小悪魔系幼なじみの手のひらの上で
″幼なじみ″
妄想癖のある人なら、一度は憧れる存在。
最初はただの幼なじみだと思っていて。
だけど、幼なじみに彼氏の匂いを感じると心がモヤモヤして。
″ああ、俺ってあいつのこと…″となる定番で最強の展開。
だけど、僕の場合は違う。
何が違うのか。
それは…
″幼なじみのことを、現時点で好きすぎる″
そう、ただの幼なじみなんて思えない。
だって、幼なじみが可愛すぎるから!
だけど、この恋は叶いそうにない。
だってあの子は…
『小悪魔系幼なじみだから』
_____
朝、いつものようにアラームに起こされる。
ボサボサな髪を、少し雑に直す。
朝飯を食べて、服を着替える。
そして、玄関のドアを開けると、
「おはよ、〇〇!」
天使が待っている。
「和、おはよう」
「おはよ…って、もうまた〜?」
そういいながら、和はピンと跳ねた寝癖を櫛で直してくれる。
いつもボサボサな髪を雑に直すのは、これを狙っているところがある。
いや、これしか狙っていない。
「ありがとう、和」
「もう、なんで直してこないかな〜」
「あ、もしかして、和に直してほしいとか?」
「っ…//」
「あらあら、図星ですか〜?」
「そんなこともなくもなくもなくもない…」
「ふふっ、どっちだよ!」
ツッコミ代わりに、僕の肩を叩いてくる。
ちょっと力加減がバグっているけど、和に叩かれるなら何の問題もない。
「あ、そうだ!〇〇にクイズです!」
「今日の私、どこが違うでしょーか?」
おっと、超難問だ。
正直、どこが変わったのか、全くわからない。
今日も可愛い、ということ以外わからない。
「ぶー、時間切れ!」
「もう…リップ変えたのわかんない?」
そう言うと、和はリップを塗った唇を突き出してくる。
そしてそのまま、和の顔は拳1個分まで近づく。
「ち…近い…」
「へへっ、キスできちゃうね」
「はっ…!?」
「ねぇ…しちゃう…?」
「ちょ…それは…//」
ほんの少し勇気を出せばキスできる距離で見つめる和。
思わず目をつむり、その後の展開を期待していると、
「ぷっ、あははっ」
「本当にキスされると思った?」
「え…?」
「あ、思ったんだ〜」
「私からのキス、期待したんだ〜」
そう、和は小悪魔だ。
こんな手打ちに、何度も引っかかってきたはずだ。
なのに、なぜ引っかかるのだろう。
僕は結局、和の手のひらの上なのか。
「っ…は、早く大学行くよ!」
「はぁい」
今、僕の顔は恐らく真っ赤だろう。
ほぼゼロ距離で見つめた、和の美しい顔。
改めて、和が美人なのだと痛感させられた。
「〇〇、大学までさ、手繋がない?」
「ふぇ?」
突然の提案に、間抜けな声が出てしまう。
「和、何言ってんの?」
「昨日、恋愛ドラマ観ちゃってさ〜」
「青春らしいことしたいな〜、なんて」
「だとしても…」
「いいじゃん、〇〇、彼女いないんだし」
10年以上、1人の人を想った結果、彼女いない歴20年の僕。
その想い人に1番言われたくないことを言われてしまう。
「登校時間だけ、私が彼女になってあげる!」
悔しいけど、一瞬でも和が彼女になってくれるなら…。
僕は、差し出された和の手を取る。
すると、和の指は僕の指と絡みつく。
「〇〇、これが恋人繋ぎですよ?」
「彼女できたときのために、覚えておきな?」
改めて思う。
僕はこの小悪魔相手に、よく10年以上耐えきれてきたな、と。
大学に着くと、和の友人が既に教室にいた。
「あ、和おはよ〜」
「さっちゃんおはよ〜」
そうして繋がれていた手が離される。
好きな人と繋いでいた手が離れると、途端に寂しさが込み上げる。
「和、昨日のドラマ観た?」
「みたみた〜!めっちゃキュンキュンしちゃった!」
「じゃあ…教室違うからまた」
「うん、〇〇またお昼ね〜」
手のひらの寂しさを抱えながら、講義を受ける教室に向かう。
「〇〇〜、お昼いこ〜」
二限が終わり、わざわざ教室まで来てくれた和。
「ちょっと待って、リアクションペーパー提出してから…」
「そんなのお昼食べた後でもできるよ〜」
「てことで、パソコン閉じていくぞ〜!」
「ちょ、和〜!」
打ちかけのパソコンが閉じられ、そのまま和に持っていかれる。
「はぁ…はぁ…」
「ほら、お昼食べるよ〜」
「その前にパソコン返してよ」
「あぁ、ごめんごめん」
「それと、はい、お弁当」
「いつもありがとう」
「いえいえ、〇〇の食生活不安だからさ」
そう、大学のある日は、いつも和がお弁当を作ってくれている。
理由は″〇〇の食生活が終わっているから″
〇〇のことを思って…// なんて甘いものではなく、痛いところを突かれていた。
和からパソコンとお弁当を受け取り、リアクションペーパーに取り組む。
「〇〇、食事中くらいパソコン閉じたら?」
「和がパソコン取り上げなかったらこんなことしてないよ」
「あ〜、私のせいにするんだ〜」
「もうお弁当作ってきてあげないよ?」
「っ…」
「和の愛情たっぷりなお弁当、食べたくないの?」
「食べたいです…」
「はい、じゃあ閉じましょうね〜」
そしてまた、パソコンが閉じられた。
「そういえばさ、〇〇」
「ん?」
「朝、私が手離したとき、寂しそうな顔してたよね?」
和はニヤニヤした顔でこちらを見つめる。
まるで、全てを見透かしたように。
「…なんのこと?」
「バレてないとでも思ってる〜?」
「〇〇のしゅんとした顔、可愛かったな〜」
「…してないし」
「じゃあ寂しくなかったの?」
「まあ…」
「そっか〜、明日も手繋いであげようと思ったけど、しなくていっか」
「え?」
そうなると話は別だ。
和と手を繋いでいた時の幸福は、何物にも代えがたい。
「つ、繋いでくれるの?」
「〇〇が寂しがってるなら繋いであげようかな〜って思ってたんだけどね」
「別に寂しくないなら…」
「寂しかったです」
背に腹はかえられない。
恥ずかしさなど捨てて、本当の気持ちを打ち明けた。
「へへっ、じゃあ明日も繋ごうね!」
「うん…//」
和は小悪魔な幼なじみだけど、
そんな小悪魔に振り回されているけど、
そんな今の関係が、超絶心地いい。