見出し画像

プライドなんかにかこつけちゃって

「○○って、ずっと彼女いないよね」


学校からの帰り道、突然、隣にいた幼なじみの咲月にそう言われた。


「急になんだよ」

「いや、私の友達に彼氏ができたらしくてさ」
「そういや、○○って彼女いたことないな~、って」

「いや、咲月も彼氏できたことないじゃん」

「できてない、じゃなくて作ってないだけです~」
「ま、○○は"作れない"だろうけどね」

「は?なんで俺が下に見られてんの」

「言っとくけど、私マドンナだよ?」

「…自分で言っといて顔赤くすんなよ」

「これ、自分で言うの恥ずかしいもんだね…//」
「ま、とりあえず○○よりは上だも~ん」


傍からみれば、ガキのような言い争いだ。

しかし、俺の対抗心に火が付いてしまった。


「俺だって作ろうと思えばできるし」
「てか、好きな人いるし告白してやるよ」

「え、だ、誰…?」

「井上さん」


井上さんとは、「学年の二大マドンナ」と称される美少女である。

成績優秀、容姿端麗、頭脳明晰、夢を集めたような人だ。

ちなみに、もう一人のマドンナが、ここにいる菅原咲月だ。


「え、ほ、本当に告白するの…?」

「うん」

「や、やめときなって…」
「和は今までたくさんの男の子を振ってきたんだよ?」

「知ってるよ。でも好きだし」
「最近話すようにもなって、仲良くなってきたんだよね」

「そ…そうなんだ…」
「ま、まあ、どうせ振られるだろうけどね…!」


最初は鎌をかけるつもりだった。

本当は井上さんのことを好きではない。

俺の好きな人は、ずっと咲月だ。

だけど咲月が本気で信じてしまっている様子だ。

そうなった以上、嘘だとは言えない。


「じゃあ、明日、楽しみにしておけよ」

「う、うん…」





その夜、咲月からメッセージが届いた。


『ねえ、本当に和に告白するの?』

『するよ』

『やめとかない?』
『振られたら、○○が傷つきだけだし…』

『もう、放課後に話がある、って伝えた』
『それに、咲月に煽られたままなの癪だし』


今更後に引けない。

意地を張ってしまった。

男のくだらないプライド、ってやつだ。

でも、どうせ井上さんに告白しても振られるだろう。

明日、"やっぱ振られた"で話を終えれば済む話だ。


『じゃあ、もう寝るわ』
『おやすみ』


そうメッセージを送り、寝床に就こうとすると、窓の方から声が聞こえる。

窓際のカーテンを開くと隣の家の窓から、咲月が俺の名前を叫んでいた。


「おい、今何時だと思ってんだよ」
「近所迷惑にも程があんだろ」

「それはごめん…」

「まあ、今に始まったことじゃないけど」
「それより、どうした?」

「その…本当に和に告白するの?」

「するよ」

「本当に和のこと好きなの?」

「…まあ、うん」

「ねえ○○…意地になってない?」

「え?」


的を射た咲月の言葉に、間抜けな声が出てしまう。


「○○のこと煽っちゃったのは、ごめん」
「○○が何回か告白されたことあるの、知ってるし…」


今まで数人の女の子に告白はされてきた。

だけど、全部断ってきた。

もちろん、目の前にいる女の子が好きだから。


「お願い…和に告白しないで…」
「咲月じゃ…ダメなの…?」


その一言とともに、咲月の目から涙が滴る。


「○○のこと、ずっと好きだったんだ。でも勇気がなくて一歩踏み出せなかった」
「意気地なしだった自分が悪いのは分かってる。でも…いやだよ」


咲月は涙で顔が崩れながら、俺に思いの丈をぶつける。

くだらない対抗心とプライドのせいで、咲月を悲しませてしまった自分に腹が立つ。


「ごめん、咲月…」
「俺のせいで、こんなにつらい思いさせて」

「ううん、私がわがまま言ってるだけだもん」

「…今からじゃ、遅いかな」

「え?」


自分がずるい人間なのは分かっている。

この一言が卑怯なことは自分が一番わかっている。

だけど、嘘を嘘と認めるチャンスが、ここしかなかった。


「俺、ずっと咲月が好きなんだ」
「一番の意気地なしは、俺なんだよ」

「じゃあ、和が好きなのは…嘘?」

「うん、くだらないプライドで、咲月に嘘ついてた」
「プライドのせいで、咲月のことを傷つけてた」


いや、違う。

プライドなんて言葉に逃げるな。


「いや…俺のせいで咲月を傷つけた…ごめん」

「ううん、私が煽っちゃったからだもん…」

「なあ、今からそっちいってもいい?」

「こ、こっち?」
「うん、いいよ」


咲月に許可をもらったので、窓から窓へ飛び移る。


「ちょっと、落ちたらどうすんの!」

「そんなこと考えなかったわ」
「一秒でも早く、咲月を抱きしめたかったから」


俺は咲月のことを強く抱きしめた。

今まで伝えられていなかった愛と、傷つけてしまった懺悔をぶつけるように。


「俺、咲月のことが好きだ。どうしようもないくらい」





「私も…○○が好き。どうにかなっちゃうくらいに」





「俺と付き合ってくれる?」





「うん」





「俺の隣にいてくれる?」





「○○が嫌って言ってもいてあげる」
「○○は何してくれる?」





「じゃあ俺は、嫌になるくらい咲月に好きって伝える」
「言葉でも、行動でも」




俺はその証として、咲月にキスをプレゼントした。

その口づけで、永遠の愛を誓うように。

いいなと思ったら応援しよう!