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現実だってドラマみたいに。
「○○が彼氏だったら楽しいんだろうな~」
「そんなこと言ってないで、早く彼氏作れよ」
「…うん」
「じゃあな、咲月」
「うん、また明日…」
あ~あ、今日も失敗か。
遠ざかっていく背中。
夕陽に重なって伸びる影。
私は今日も、彼に手を振るだけだった。
「おはよ、〇〇!」
「咲月か、おはよ」
登校中、思いを寄せる彼を見つけ、後ろから声をかける。
素っ気ない返事だけど、ちゃんと目を見て挨拶してくれる辺り、好きだな。
「ねえ、昨日のドラマ観た?」
「観たよ、咲月に散々″観て!絶対観て!″って言われたし」
「で、どうだった?」
「ん〜、まあ、良かったんじゃない?」
彼に勧めたのは今話題の恋愛ドラマ。
男の子から告白されることに憧れる女子高生が、意中の男の子にアピールするという話だ。
「え〜、なんか他に感想ないの?例えば″あのシーン、キュンキュンしたな〜″とか」
「俺、普段から恋愛系観ないし…」
「でも、1回は憧れない?彼女とクリスマスデートとか?」
「前はしたけど、俺に彼女は無理だし諦めたよ」
「そう?〇〇が彼氏だったらいいな、って思う子たくさんいると思うけどな〜」
彼は何故か、すごく自己肯定感が低い。
まあ、アイドル並みに顔がいいとか、モデル並みにスタイルがいいわけではない。
でも、女の子みんながそんなスパダリを求めているんじゃない。
一緒にいて落ち着く、とか、趣味を共有できて楽しい、とか、そんなのでいいんだ。
私だって、彼といると落ち着くし、あわよくば付き合いたい。
「そんな訳ないって」
「そうかな〜?私は〇〇の雰囲気好きだけどな」
「そっ…」
私からの″好き″というセリフに、彼は素っ気ない返事を返す。
本当に興味がないのか、照れ隠しなのか。
真意は分からないけど、ちょっとショックだった。
「でも私は憧れるな〜、男の子から告白されるの」
「そうか?」
「〇〇こそ憧れないの?デートの終わりに告白して、″こちらこそよろしくお願いします″って言われるの」
「…告白できるならすぐしてるっつーの」
「え?」
「いや、早く告白すればいいのに、ってイライラしながら観てた」
「え〜、そのもどかしいのが醍醐味じゃん!分かってないな〜、乙女心を」
「あーあー、私がわるうござんした」
彼は拗ねて私を置いて先を歩く。
あーあ、やっちゃった…。
私はただ、君から告白されたいだけなのに。
その日のお昼、いつものように彼の席に近づいて
「ねー、お昼一緒に食べよ?」
「俺に断る権利があった日ありましたか?」
「ん〜、ない!」
「清々しいな、ほら、食べるぞ」
嫌そうな顔をしながらも、なんだかんだ毎日一緒に食べてくれるんだよね。
彼はさりげなく、ランチマットを私の食べる所まで広げてくれる。
ずるいよね、そういうとこ。
「うわぁ、〇〇の卵焼き美味しそ〜」
「いつも見てるだろ」
「今日のはいつも以上に美味しく見えるの!」
「…食べるか?」
「え、いいの!?」
「白々しいな…狙ってたくせに」
彼は私の分かりきったセリフにも反応してくれる。
だから、やりやすいんだ。
「あ〜」
「あ…あ〜ん…」
「ん〜、おいひい〜!」
「何回やっても慣れん…//」
「んふ、顔真っ赤じゃん」
「誰のせいだと…!」
「いたいいたい!」
彼は私の頭をぐりぐりしてくる。
力加減がバグってて、すごく痛い…。
「もう…痛いよ…!これは誰か頭ナデナデしてくれないと治らないな〜」
「はぁ?しないからな、絶対」
「あ〜あ、このままだとかわいい女の子の頭にたんこぶできちゃうな〜!」
私はわざと周りに聞こえるように大きな声で独り言を呟く。
「元はと言えば咲月が…」
「〇〇、ナデナデしてやれよ」
「はあ?お前関係ねぇだろ」
「咲月ちゃん待ってんぞ?なぁ?」
「…仕方ねえな」
彼は優しく私の頭を撫でてくれる。
照れてるのか、顔を逸らして、私とは全く目を合わせてくれない。
でも、うっすら見える真っ赤な横顔が、すごくかわいい。
「はい、これで満足か?」
「うんっ、痛み治った!」
「ほんとかよ…」
彼が撫でてくれた温かさを噛みしめながら、幸せを感じる。
だけど、刻一刻とタイムリミットは迫ってくる。
クリスマスこそ、絶対に彼と過ごすんだ。
恋人として。
その一週間後、あのドラマは待望の告白シーンが放映された。
ネットではそのシーンがキュンキュンすると熱狂の嵐だった。
当然私もその嵐の一人。
彼もこのシーンを観ているはず。
ちょっとは意識してくれるよね?
「○○おはよ~」
「っ…おはよ」
「ねえねえ、昨日ちゃんとドラマ観たよね?」
「…いや、忙しくて観てない」
「え、昨日がクライマックスなのに!」
「しゃーないだろ、課題やってたんだから」
「今日、課題なくない?」
「…も、もういいだろ、早くいくぞ」
彼はまたちょっと怒った様子で私の先を行く。
今日の彼はどこか様子がおかしい。
はあ、せっかく髪型をドラマの主人公に寄せてみたのに…。
「ちょっと、置いてかないでよ~」
「やめてくれ…近づかないでくれ…」
「え…?」
「その…咲月が…」
「私、何かしちゃった?ごめん…」
「ち、違うんだ…これは俺の責任で…」
彼が何を伝えたいのかが分からない。
でも、彼はどこか苦し気で、その原因は私にあって。
その事実に、私まで苦しくなってくる。
「○○、大丈夫…?」
私は心配になり、彼の手を優しく握る。
だけどその瞬間、私の視界は彼でいっぱいになった。
「○○…?」
「咲月…好きだ」
思いを寄せる彼に強引に手を取られ、壁に押さえつけられる。
一瞬の出来事に混乱する頭の中で伝えられる「好き」
これが、昨日テレビに張り付いて観ていたあのシーンであることを理解するのに時間はかからなかった。
「え、好き…って」
「何かわかんないけど…苦しいんだ。咲月が好きでたまらないんだ」
「何それ…うれしい。私も、好きだよ」
「咲月、俺と付き合ってくれ」
「…はい、もちろん」
彼の真っ直ぐな目を捉えて伝える「好き」の気持ち。
「好き」を伝えるって、こんなにすっきりするんだね。
なんか、男の子に告白されることに拘ってた自分がバカみたい。
…なんて、主人公のセリフにあやかってみたりして。
「あ…雪だ」
「珍しいな、この町で雪なんて」
風に揺られて振り落ちる雪を二人で眺める。
その中の一粒が、彼の鼻に乗っかる。
「あ、ちょっと動かないで」
「え、あ、うん」
「…よし、撮れた」
「え、何撮ったの?」
「ん~、ひみつ!」
「はあ?絶対変なの撮ったろ!見せろよ」
「やだね~」
雪の降る通学路、両想いの二人。
その一コマはまるでドラマの最終回のように。
ドラマのスピンオフは、私と彼だけの秘密です。