あなたへ(第6号) クリスマス特集号
木枯らしが吹き荒ぶ。厚手のコートの襟を立てて歩いている。
唸る烈風の渦の中、よみがえる記憶……。忘れもしない。幼い頃、我が家の塀の中に、綺麗にラッピングされたリカちゃんハウスが投げ込まれていたことがあった。それも全く同じものが二つ。
早めのクリスマスプレゼント。妹と狂喜乱舞した。お下がりばかりだった妹は、自分だけのリカちゃんハウスをとりわけ喜んだ。毎日楽しく遊んだこと、可愛い文房具が同封されていたことまで妹は覚えていた。一方、私が記憶しているのはプレゼントを目にした喜びだけ。後のことは殆ど覚えていない。いずれにせよ不思議なプレゼントの全貌は長らく謎だった。
ところで、父方も母方も、祖父はいないと姉妹は言い聞かされてきた。子どもが知り得ぬ複雑な理由があったのだろう。従兄弟の家に住み、従兄弟の祖父として認識していた老人が、実は自分の祖父でもあったことを、姉妹は知らずに成長したのである。
祖父の存在を知らされたのは、彼の死の直前だった。
無言でプレゼントだけを置き、姿も見せずに立ち去ったサンタクロースは祖父だった…。
母が口を滑らせたのは、祖父の死から十数年が過ぎ、祖母も亡くなった後である。
穏やかな笑みをいつも浮かべていたあのお爺さんが、サンタとなり遠方から来てくれたのだ。祖父である事実を隠し、お祖父ちゃんと呼んでももらえぬ孫の為に。少女の好みなど分からなかったはずだ。考えに考え、豪華なリカちゃんハウスを平等に一つずつ、私と妹に選んでくれたのだろう。様々な事情を退け、北風に逆らい独りやってきた祖父。サンタに徹し、プレゼントを玄関先に置いて立ち去った祖父…。目に映る温かい夕餉の灯…目を潤ませ見つめていたであろう祖父の姿が浮かぶ。どうにもならない過去のやるせなさに胸が苦しくなる。お祖父ちゃんの心を慮るにつれ涙が止まらなくなる。心も体もちぎれる程に寒かったことだろう…。
クリスマス間近、吹き付ける風を避けて襟に顔を埋め、嗚咽する。
堅い八ツ橋が好きだった。祖父と知らぬまま、笑顔見たさに病床に何度も届けた。豪華なリカちゃんハウス、ニッキの香り…。祖父とは知らなかった祖父との思い出は儚き淡雪の如く…クリスマスの切ない思い出である。
街の華やかなイルミネーションが、祖父への思いと解けて光の輪の中に滲んでゆく。
お祖父ちゃん、たくさんの愛をありがとう。遅ればせながらクリスマスプレゼントです。
たくさんの素晴らしい仲間たちの作品、お祖母ちゃんとどうか楽しんでください。
Merry Christmas. 愛と敬意をこめて…。
紗野玲空