無心 ービキナーズラックー
ゼミの一期上の先輩は男子ばかりだった。
その中に一人だけ女性の先輩がいたけれど、ちやほやされているというよりは、女帝としてそこに君臨していた。
紅一強。
男子ばかりだから、それはもうくだらなくて、そのくだらなさが大好きだった。
当時、ゼミの先生もまだ若く、その野郎どもとのやり取りがとても楽しそうだった。
ゼミ終わりの酒も進む進む。
先生の奥さまは、毎週毎週よく飲み会に送り出されていたなぁと思う。
わりと新婚だったのに。
私らの期は男女半々くらいで、女子は先輩方からそれなりに可愛がってもらっていた。
とある日のボーリング大会。
そう、先輩方とボーリングに行ったんだ。
ボーリングなんて子どもの頃以来だったから、スコアのつけ方もわからない。
(当時は手書きだった)
さて、ゲームが始まる。
ぎこちなく、されど素直にボールを投げた。フォームの正解もわからない。
ボールはゆっくり真っ直ぐ転がって、きれいにピンをなぎ倒した。
わ!
そっと後ろを振り返る。
誰も私を見ていない。
先輩達はわちゃわちゃしてる。
それから幾度も自分の番がまわって来たけれど、その都度恐ろしく当たるのだ。
え!
後ろを振り返る。
誰も見てない。見ちゃいねえ。
先輩方は、近くにある女子大との合コン話で盛り上がっている。
近々予定があるとかないとか。
あの、あたし、なんかすごいんですけど……。
そのあとも、淡々と投げ続けた。
*
ゲームが終わってスコアを見ると、200近くあった。
「先輩、あたし、あたし……」
実はこれすごいんじゃないかと伝えたかったけど、みんなはもう次の飲み会の場所の話なんかしていて。
ひとり狐につままれた思いでそっとレーンを振り返り、みんなに付いてその場を離れた。
*
あれから月日は流れ、何度となくボーリングをする機会はあったけど、二度とそんなスコアは出なかった。
よくて90、悪くて67くらい。
下手すぎだ。
ビギナーズラックだったのだろう。
いや、無心の勝利だったと思うのだ。
狙わない方がいける。
どんなことでも。
ー 無心たれ ー
あの日以来、密かに自分の教訓としているとかいないとか。
ていうか先輩!
見ててよ!
すごかったじゃん私!
ちゃんとアピールできる人になりたいとも、あの時思った。
それは今でもうまく出来ない。