#9 奥主榮「僕は迷子」
僕は迷子
今、この時代の中で 僕は迷子
行く先を見つけられないことに
ただ戸惑うばかり 自分の無力さに
泣きだしてしまいたいけれど
僕には 大切な子どもが
手を放してはならない一人ひとりが
怯えることもしょうがない
迷うことだってあるだろう
戸惑いや過ちはけして
責められるものではない
けれど足を止めることだけは
それだけはしたくない
誰もが波に揺られる 頼りない方舟
正解を見つけられないまま
それでも守りたいものがある
それを大切に思っているからこそ
誰かが正しいというのではなく
誰もが誤りをしでかしてしまうもの
だからこそ誰に惑わされることもなく
譲れない自分でいなければ
そうしなければ世界はのっぴきならない
とんでもない事態に陥ってしまうから
僕は 間違いながらでも
他の誰のものでもない
自分の決断で 一歩を踏み出して
その足跡を まだ幼いもの達に
僕の生きてきた証として残していこう
誰もが道を誤る時代だから
確かなものなど目指さず
頼りないものとして
まず自分自身を信じよう
僕は時代の迷子 だからこそ
僕を継いでいく世代の為に
僕の逡巡を語り残していこう
誰もが正しいということはなく
誰もが誤っているということもなく
頼りない笹船のようなものであったと
そんな小さなものだからこそ
必死に生きていこうとしたのだと
そのことこそ、語り伝えたいと
ただそればかり それ以上のことは
まだ見えない未来を生きていく方たちに
後悔無く手渡していけるようにと
誰よりも僕こそが
この時代の迷子だから
2020年 4月 9日 奥主榮
2020年 4月 10日 奥主榮
2020年 4月 11日 奥主榮
——
[作者より]
今、余りにも多くの不確定な要素の中で、問われているのは私たちの一人ひとりがどのような価値観をもって生きてきたのかということだと思っています。
正しい、間違っているということとは別に、何故その判断を選んだのかということが問われているのではないかと感じています。
もう十分に生きた私は、まだこれから先の世界で生きていくであろう方たちに、この言葉を残したいと思いました。
[奥主榮(おくぬしえい):詩人。本名、関明夫名義での著作もあり。]