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【一橋大学1969年度入試数学第?問】無理数を用いた線型独立の問題

さて、東大・京大・東工大と来たので、次は一橋大にしようと思っていたのですが、YouTube に面白い問題がありましたので、今回は「大昔の」一橋大の入試問題を取り上げたいと思います。

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一橋大学 兼松講堂
2008年9月20日、Wiiii撮影、Wikipediaより

問題

a, b, c, d を有理数とする。a + √2 b + √3 c + √6 d = 0 となるのは a = b = c = d = 0 に限ることを示せ。

解答解説

この問題を取り上げたのはすばるさん、というか、彼へ twitter でDMを送った高校教師です。解決するためのアプローチはいろいろとありそうですが、考え方は一緒です。

最初に考えるのは何かというと、「ルート、多くね?」ってことです。YouTube でもすばるさんが感じていたことです。

だから、減らすための方法を考えていくことになります。

典型的な方法はいくつかを右辺に追いやって、両辺を二乗すること。YouTube ではこの方法を取っています。自然な解法です。処理もきれいでした。(即興で解いていたため、動画では一部誤りがありましたが。)

ですが、今回はちょっと別の方法を考えてみました。私が初見で解いた方法です。ただし、√2, √3, √6 という組み合わせだからできた方法だと思って下さい。(それは YouTubeの解法も一緒ですが。)

ちなみに、√2, √3, √6 がすべて無理数であることは既知として話を進めていきます。本番ではこれらが無理数であることを既知としたのでしょうか?問題文(原文)を読んでいないので何ともいえないです。問題集でも買おうかしら。

その点は不安なので、問題文に明記していないようであれば、本番では最初に無理数であることを仮定すると明記したうえで証明を行っておいて、時間があれば追加する形で無理数であることを示すのがいいでしょう。√2 が証明であることは以前証明しておりますので、そちらをご参照ください。

まず最初に次の補題を与えておきます。あとで何度か使います。

[補題] A, B を有理数とする。このとき、A + √2 B = 0 となるのは A = B = 0 のときに限る。

証明は簡単で、B ≠ 0 と仮定すると、√2 = -A/B となり、√2 は有理数となって矛盾します。よって、B = 0 であり、式に代入して A = 0 となります。

さて、問題を解いていきましょう。

与えられた式から a + √2 b = - √3 (c + √2 d) とすることができます。ここで、c + √2 d ≠ 0 と仮定すると、両辺を c + √2 d で割ることができます。

この段階で矛盾させる気満々です。矛盾が生じると、補題から一気に c = d = 0 が言えます。

割るとどうなるかというと、右辺は -√3 です。左辺は大変ですが、

(左辺) = (a + √2 b) / (c + √2 d) = (a + √2 b)(c - √2 d) / (c^2 - 2d^2) = X + Y √2

とおくことができます。ここで、X = (ac - 2bd)/(c^2 - 2d^2)、Y = (bc - ad)/(c^2 - 2d^2) です。文字でごちゃごちゃしていますが、分母の有理化を行っただけです。

一点、注意したいのは c + √2 d ≠ 0 であるならば、c - √2 d ≠ 0 も成り立つことです。というのは、補題から c - √2 d = 0 が成り立つのは c = d = 0 のときのみだからです。

さて、もう一つ重要なのは、a, b, c, d は有理数なので、X, Y も有理数であることです。この点があとで効いてきます。

結局、X + √2 Y = -√3 と変形できたわけですが、ここで両辺を二乗します。

(x^2 + 2Y^2) + 2XY √2 = 3 すなわち (x^2 + 2Y^2 - 3) + 2XY √2 = 0 が得られますが、補題から x^2 + 2Y^2 = 3 かつ XY = 0 (すなわち X = 0 or Y = 0) が言えます。

X = 0 の場合は Y^2 = 3/2 で、Y = ±√6/2 が得られ、これは無理数です。
Y = 0 の場合は X^2 = 3 で、X = ±√3 が得られ、これも無理数です。

どちらの場合も、X, Y がともに有理数であることに反するため矛盾です。よって、c + √2 d = 0 が得られ補題から c = d = 0 が得られます。

最後は、c = d = 0 を最初の式に代入して、a + √2 b = 0 が得られたので、補題から a = b = 0 が得られて証明終了です。

感想

解答だけを見るとサラッと解いている様に見えるかもしれませんが、実際には構想力が問われるいい問題だと思います。

これ、a + √2 b + √3 c + √6 d で表される数全体からなる集合は有理数体上の1, √2, √3, √6 を基底としたベクトル空間になっているという話で、役に立つかと言われれば疑問ですが、数学的に面白いと思います。

(注) 高校生には「ベクトル = 成分で表現されているもの」という認識があるかもしれませんが、それはベクトルのごく一部で、実際にはいろいろなものを含んでいます。ただし、そういういろいろなベクトルが全て成分表示可能であることも事実なので、誤った認識とも言えないのですが。理系へ進学するならば線型代数でそのことを学ぶでしょう。

次回から数回にわたり、本年度の一橋大学の入試問題を扱う予定ですが、この問題(の難易度)を念頭に見ていってもらえると幸いです。

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