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記念日にしたくなくて…

7月29日

今日は彼女の茉央の誕生日。

茉央の誕生日は、ちゃんとお祝いしたい。

だけど、あいにく僕は今日会社に行かなければならない。

それを伝えると、茉央には


″なんで茉央の誕生日に仕事やねん!″


って怒られてしまった。

怒った顔すら可愛すぎたのは、ここだけの話。

有休取ろうと頑張ったんだけどね。

うちの会社がほら、ブラッ…ごほん。

ただ、誕生日に何もないのは嫌だから、少しお高めなレストランを予約した。

喜んでくれるといいな。


〇〇:じゃあ、仕事行ってくるね

茉央:うん、頑張ってな

〇〇:頑張って早く帰ってくるね

茉央:遅れたら許さへんからな?

〇〇:大丈夫、茉央のためなら何だってできるから

茉央:調子のいいこと言って…//

〇〇:茉央、頑張るためのハグ欲しいな…

茉央:もう、うちの彼氏は甘えん坊やな… ギュッ

茉央:ふふ、これで頑張れそう?

〇〇:うん、ありがとう ナデナデ

茉央:そんなんせんでええて…//

〇〇:じゃあ改めて、行ってきます


茉央からパワーをもらい、家を出る。

茉央のためにも、仕事頑張らないと。

茉央のことを頭に浮かべながら、僕は車を走らせた。


_____


愛のパワーってすごい。

本当にすごい。

普段なら1時間半かかるような作業が30分で終わってしまった。

上司に残業を押し付けられそうだったが


「用事あるんで」


と、きっぱり断ってきた。

上司なんかに邪魔されてたまるか。

俺の愛の育みを。


〇〇:ただいま

茉央:え、はやっ!?

〇〇:茉央のためなら何でもできる、って言ったでしょ?

〇〇:これが、愛の力ってやつ?

茉央:何それ…笑

〇〇:あ、準備できてる?

茉央:ごめん、こんな早く帰ってくると思ってなくて…

〇〇:ううん、大丈夫だよ

〇〇:俺も、ちょっとやることあるから

茉央:そ、そっか

茉央:(期待していいのかな…?)


お互いに部屋に戻り、出かける準備をする。

それと共に、とある準備を進めた。


茉央:〇〇、かっこええやん

〇〇:ありがとう

茉央:なぁ…茉央は?

〇〇:めっちゃ可愛い、好き

茉央:あぁ…ありがとう…//

〇〇:本当に好き、愛してる

〇〇:茉央しか見れない

茉央:も、もうええ…//

〇〇:じゃあ、行こっか

茉央:…繋がへんの?

〇〇:え?

茉央:手…繋がんの?

〇〇:何、繋いでほしいの?

茉央:もうええ…いじわる

〇〇:ねえ、拗ねないでよ… ギュッ

茉央:素直に繋いでや…


わがままなお姫様をエスコートして、車に乗せる。

茉央の柔らかい手の感触が心地よかった。

信号待ちしている間、茉央の手を握って柔らかさを感じていたら

″茉央の手、ぷにぷにせんでよ″

と怒られました。


〇〇:着いたよ。はい、手貸して?

茉央:なにこれ、お嬢様みたい

〇〇:茉央は俺のプリンセスだもん

茉央:…

〇〇:…ごめんなさい

茉央:ええよ、嬉しかったし

〇〇:お嬢様、エスコートいたします


なんて、多分場違いなおふざけをして、レストランに入る。

オシャレな店員に、レストランの中央近くの席に促される。

席の指定はしてなかったが、窓際の席とかに座るのかな、と思っていた。

他のお客さんに見られやすくて、少し恥ずかしい。


茉央:…

〇〇:落ち着かないね…笑

茉央:うん…

〇〇:もっと身の丈に合うレストランにすればよかったわ

茉央:そ、そうだね…

〇〇:…体調悪い?

茉央:え、ううん、そんなことないよ?

