左耳のピアスの理由②
今日が人生で初めての告白。
これまで私に告白してきた人たちの気持ちってこんな感じだったのね。緊張しすぎて心臓が飛び出そうだわ。そんなことを思いながら19時に彼と待ち合わせしていることになっている場所へと向かう。
「よ!」と、いつもの調子の彼。私は変に緊張してうまく会話が成り立たない。微妙な空気が時々流れる。彼は気を使って話題をたくさん出してくれてたけど、どんな受け答えをしたのか全く覚えていない。前も見ずに歩いていたから電柱にぶつかる手前で私の体は彼の方へ引き寄せられた。彼がぶつかりそうになった私の手をつかんで正面衝突を避けようとしてくれていたのだった。「おいおい、気を付けなよ?」そんなことを言いながら手は離さないでいてくれた。
彼の手は大きくて温かかった。そんな安心感から私は軽く彼の手を握った。そうすると彼もまた握り返してくれた。私はもう一度彼の手をさっきの力よりも少しだけ強く握った。彼も同じことをした。やっていることはまるで子供のよう。どっちがより相手を思っているかを言い争っているかのように手を握る行為は続いた。さすがに男の子の力には我慢できなかった私は「もう!痛いじゃん!!」ってちょっとはぶてたような口調で言った。
彼はそんな私を見て大声で笑った。「笑わないでよ~!」そう言っている私も笑いをこらえることができなかった。彼は私に言った。「やっと笑ったね!俺が何か悪いことしたのかと思ったよ~。何かあったの?」待ってましたと言わんばかりのチャンスが私に到来した。
「あのね。私あなたのことが好きになっちゃったみたいなの。 ねぇ、私と付き合わない?」彼は急に真剣な顔になった。一切の笑顔が消え、二人の間に重たく長い時間が流れた。それを払拭するように彼の言葉が響いた。「うん!もちろんいいよ!!」
私は拍子抜けしてその場に崩れ落ちた。これまでの緊張と不安で気が気じゃなかったのに、なんとあっさりした返事。後で彼に聞いてみると、私の人生の中でこの告白が最初で最後になるだろうと思ってインパクトに残るシーンにしたかったらしい。後は、ちょっと意地悪してみたかったとのこと。
晴れて私たちはお付き合いすることになった。大学は別だったけど幸いにも近かった。お互い一人暮らしでそこからは半同棲をしていた。今思えば、あの時が一番楽しかった。バイトをしていたのでお金はそれなりにあった。寝る時も起きた時も彼と一緒だし、旅行にも行った。喧嘩した夜なんかは背中合わせで寝たこともあった。
たくさんの思い出ができた一年とちょっと。そろそろ大学卒業という時期になっていた。私と彼はこのまま付き合っていくことになり、就職もお互いそう遠くない場所に就職した。私は彼と結婚する気でいた。彼もそんなことを思っていた。大学時代の延長線のような生活が二年続いた。
彼は大学時代左耳にピアスをしていた。お揃いで開けようといわれてピアッサーも二つ用意してくれていたけど、怖くて結局私だけ開けなかった。今も彼は左耳にピアスをつけている。使ってないピアッサーは今頃、埃まみれになってどこかにしまってある。そんなことを考えているうちに、付き合って4年が経とうとしていた。
次回
「悪者」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?