![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154030699/rectangle_large_type_2_d48226ab42092b8b92b79a949c04379a.png?width=1200)
ひとりじめ
″ねえ、私だけじゃだめなの?″
夜、家の近くの公園。
「俺と、付き合ってほしい」
「…待ってた、その言葉」
俺に初めてできた彼女。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153979403/picture_pc_d1599c1b39e32d06e05c3def43e240ce.png?width=1200)
贔屓目なしにみても、天使のように可愛い。
俺が、こんな子と付き合っていいのか、と告白したくせに思ってしまう。
しかし、彼女の桜も、俺のことが好きだったらしい。
両想いが実り、彼氏彼女の関係で日々を楽しく過ごしている。
「ねえ、今日〇〇の家行っていい?」
「まあ、いいけど。急にどうした?」
「今日はなんか、〇〇に甘えたいの」
「なにそれ…可愛すぎるって」
桜のずるくて可愛いお願いを断る理由はどこにもなかった。
桜は3限まで、俺は4限まであったので、桜には図書室で待ってもらった。
桜と家でイチャイチャできると考えると、教授の話など、1ミリも入ってこない。
俺の頭の中は、桜で満たされていた。
「〇〇くん、話聞いてなかったでしょ笑」
「あれ、バレてた?」
同じ講義を取っている、ゼミが一緒の美空と話しながら図書室へ向かう。
「そういえばさ、〇〇くんの彼女ってどんな子?」
「ん〜、端的に言うと、天使かな」
「なにそれ笑」
「まあ、それくらい可愛いってこと」
「え〜、美空よりも?」
言い忘れていた。
美空はいわゆるあざと女子だ。
普通、彼女持ち相手に、顎に手をあてて上目遣いなどしないだろう。
「まあ、美空は美空でかわいいよ。だけど、桜はそれ以上だから」
「でも、美空のこと可愛いとは思ってるんだ」
「まあな、あ、桜!」
「あ、〇〇…って、隣の女は?」
女の子、ではなく女、と呼んだのが気になったが、とりあえず無視した。
「ああ、俺とゼミが…」
「〇〇くんの彼女の、美空ですっ!」
美空は突然、俺の腕に抱きつき、彼女アピールをしてきた。
俺の彼女相手に、正気か?アホなのか?と美空の頭が心配になった。
「美空、何言ってんの?」
「え…〇〇、嘘だよね?」
「当たり前だろ、こいつはゼミが一緒で、さっきの講義も同じだっただけ」
「えっ…結局私とは体だけの関係だったのね…ぐすんっ」
「美空、頭いかれたんか?事実無根なこと言うな」
「むぅ…そんなに否定しなくてもいいじゃん…」
「否定もなにも、それが事実だろ」
「さっき、美空のこと可愛いって言ってくれたくせに…」
「〇〇…それ本当?」
「まあ、それは言ったけど」
「そっか…〇〇、帰ろ?」
「え、お、おう」
急に表情が暗くなった桜と手を繋ぎ、図書室を後にする。
「桜…体調悪いか?」
「…なんで?」
「いや、さっきよりも顔色悪かったから…」
「〇〇、家着いたら話ある」
「お、おう…」
さっきの美空のノリについてだろうか。
ただ、あれは美空に非があるように感じるが。
まあ、とりあえず桜の意見を聞こう。
「俺、飲み物持ってくるから適当に座ってていいよ」
「その前に話がしたい」
「あ、はい」
桜のいつもより低い声に気圧され、テーブルを挟んで桜と向き合う。
「〇〇の彼女は誰?」
「え、桜だよ?」
「美空って女は、誰?」
「ゼミ一緒で仲良くしてる人、かな」
「…私だけじゃダメなの?」
「え…?」
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154013012/picture_pc_28a4b20573bf1f4bbfc9464e65934d3b.png?width=1200)
光が消えた桜の瞳は、俺を見つめる。