〇〇:そっか、良かった

茉央:(オシャレすぎて落ち着かない…)

茉央:(準備って、やっぱりそういう事なのかな…)


今日はコースメニューで予約しているため、注文せずとも料理が運ばれてくる。

聞いたことないような地名の食材が使われてたり

なんでこんなにあるの、という数のカトラリーが並べられたり

自分の身の丈を思い知らされた。


〇〇:美味しかったね

茉央:うん…

〇〇:…そうでもなかった?

茉央:え、ん?

〇〇:あれ、聞いてなかった?笑

茉央:ごめん…聞いてなかった笑

〇〇:何かあった?

茉央:ううん、何もないよ?

〇〇:そっか…何かあったら言ってね?

茉央:うん、ありがとう

茉央:(〇〇こそ、何かないの…?)


心ここにあらず、の茉央を心配しつつも、家に帰ってくる。

茉央をリビングで待たせ、ケーキの準備をする。

今日は少し贅沢に、ホールケーキを用意してみた。


〇〇:おまたせ

茉央:え、ホールケーキ?

〇〇:前にさ、ホールケーキをそのまま食べたい、って言ってたじゃん?

〇〇:今日は少し贅沢にいきたくて

茉央:そっか…笑

〇〇:良かった…

茉央:え?

〇〇:茉央の笑顔、見れてよかった

〇〇:レストラン行ってから、ずっと暗かったから

茉央:ごめん…

〇〇:ううん、ケーキ食べて笑顔になろ?

茉央:…うん!


茉央の顔が晴れてよかった。

俺は安心しながら、茉央がケーキを頬張る姿を見つめる。


茉央:そんな見つめんとって…//

〇〇:ごめん、可愛くて

茉央:…美味しい

〇〇:んふふ、可愛い

茉央:…

茉央:ちょっと、トイレ行ってくる

〇〇:うん、分かった

茉央:(この間に準備してくれるかな、ふふっ)


茉央がトイレに行っている間、こっそりケーキを食べた。

茉央のために買ったとはいえ、やっぱり美味しそうだった。

クリームがちょうどいい甘さで、たまらなく美味しかった。

二口目を食べようとしたとき、茉央が帰ってきた。


茉央:ん、なんかしてたん?

〇〇:あ、いや?何も?

茉央:ふ〜ん?

茉央:ま、そういうことにしたるわ

〇〇:うん、あ、ケーキまだ食べる?

茉央:うん、食べる

茉央:(ふふっ、バレバレだぞ)

〇〇:(食べたの、バレてるな…)


茉央は黙々と食べ、俺はそれを見る。

ただ食べてるだけなのに、何故見ていられるのだろう。


茉央:あれ…?

〇〇:ん?

茉央:ない…

〇〇:何がないの?

〇〇:あ、ケーキの中のいちごがなかった?

茉央:嘘でしょ…

〇〇:ごめん、もっといちご入ってるやつ買えばよか…

茉央:信じらんない!意味わかんない!

〇〇:ちょ…いちごでそこまで…

茉央:いちごな訳ないじゃん!

茉央:今、いちごなんてどうでもいい!


茉央が怒っている意味が分からなかった。

ケーキが気に入らなかった?

だとしたら、ケーキ出したタイミングで怒っているはずだ。

つまみ食いしたのが悪かった?

でも、怒るほどの量食べてはないはずだ。


〇〇:茉央…何でそんなに怒ってるんだ?

茉央:…もう知らない


茉央はそのまま何も持たず、家を出ようとする。

放っておける訳もなく、茉央の腕を掴む。


〇〇:茉央、ちょっと待ってよ

茉央:離してよ!

〇〇:俺に話してくれよ、何で怒ってるのか

茉央:…

〇〇:俺の非だったら、ちゃんと受け止めるから

茉央:…だって、おかしいじゃん

茉央:何回も…チャンスあったじゃん

〇〇:チャンス…?

茉央:プロポーズするチャンス、たくさんあったじゃん!

〇〇:…

茉央:高めのレストランでサプライズとか、ケーキの中に指輪とか…

茉央:そういうの、女の子なら期待するやん!

