1) + … + w(n)a(n) > w(k) { a(k+1) + … + a(n) }
が成立するので、

w(1)a(1) + w(2)a(2) + … + w(n)a(n) > w(k) { a(1) + a(2) + … + a(n) } = 0

となります。(拡張性の意味で、解答2 より解答1 の方がいい解法です。)

そして、これは次のように平均の言葉で言い換えることができます。

[定理2] a(1), a(2),…, a(n) を相加平均が 0 であり、すべてが 0 ではない実数とすると、w(1) ≦ w(2) ≦ … ≦ w(n) かつ w(1) ≠ w(n) を満たす正の実数 w(1), w(2),…, w(n) に対して { w(1)a(1) + w(2)a(2) + … + w(n)a(n) } / { w(1) + w(2) + … + w(n) } > 0 である。

さらに、相加平均 L がいくつであったとしても、b(i) = a(i) - L とすれば今回の問題に帰着されるので、次の定理が導かれます。

[定理3] a(1), a(2),…, a(n) を相加平均が L であり、すべてが L ではない実数とすると、w(1) ≦ w(2) ≦ … ≦ w(n) かつ w(1) ≠ w(n) を満たす正の実数 w(1), w(2),…, w(n) に対して { w(1)a(1) + w(2)a(2) + … + w(n)a(n) } / { w(1) + w(2) + … + w(n) } > L である。

定理3 はよく知られた事実です。

例えば、10%, 30%, 50% の3種類の食塩水を同じ量ずつ混ぜると (10 + 30 + 50) / 3 = 30% の食塩水ができますが、1 : 1.5 : 2 の比率で混ぜると (10 × 1 + 30 × 1.5 + 50 × 2) / (1 + 1.5 + 2) = 155  / 4.5 = 34.4...% と、30% よりも濃度が高くなります。濃度の高い食塩水を多めに混ぜているので当り前です。

このように、ごくごく当たり前の定理3 を、限定された一部の場合だけでも証明しようというのが1986年の問題です。

受験勉強はもちろん大事ですが、こうした「常識」と思われていることを自分の手で証明することも同じくらい大事だと思うので、常識に出くわしたら証明を試みるといいでしょう。

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