先輩の秘密-#4-
「もう少し一緒にいましょうよ」
後ろから優しく抱きしめられながら、低い声が囁く。
思わず頷きそうになってしまうほど、甘い。
そのまま私を膝の上に抱き寄せ、肩に顔を埋めてきた。
「先輩、いい匂い…」
私の首筋に高い鼻を沿わせ、大きく息を吸って匂いを確かめている。彼の黒髪が首にかかってくすぐったい。耳元まで唇が近づいたかと思えば、耳たぶを優しく甘噛みされる。思わず身体が反応したが、私は何も言えずに固まっていた。振り払おうと思えばできるのに、彼の何がそうさせないのか。しばらく外から聞こえる生徒たちの声だけが部屋の中に響いた。
この沈黙を破ったのは彼だった。
「俺、やっぱ先輩のセフレ辞めよ」
「は…?」
突然の予想外の言葉に思わず聞き返す。振り返り彼の目を見るが、その視線から冗談ではないことを悟った。
「あんたって意味わかんないやつね」
「そうですか?」
「意味はわかんないけど…私もうセフレじゃないなら、自由よね」
「そうですね」
にっこりと微笑む表情がさらに私を悩ませた。いったい何がしたかったのだろうか。もし私を混乱させたいなら大成功だ。
「最初は面白そうだったんで遊んでもらおうと思ったんですけど、なんかセフレとしてやっちゃうのもったいないなって。これって恋ですかね?」
「さぁ」
素っ気なく返事をしたが、脳内ではその意味を一生懸命考えていた。恋と言われるとなんだか違和感を覚えるが、少なくとも人として私に興味を持ったのだろう。
「やっぱり先輩ってつめてー。もし俺のこと好きになっちゃったら教えてくださいね?その時は目一杯襲いますよ」
「うるさい。というか、こないだほとんど最後まで襲われてるんだけど」
バツが悪そうに顔をクシャッとさせて笑う表情は人懐っこそうでどこか寂しげだった。そのまま再び私の肩に顔を埋めたが、ちょうど昼休憩終了のチャイムが鳴り私はそっと彼の腕を離し、教室へと引き返した。
なんだか拍子抜けだ。
初対面の初日に他人の弱みにつけ込み、俺のセフレになれと言った男の誘いだ。呼び出された時点で、きっと屋上の続きだろうと思った。
結果は予想外だった。まさかの宣言撤回。解放されて嬉しい限りだが、掴みどころのない彼に少し戸惑っている自分がいる。冷静になれ、と自分に言い聞かしたー。
ーーーーーー
放課後、いつもなら屋上へ向かったが今日はそんな気にもなれず、もしあいつがいても困るので、そのまま帰ることにした。
ふとスマホに目を落とす。しばらく考えた後、私はLINEのメッセージ画面を開いた。彼氏の名前を探しメッセージを送る。彼は忙しい。突然の誘いで会えるかは分からないが、なんとなく今日は一緒にいたかった。
to be continue
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