茉央:誕生日にサプライズしてくれるんかな、って思うやん!

〇〇:茉央…

茉央:そんなこと考えてた自分が…バカみたい…

茉央:〇〇に期待してたのがバカみたい…

〇〇:なぁ…茉央

茉央:…何

〇〇:もう少しだけさ…待ってほしい ギュッ

〇〇:ねえ…ソファでイチャイチャしたいな

茉央:意味わからん…


そうは言いつつも、無抵抗でソファに来てくれる。


〇〇:なぁ、茉央

茉央:なんや…

〇〇:俺さ、茉央のこと大好きなんだ

〇〇:だから…色々大切にしたいんだ

茉央:大切にしたい?

〇〇:うん、茉央自身のことはもちろんなんだけどさ

〇〇:プレゼントとか、記念日とか…

茉央:そうなんや…

茉央:って、もう誕生日終わっちゃう…


時計は23:59を示していた。

〇〇:ねえ…キスしながら日跨がない?

茉央:何それ…笑

〇〇:ダメかな…

茉央:まあ…ええけど

〇〇:じゃあ…改めて

〇〇:茉央、お誕生日おめでとう チュッ

茉央:んっ…


茉央と唇を重ねながら、時計が0:00に変わるタイミングを過ごす。

このままずっといたかったけど、やらなきゃいけないことがあるので、唇を離す。


〇〇:茉央、ちょっとだけ待っててくれる?

茉央:え、うん…


俺は自分の部屋に戻って、1つの箱を取り出す。


〇〇:茉央、おまたせ

茉央:何してたん…?

〇〇:茉央に、愛を伝える準備、かな

茉央:愛を伝える…

〇〇:茉央、待たせてごめんね


俺は茉央の前で片膝をつき、小さな箱を開けた。


〇〇:茉央、俺と結婚してください

茉央:…うぅ

〇〇:期待を裏切る形になったこと、本当にごめん

〇〇:だけど、誕生日は誕生日という記念日にしたかったんだ

茉央:ならそう言ってくれれば…

〇〇:女の子は、サプライズが好きなんでしょ?

〇〇:俺なりの、サプライズだよ

茉央:うぅ…〇〇ぅ… ギュッ

茉央:酷いこと言ってごめん…

〇〇:ううん、俺こそごめんね

〇〇:でも、どうしても誕生日と他の記念日を一緒にしたくなくて

茉央:〇〇のそういう気遣い、大好き

〇〇:不意に大好きとかずるいって…//

茉央:ふふっ…照れてやんの

〇〇:うるせぇな

茉央:てか、指輪つけてや

〇〇:うん、手出して?


茉央の長く細い左の薬指に、指輪を通す。


〇〇:うん、似合ってる

茉央:ありがとう、〇〇

〇〇:こちらこそ、いつも一緒に居てくれてありがとう

〇〇:茉央といる時間が、本当に好き

茉央:茉央も、〇〇と出会えてほんまに良かった

茉央:ふわぁ…

〇〇:眠い?

茉央:うん…

〇〇:じゃあ、ベッド行ってて?

茉央:え、〇〇は…?

〇〇:テーブル片付けてから行くから安心して?

茉央:〇〇といる… ギュッ

〇〇:ねえ…動きにくいんですけど…笑

茉央:うるさい…〇〇が足りないんや…

〇〇もう…笑


茉央に抱きつかれる嬉しさを隠しながら、テーブルを片付ける。

風呂も歯磨きもしてなかったが、俺も疲れてたのでそのままベッドに向かった。


茉央:〇〇…ほんまにありがとう

茉央:〇〇は最高の彼氏や

〇〇:ううん、違うよ

〇〇:最高の、″旦那さん″ね?

茉央:ふふっ、そうやったな

〇〇:で、茉央が最高の″お嫁さん″だよ

茉央:あぁ…幸せや…

〇〇:俺も…


2人はそのまま、眠りについていた。

夢の中でも愛し合っていたのか、2人は眠りながら抱き合っていた。

そして朝

陽の光に照らされて、茉央の薬指が輝いていた。

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