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日記|伝説の猫(ちょっと創作)
吹く風が刺すように痛い。
自転車を漕いでいるからなおさらだ。
「ただいまー」
かじかんだ手を頬にあてると、どっちも冷たくて何の効果もなかった。
「あれ?」
やっと家に着いたのに、部屋はちっとも暖かくない。
平日休暇でずっと家に居たはずの夫に聞く。
「なんでエアコンつけてないん?」
「効かんけ、消した」
夫はライトダウンを着込んでこたつで丸まっている。
「えーーー」
荷物を置いて、手洗いなど諸々済ませ、エアコンをつけてみる。
手を伸ばしてかざしてみると、うむ、確かに冷たい風しか出ていない。
「効かんけ、じゃなくてさー。なんかやってみてよね!」
夫は具体的なことをしない。
最近そのことについて、どうしたものかと思案していたところだ。
このエアコンを購入した電気屋さんは、何年か前に閉店している。
チェーン店のひとつではあるから、他店に問い合わせるのも有りだ。
が、悲しいことに今はお給料日前。
出張点検に来てもらったとしても、手持ちがない。悲し過ぎる。
そういえば、『伝説の猫』がその昔、割れた皿を抱きしめて元に戻したという逸話があったな。
ギリシャか北欧辺りでは、この『伝説の猫』に係る神話がたくさんある。
その血を受け継いだ猫は現代も生きているという。
壊れた洗濯機を抱きしめて直したと、つい最近、地方新聞の「みんなの声」欄に書かれていた。
ギリシャや北欧に限らず、その猫の子孫は子々孫々津々浦々、そう、日本にもいるらしい。
そして、その不思議なチカラは、猫と暮らす人にも宿ることがあると。
足もとに擦り寄ってくる我が家の猫を見遣った。
私は台(小机)に上がってそっとギュッとエアコンを抱きしめた。
メーカーのお客様センターに電話をした。
「結局さー、いつもあたしよね、こういうこと」
夫の「なんもしない人」ぶりに困惑していると、なんかチャットに案内されたので、「暖まらない」をタップした。
[操作]
①エアコンを完全に停止させた状態で、電源プラグをコンセントから抜く。
②エアーフィルターのお手入れをおこなう。
③お手入れ後、電源プラグをコンセントに差し込んでから、リモコンの温度設定は高めに設定し、風量を「強」にして約10分ほど暖房運転をおこなう。
フィルターを掃除した。
その途中でチャットが「どうですか?」
と聞いてきたので、
「まだ掃除の途中でしょうが!」
と声を荒らげた。いや、それほど荒らげてはいない。
その後、言われた通り「強」にして10分ほど放置した。
エアコンから暖かい風が吹いた。
今までの設定温度より低くしても暖まるようになった。
これまでの電気代を思う。
フィルターはまめに掃除しよう。
怠惰だった自分を思う。
そして、『伝説の猫』とはいったい……。
「ニャーーン!」
猫、お腹が空いたようだ。
私はいつものキャットフードを、そっとお皿に入れた。