「かき氷の赤井さん🍧」第四章「ぜんっぜん、わかんない!」
二学期が始まった。
元太と伊予が通っている高校は進学校ではないものの、ここ数年、進路指導に力を入れていて、国公立大学に合格する生徒がチラチラと出てきていた。
専門学校や就職を選んだ人はもう、動き出している。
「元太は卒業したら、どうするの?」
伊予が外を眺めながら、何の気なしに聞いてきた。
「うん?僕は管理栄養士になって、子供達に食事の基礎を作りたいんだ。前も言わなかったっけ?」
「言ってたかなー」
まったく興味がなさそうに相槌を打った。別に嫌ではなかったけれど、心ここにあらずのようで、伊予が本当に聞きたいことはなんだろう?と思う。
「伊予は?どうするの?」
「私?私はね…」
急に目がキラッとした。あー、自分がどうするのか聞いて欲しかったのか。単純な所もあるんだな。
「ぜんっぜん、わかんない!」
「は?」
彼女の唐突な物言いには慣れてきたけど、二学期というこの1番、大事な時期にぜんっぜん、わかんないとは。そっちの方がぜんっぜん、わかんない。
「なんで、今、決める必要があるのかな?」
「そこ?」
突拍子もないことや、予想を越えてくることは日常だから、さほど驚きもしない。むしろ、その言葉の続きが聞きたい。
「元太みたいにさー、これをやりたいから、この大学に行きたいとか、それは幻想だったりしないの?辻褄合わせじゃないの?」
「そんなことないよ」
ちょっとムッとする。管理栄養士になりたいと思い始めたのは今年に入ってからだけど、料理を作るのは好きだし、美味しいと食べてくれるのを見るのは楽しかった。できれば、料理に関した仕事につきたいとは中学生ぐらいの時からぼんやり思っていた。
「だって、だって、中学校まではどこの高校に行くかっていうことが1番大事だったのに、高校から次に行く時は、急にやりたいこととか、好きなこととか、そういうものが急に重要視されてさー、しかも期限付きでせっつかれる訳じゃない?そんな簡単に急にやりたいこととか、好きなことが決められる訳ないじゃん」
「伊予、落ち着いて。「急に」が3回も出てきたよ」
「だってさー、伊予は決められないよ。自分の人生がゴロッと動くんだよ。それを高校のたった3年間で決めて動けって横暴過ぎる!」
伊予はどこに向かいたいんだろう?変わるのが嫌なら、家から近い所に進学か就職をして、のほほんと暮らすのも悪くないじゃないか。
「元太は私のことをどう考えてるの?」
「私が元太と結婚して、主婦になりたいとか言ったら、困るんじゃないの?」
彼女は可愛いけれど、時々、こんなふうに僕を試すようなことを言う。そんな時、口が尖って、目も見開いて、メデューサみたいに見えた。その顔嫌だなって何度も言ったのに。
「伊予、もうやめよう。このままだと答えも出ないし…伊予のこと嫌いになっちゃうよ」
「嫌いなら、嫌いでもいいよ!元太はいっつも穏やかで、ニコニコしていて、私が全力で話したって、向き合おうとしないで、かわすことばかり考えてるじゃない!」
「バンッ!」
机にちょっとファイルを打ち付けただけだと思っていた。だけど、教室中にその音が響いた。彼女はビクッとして、次の瞬間、ボロボロ泣き出した。
僕も疲れていた。管理栄養士になりたいという夢はあるけれど、希望する大学は今の自分だとかなり厳しい。わかっているけど、やることはやっているつもりだけど、一向に状況は良くならなかった。
伊予に声をかけることもせずに、教室を後にする。彼女の泣く声が聞こえる。でも、振り返れない。
八つ当たりした。子供のように正直に自分の思っていることを話す様子にイライラ。
「もう、高三なのにな…」
もどかしい気持ちを抱えながら、家に戻るまだ蒸し暑い新学期の放課後。
続
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