エリと天使と。

これは #カクカタチ #2000字のドラマ

へ応募する作品です。読み進めてもらえばわかりますが、主人公絵里のお腹には赤ちゃんがいます。若者3人。赤ちゃんももうお腹にいる時点で大事な命、人間です。世の中には色んな"勇気"がありますが、絵里の決断も一つの勇気。そんな風に思っています。


夏が過ぎ去ろうとしている、秋風の吹くそんな日。アパートの一室で、腹を撫でる水色ワンピースの女性。

「咲、やっと涼しくなったね。」

ニコっとお腹に向かって微笑む。

ー―ピンポーン。

玄関のチャイムが鳴る。

「はーい!」

女性は重たくなったお腹を支えるかのようにゆっくりと立つ。

玄関を開けると、黒髪に金髪のメッシュが入った
少し派手な女性が立っていた。

「絵里、調子はどう?」

そう言うと同時に、自分の家かのようにズカズカと上がっていく。

「ヤン、今日もありがとね。」

ヤンと呼ばれた女性は、微笑み若干照れた様子だった。

「まぁ良いってことよ!」

ヤンはそう言うと、絵里の腹の方へ視線を下げる。

「咲〜、今日はヘビメタと人気急上昇中のロックバンド、どっち聴きたいー?」

その手にはCD。ヤンはニッコリ微笑んだ。

「ヤン、ビックリして咲がお腹から飛び出しちゃうよ。刺激が強すぎるよ笑」

「だーよね!」

ヤンは少し舌を出して見せた。

「ヤン、お茶入れるね!」

「ありがとう〜。」

ヤンは一気飲みし、一息ついて窓を見た。

絵里がヤンと呼ぶ女性、安田優奈とは通信制高校で出会った。

1年前の夏、二人は初めて言葉を交わした。
それは体育の授業でのことだった。
その日はバトミントン。絵里はあまり運動が得意ではなかった。

「じゃー、岸田と安田、君たちペアね。」

二人は返事をした。絵里は気乗りしなかったが、
ヤンがあまりに大きく返事をするから、絵里は笑うしかなかった。

「じゃあ、岸田さん、よろしくね!」

ヤンは片手を差し出す。

「…うん!」

握手をして二人は微笑んだ。

ヤンはどんどんスマッシュを決めるが、絵里は
全く返せなかった。
そして、絵里は少しジャンプをした瞬間、
よろけて足を挫いてしまった。

真っ先にヤンは絵里の元へ駆け寄った。

「岸田さん、大丈夫?」

ヤンは立ち上がることができない絵里の手を握り、こう言った。

「先生、私が保健室へ連れていきます!」

そう言うとヤンは絵里を保健室へと連れて行った。

2004年の夏。絵里とヤンは出会い、友人になった。お茶をしたり、学校帰り近くの商店街のゲームセンターでプリクラを撮ったり。

それは青春という言葉がピッタリの日々だった。

そして、2005年2月。絵里は一人悩んでいた。
17歳の絵里は妊娠したのだ。中学のときから付き合っていた彼氏との間に出来た子供だ。
ヤンにすら打ち明けられずにいた。

ある日、二人でお茶をした。
「絵里、どうした?最近ブラックコーヒー頼まないじゃん。」
「うん、実はさ…。彼氏との間に赤ちゃんできた。」

「えーーーーーーー!!」

ヤンは店中響き渡るほどの声を出した。

「ヤン、ちょっとうるさい。」

「…ごめん。今妊娠何ヶ月なの?」

絵里は飲んでいたココアを見つめながら、
少し涙を浮かべた。

「2ヶ月だって。2週間ぐらい前に産婦人科に行ったの。生理が来なくって。」

「そっか。…でさ、産むの?」

絵里はヤンの目をしっかり見つめこう言った。

「産むよ。一人で育てるって決めたの。大事な命だから。」

ヤンは驚いた。産むことより、もうすっかり絵里が母親の顔をしていたことに。

「彼氏に言ったの?」

「ううん、言ってないし、別れた。」

ヤンはどういう風に声をかけて良いかわからなかった。

「ヤン、ごめんね。驚かせちゃって。こんなにしっかりしてない私が子供を産んで育てられるわけがないって。思うよね。」

絵里は切なそうに笑ってみせた。

「いや、私にも覚悟が必要だと思っただけよ。絵里は凄いと思う。両親にもまだ言ってないわけでしょ?一緒に報告しに行こうよ!」

ヤンはそう言って涙を浮かべた。絵里は我慢していた感情を抑えきれず涙を流した。

「ヤン、ありがとう…。」

「良いってことよ!」

ヤンは優しい。元ヤンキーだったことから絵里は優奈をヤンと呼び始めたのだが、彼女たちは出会うべくして出会ったのだ。

そして、2005年9月。すっかり大きくなったお腹を眺める絵里と、隣にいるヤン。

このお腹に宿った命は産まれた瞬間から、
人生を歩もうとしている。

天使であり、立派な人間、若者だ。

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