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【海城中学校2020年度入試算数第5問】重要なのは技術じゃなく原理

今回も海城中学校2020年入試算数より第5問を取り上げたいと思います。典型的(てんけいてき)な時計の問題ですが、中学校がちょっとした細工をしています。

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海城中学校・高等学校、
2008年1月19日、陸の王者撮影、Wikipediaより

[問題] ある星では,1日が8時間で,1時間が40分です。この星の時計は下の図のようになっており,例えば,図 1 は 3時ちょうど,図 2 は 3時20分を表しています。次の問いに答えなさい。

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図1            図2

(1) 3時32分のとき,長針と短針がつくる角のうち,小さい方の角の大きさは何度ですか。

(2) 長針と短針のつくる角の大きさが 90° となるのは 1日で何回ありますか。

(3) 現在 4時16分です。次に長針と短針のつくる角の大きさが 128° となるのは何分後ですか。

[問題終わり]

この問題を受験生が見たときにどう感じるかは人それぞれだと思いますが、その反応で受験生の算数に対する向き合い方が分かります。

話の前提(ぜんてい)として、普通の時計の問題は解ける受験生を仮定(かてい)します。もし普通の時計の問題が解けないのであれば、まずは普通の時計の問題を解く練習をするべきです。

この問題は典型的な時計の問題と何も変わらないです。少なくとも私にはそう見えます。

私と同じように感じている受験生は、何も困ることなく問題を解くことができますし、そのまま勉強を進めてもらっていいと思います。

全く別の問題に思える受験生は、時計の問題を解く方法を本質的には理解していません。おそらくは、数字込みで解き方を覚えていて、今回みたいにちょっと設定(せってい)が変わったり、少しひねった問題を前にすると何もできなくなります。

断言しますが、それは誤った勉強方法です。算数への向き合い方を今すぐ見直すべきです。

というのは、このタイプの受験生は今回の問題だけでなく、今後の算数・数学においてもつまずく可能性が高いからです。

もしそこそこ算数をこなすことができるならば、それはむしろ深刻(しんこく)で、それならばいっそ普通の時計の問題が解けない方がいいとまで言っておきます。

なぜなら、全く解けない受験生は何にも染まっていないので、何かのきっかけで出来るようになるかもしれないけど、上に書いたようなタイプの受験生は治さないと病気をこじらせるしかないからです。

スタート地点にいる子(=全く解けない子)とスタート地点から逆方向に走った子(=誤った勉強方法を身につけた子)はどちらがゴールに近いですか?(しかも、その後もゴールから遠ざかっていく…)そういうことです。

中学受験において「受験テクニック」というのがあるとすれば、算数ではおそらくこういうやり方を指すものと思います。

2つのものの速度の和や差を使う問題(相対速度の問題)がありますが、それを角度で行っているのが時計の問題です。「速度(速さ)=1分間に進んだ距離」の代わりに「角速度=1分間に回転する角度」を使っているだけです。相対角速度の問題、と言えるでしょうか。

なので、まずは長針と短針の角速度(1分間に何度動くか)を調べることから始めます。

長針は 1時間= 40分で 1回転する= 360° 動くので、1分間に 9° 動きます。一方、短針は 1時間=40分で 360 ÷ 8 = 45° 動きます。したがって、1分間に 45 ÷ 40 = (9/8)° 動くことになります。

まず 3時32分ですが、長針は 0から 9 × 32 = 288° 動いたことになります。短針は 3 から (9/8) × 32 = 36° 動いたことになりますが、0 を基準にすると 45 × 3 + 36 = 171° となります。よって、(1) 288 - 171 = 117° となります。

(2) ですが、長針が短針と重なっている状態から再び追いつくまでに 2回 90° になります。1日に長針が短針に追いつくのは 8 - 1 = 7回なので、7 × 2 = 14回となります。

最後は、まず現在の角度を求めます。4時16分なので、長針は 0 から 9 × 16 = 144° 動いています。短針は 0 から 45 × 4 + (9/8) × 16 = 180 + 18 = 198° です。引くと 198 - 144 = 54° になります。ここで、短針の方が前に出ていることに注意してください。

このあと、短針と長針のつくる角の大きさが 128° になるわけですが、そのときには長針が前に出ている必要があります。ですので、長針と短針の動いた差が 128 + 54 = 182° になる必要があります。

1分間に 9 - (9/8) = (63/8)° だけ長針が多く進むので、長針と短針がつくる角の大きさが 128° になるのは (3) 182 ÷ (63/8) = 208/9 = 23 + (1/9) 分後となります。

この問題は、今は算数ができても将来に数学ができなくなるリスクのある子を落とすことを目的につくられた問題と言って間違いないです。何度も言いますが、入試は受験生を落とすための試験です。

算数や数学も間違いなく暗記が必要な科目ですが、歴史みたいな一字一句を正確に覚える科目と違って、何を覚えるかが重要な科目です。解答を丸暗記することには何の意味も価値もありません。

どれだけ多くの状況で覚えた解き方を使うことができるか?それが重要なのです。

それを身につけるためには、それぞれの計算で何を行っているかを意識するといいでしょう。そうやって意味づけをすることで、覚えたことが再利用できるようになります。

このような勉強のやり方は、最初は大変ですが、そのうちそれが普通になります。そうなれば息を吸うようにこの問題ができるようになるはずです。

[2020年5月30日追記]

この note を公開した翌日に ameba でちょうど面白いブログを見つけました。​

今回の note とこのブログの主張はまさに同じで、はじきなんか覚えても役に立たないどころか、弊害(へいがい、かんたんにいえばマイナス)にしかならないんです。

もしはじきを擁護(ようご)する人がいるのであれば、それは病気をこじらせた重症患者の言うことです。そして日本は重症患者であふれている。実際、数学が苦手な人が多い。理系ですら苦手なんですから。

私は学生の頃、国語の正しい勉強方法を知らなかったので国語ができませんでしたが、同じように算数・数学の正しい勉強方法を知らなければ算数・数学ができるようには決してなりません。

限られた時間の中で正解を出さなければならない受験ですが、それでも正しい勉強をしてもらいたいと切に願います。

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