泣きたくなるような天気
何だか泣きそうになるほどいい天気なのだった。最高気温28度。まだ暑いのに、日差しや空気が秋だった。いつまでも歩いていたいような気分だけど、歩いているだけで楽しくも物悲しくもなってくる、不思議な感じだった。
昨日の夜9時半から今日の朝6時45分まで、夜通し棚卸の立ち会いをしてクタクタに疲れたというのに、目覚めたのは9時半くらい。いつものように布団の中でスマホをいじりながらうだうだとして、10時半頃に布団から起き上がった。棚卸が終わって家に着いたのは7時過ぎなので実質3時間しか眠っていないことになるけれど、たいして眠くはなかった。昨日の日中棚卸をする前にたくさん寝ておいたから、トータルの睡眠時間は足りているのだろう。
今日は寿司の気分だ、と思いながら盛岡バスセンター前でバスを降り、ちょっと歩くと寿司屋を見つけた。本当は別の回転寿司屋に行くつもりだったけれど、目の前の古めかしい寿司屋の佇まいが気になってしまい、結局中に入った。
古めかしいけれど、入口は自動ドアだった。自動ドアっぽくないドアが自動ドアみたいに開いたので、少しびっくりした。
握り寿司を食べようかと思っていたけれど、写真付きのメニューを見ている内に気が変わった。やっぱりちらし寿司にしよう。あんまり高いのにすると落ち込んでしまうから、1500円の梅にした。
うにといくらと蟹が入っている割には安い値段だった。ネタも分厚くて食べ応えがあった。でも一番美味しいのは玉子だ。甘い玉子が好き。理想的な玉子だった。
満足してブックナードへ向かう。作家のくどうれいんと画家の狩野岳朗の展示がやっていたので、それを見るついでに本を買うつもりだった。レコードのかかるお洒落な店内。店主の早坂さんは顔見知りらしい女性客と親しげに何かを話している。本当に顔が広い人だ。作家やアーティストの人とたくさん親交がある。その縁で店の中で定期的に個展を開いたりもする。くどうれいんの最初の本を出版したのも早坂さんだった。
狩野さんの絵を眺めながら、くどうれいんの短歌を読む。
東京と盛岡で、狩野さんと同じ時間を過ごす中で作った短歌。狩野さんの絵と共鳴している。
芸術をやりたいな、と僕は思っている、いつも。創作をしたいな、と思っている、いつも。
でも何かを創るエネルギーがなくて、というか何を創ればいいのか何も思い浮かばなくて、結局誰かの芸術を見ることで気分を紛らわしている。
このもやもやは辛い。それならもっと腰を据えて、産みの苦しみでも味わった方がいいのかとも思う。
ブックナードの中にはたくさんの魅力的な本があって、買うつもりだった本と、買うつもりのなかった本も買ってしまった。個展のZINEとハンカチと合わせて7700円。
本を買う時、「今日はいい天気ですね」と早坂さんは言った。
「最高にいい天気ですよね」と僕も答えた。
確かにいい天気すぎるほどいい天気なのだった。人に言われて、改めてそのことに気付いた。
外に出てブックナードの紙袋を下げながら歩いていると、何だか泣きたい気分になった。
行きつけの喫茶店の羅針盤でチーズケーキを食べながら買ったばかりの本を読む。至福のとき。
チーズケーキは本当に美味しかった。でもやっぱり気分はどこか満たされない。僕は僕の芸術をやりたい。