#7 もう一つの椅子「犠牲」
犠牲
これ以上はない
もうこれ以上行く先はない
後戻りは今はできない
はるか彼方の壁の先まで
見通すことは今はできない
弾かれた夏の夜にありふれた君は
あの人に恩を返せてないの
白く霞む冬の朝に安らいだ君のもと
ありったけの平和は隠れてないの
地下に沈んだ水脈のように
生き抜くことなど今はできない
風に吹かれた枯れ木のように
耐え抜くことなど今はできない
もうこれ以上行き着く先はない
これ以上はない
——
[作者より]
ロシアの映画監督・タルコフスキーによる『タルコフスキー日記:殉教録』(キネマ旬報社, 1991)を読んでいたら、悪態をつきまくっていて、2020年の感情の波に疲れた私は鼓舞されました。私も、悪態をつきたい。いま私自身が欲しいのは前向きな言葉ではなく、暗い言葉が自分を励ますような気がしていて、自分に寄り添うために、昔作った未発表の曲の詩を書き直しました。
[もう一つの椅子:本を売らなくなった一箱古本市の店主。https://note.com/chairforyou]