「私だけじゃ、満足できないの?他の女と話してる方が楽しいの?」
「いや、桜が1番好きだよ?美空とはただの友達だし…」
「それでも他の女と関わってるじゃん…」
「それは交友関係も必要だし…」
「〇〇は…私だけじゃだめなの?」
「桜のことは好きだけど、他の…んっ」
俺の言い訳を遮るように、桜は唇を重ねてきた。
言い訳はいらないから、愛をくれ、と言わんばかりに激しく貪るように。
「はぁ…桜、急にどうしたんだよ」
「私…苦しいの…。私は〇〇のことがこんなにも好きなのに…」
「俺も桜のこと好きだよ?」
「でも…〇〇のその気持ちは桜だけじゃない…。他の女にも向いてるでしょ?」
「いや、美空には特別な感情はないよ?」
「私…〇〇が他の女と仲良くしてるだけで嫌なの…」
「それは…」
「ねぇ…桜って重い女かな…?」
「〇〇、桜に幻滅してな…んっ」
今度は俺が桜の言葉を遮る。
桜の辛い顔が見たくなかった。
俺のせいで悲しませているのが嫌だった。
「俺には、桜しかいないから」
「なら…もっとキスして…!抱いて…!桜の全てを愛して…!」
桜の愛に飢えた叫びは、俺の中の桜に対する愛の壺を割った。
了承などないまま、俺は桜を床に押し倒し、所望された通り、桜の全てを愛した。
蕩けた桜の表情、甘い声、柔らかい肌。
桜の全てが、愛しくて、俺だけのものにしたかった。
いや、既に俺だけのものだ。
誰にも渡したくない。
桜は、俺だけの桜だ。
「〇〇…桜、幸せだよ」
「俺も、桜をこんなにも愛せて幸せ」
「ねぇ…ひとつになろ?」
「覚悟はできてる?」
「うん…〇〇と付き合った時からできてる」
「なら、手加減はしないからな?」
「うん…〇〇の愛、全部ちょうだい」
桜の甘い声が聞きたい。
桜の乱れた姿を独り占めしたい。
桜への愛を、全部ぶつけたい。
気づいた時には、窓から朝日が差し込んでいた。
「んっ…体いてぇ…」
「おはよ、〇〇」
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/154014481/picture_pc_9de25003efd9ba1b61492c8cb860090c.png?width=1200)
「桜、おはよ」
「昨日は、ありがとう」
「いや、俺の方こそありがとう。桜のことがこんなにも好きなんだってわかった」
「〇〇、体痛いよね?朝ごはん、桜が作ってくるね」
「いや…桜だって疲れてるだろ?」
「そうだけど…〇〇に桜の料理食べてほしかったし」
「なら…お言葉に甘えようかな?」
「うん、待っててね!」
桜の気遣いと彼女らしい健気な姿に、さらに好きの気持ちが増した。
彼女が料理してるところにバックハグ、なんてカップルらしいことがしたかった。
ただ、あまりにも体が痛すぎて、ソファから1歩も動けなかった。
自分の体の弱さが憎い。
桜を愛してあげるには、体も鍛えないと。
「あ、〇〇、スマホいじっちゃダメ!」
「え?」
「他の女と連絡取るかもしれないから」
「じゃあ、母親以外の連絡先、全部消すね」
「SNSのフォローとかも外してね?」
「りょーかい」
桜に言われた通り、SNSでの女の子との繋がりを全て消した。
もちろん、美空の連絡先ももれなく削除した。
「おまたせ、〇〇への愛をたくさん込めて作ったよ」
「ありがとう、桜」
「私が食べさせてあげるね!あ〜ん」
「あ〜ん、うん、美味しいし、桜の愛がすごく伝わってくる」
「んふふ、桜のこと、もっと好きになった?」
「うん、俺には桜しかいないよ?」
俺は、これからも桜にハマっていくのだろう。
この沼からは抜け出せない。
だけど、それでいいと思える。
この世界に、桜さえれば、それでいい。
いや、この世界には桜と俺しかいない。
俺の世界に、桜さえいれば、それでいい。
″次、いつシよっか″
″あれ、今忙しいの?″
″ねえ、何か返信してよ″
″なんで大学でも無視するの?″
″ねぇ、私のこと無視しないでよ″
″美空とは、本当に体だけの関係だったの?″