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2度目の浮気
彼との付き合いは、かれこれもう5年ほどになる。
今日、2度目の浮気をした。
朝、愛車の“Baby自転車”または“流星のサドル”に跨ったところで小雨が降って来た。
歩いて行った。
ハイライトを今よりいい感じに入れたくて、でもそれを彼に言うのがなんだか憚られて、それで浮気をしてしまった。
少しうしろめたい気持ちを抱えながらも、ドキドキして新しい扉を開けた。
はじめての彼女のお店。
あらかじめネットで予約はしていたが、ハイライトのコースはなかったので、「カラー•カット•ヘッドスパ•トリートメント」のコースを選んでいた。
それでもいつもの彼のところより、少しお値段お安めだった。
女性ひとりでやっている、こじんまりとしたシンプルな美容室。
つたない説明ながらも、なんとか主旨を理解してもらった。
カットは実に手際よく、その間、私たちは物価の話やら、近くある選挙の話、魚の話などをした。
次にハイライト。
今日のハイライトである。
一応カラーだからそれなりに時間がかかる。
ここ最近ずっと喉が痛くて、麦茶を持参していたのだが、カラーの待ち時間に飲み物を出してくれるという。
コーヒー、紅茶、チャイ……。
「あ、チャイをお願いします!」
しばらく飲んでいなかったチャイは、
甘くて温かくてスパイシーだった。
なんだかホッとする。
「ではシャンプー台へどうぞ」
私は首を反ることに難点があり、
大丈夫かなと不安だったが、わりと楽だった。よかった。
彼のお店は完全に寝て洗うタイプだから、首の心配もいらない。
私の美容室選びは大変なのだ。
当初選んでいたコースには、ヘッドスパとトリートメントが入っていたが、時間の都合でどちらかになるという。
どちらもしなくてもいいようだ。
最近疲れていたし、ヘッドスパをお願いした。
「炭酸スパとアロマスパがありますけど」
一瞬アロマに惹かれたが、ここはすっきり炭酸でいこう。
いざ炭酸ヘッドスパ!
生まれてはじめてのヘッドスパ!
さっきハイライトがハイライトだと言ったが、間違いなく今日のハイライトははじめての炭酸ヘッドスパだ。
すごく泡立つ。
炭酸がそうさせるのか、ミントのシャンプーがそうさせるのか、爽快感が半端ない。
タオルで隠されている口もとが、だんだんポカンと開いてくる。
「あ、あーーー」
とその時、カラカラン!っとすごい勢いで扉が開いた。
「ちょっとカットしてほしいんやけど!」
飛び込み営業にも似た荒技なおばさん
ご婦人。
「すみません、予約の方優先なんです」
が、どうしても急いでいる風なご婦人。
「20日までにカットしたいのよ」
私のスパは中断され、彼女は空いてる日時をご婦人に提示し、なんとか事なきを得た。
数分あわあわのまま放置されていたが、スパ再開。
頭のツボをギュッと押され、すごく痛い。
そのままツーっと指が移動する。
痛いけど気持ちいい。
首の付け根の溝にも指が入り、肩の凝りがほぐれていく。気がする。
うう、気持ちいい。
耳の横辺りも満遍なくしゃかしゃかしてくれる。
あー、ずっと続いてほしい。
かなり長く、丁寧にスパってくれた。
フィニッシュに熱いタオルで頭を包まれる。首のとこにも熱いタオルが。
じわーーん。
さながら温泉に入っているようだ。
半目になって鏡の前に戻る。
ドライヤーのあと、ヘアアイロンで私の剛毛はしっとりといなされた。
たぶん「いなされる」の使い方間違ってる。
果たしてハイライトもうまくいき、はじめてのヘッドスパは最高だった。
さてお会計へ。
耳を疑った。
びっくりするお値段だった。
ハイライトはコースにないのだ。
単品だった。その上にスパをしている。
完全に動揺したが、スマートにお支払いをした。
多めに持っていてよかった。
「えっと、次回ハイライトとカットだけだといくらになりますかね?」
何気に聞いてみたら、彼のところとほぼ同じだった。
「ありがとうございました〜」
お互いにそう言って店を出た。
雨はもうやんでいる。
うーん、どうしよう。
このまま浮気しようかな。
彼のもとに戻ろうか。
髪が伸びた頃にまた考えよう。
そして、家に帰ってひたすら寝た。