2024/02/25
目が覚めると、毎日、パートナーが生きていてくれて良かったと思う。
朝ごはんは、トーストにチーズを乗せたパン。いつも通り、めんどくさいのでティッシュに置いて食べる。
今日のミッションは、薬局へ行って黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を手に入れること。漢方のひとつだ。
昨日の夜、パートナーの調子がおかしいことが分かり、黄連解毒湯が必要なのではないかと話した。どの薬局にあるか分からないので、何件かの薬局が近いところへ向かうことにした。
今日は雨だ。
傘を持って家を出る。
僕の傘はプレゼントで貰ったくらげの傘。透明感とかも含めて、可愛いと思っている。
通り過ぎていく人を見ないように俯きつつ歩く。最近、見られている感覚と幻覚が戻ってきて、通り過ぎる人たちがこちらを凝視してくるように見えたりする。
「嫌だな」と思いながら歩いていると、思いついた。
「傘で近くにいる人を見ないように、遮ればいいのではないか」と。視界に存在しないものが見えるほど、酷くないだろうと思ったのだ。
そして、それは正解だった。
通り過ぎていく人たちを傘で遮り、見えないようにしながら歩く。気持ち楽になった気がする。
最初に来た薬局は、ほとんど人がいなかったので、店内をぐるぐると探し回れた。そうして、漢方が並ぶ棚を発見したが、黄連解毒湯がない。
仕方ないので、他の必要なものを購入して出た。
その後、晩ごはんも買って、次の薬局へ。
この薬局は商業施設の3階にある。探してみると、売場面積は広いのに、そもそも薬を置いている棚が少ない。漢方の棚は、すぐに見つかったが、ここにも黄連解毒湯はなかった。
他の棚にあるかもしれない。そう思って、レジにいる店員さんに尋ねることにした。
「すいません」
「いらっしゃいませー」
「あの、漢方はあそこの棚だけですか?」
「ん?何をお探しですか?」
大きめの声で聞いたはずなのに、聞き返されてしまった。
「あの、漢方を探してるんですが」
「何の漢方でしょう?」
「黄連解毒湯です」
「少々、お待ちください」
店員さんは端末を操作し始める。画面をタップして、「黄連解毒湯」と入力し、検索する。
「すみません、ちょっとうちには在庫ないみたいですね」
「あ、わかりました」
疲れた。
同じフロアにあるカフェで休んで帰ることにした。カフェに近づくに連れて、なぜか人が増えていく。
人が集まっているところには、列ができていて、その先は長机に座っている人の前に続いていた。
どうやら、歌手の人が来ていてイベントをしているようだった。
規模は大きくないが、来ている人たちが、みんな楽しそうに見える。歌手の人についてテンション高めにお喋りし、貰ったサインを大事に抱えている。
僕は人混みを抜けて、カフェへ入った。
ホットコーヒーを注文し、座ってぼんやりする。頑張って店員さんに話したから疲れた。そんな感じがした。
SNSを見たりしながら、パートナーとLINEをした。黄連解毒湯が無かったことを伝えると「探してくれてありがとう」と言ってくれた。
個人的な経験として、こういう対応をされたことがあまり無かったから、些細なことでも「めっちゃ優しいやん」と思う。本当にそう思うのだ。
パートナーは「大丈夫」と言うものの、体調があまり良くない。もう帰ろう、と思って、残っていたコーヒーを一気に飲んだ。
帰り道。傘ガードを身につけた僕は、あまり不安を感じずに歩いていた。
「これで、安心して帰れるな!」と独り言を言うくらい気が楽だった。
何回か、傘ガードに失敗したときもあったが、総合的に見れば落ち着いていた。
「おかえり」
今日のミッションは、とりあえず達成された。
もう家から出なくてもいいのだと思うと、落ち着いて過ごせる。
ゆっくりしよう。晩ごはんの用意をぼちぼちやりながら。
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