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『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』を観て、プロレス技が一番星のように輝いて見えた
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦』を鑑賞してまいりました。
噂にたがわぬ面白さで「映画を見たなあ!」という満足感と、新宿の大きなスクリーンで「これぞ香港映画!」という作品を観るという映画の原体験的なサムシングに満たされました。
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各キャラクターがとても分かりやすくスクリーンに映えていて、映画の中でとてもいい形で「分かりやすさ」が機能していて、それを機能させるための壮絶なアクションや美術の説得力などがすごかった。そうした凄みがキャラ立ちを何倍にも引き立ててくる。
「分かりやすさ」に傾倒していくならば、映画を読解していく妙の欠損や説明的な台詞を配置してしまいがちですが、本作はそうしたことをギリギリのバランスで保ち、面白さを保証していく方面に走っていくので、とにかく圧倒されてすげえなあとなります。九龍城に関しての説明をテロップ処理と映像でスパっと済ませてしまうプロローグも潔さを感じる演出になっていて面白い。
気功でカラダが硬くなるという設定(ほぼシステマ)などはリアリティラインを崩して、ギャグ的に見えてしまったり、あまりに漫画表現すぎる感じになってしまうところを抜群の説得力と面白さでその世界観に引き込ませてしまう。「そんなわけあるかい!」と突っ込ませないくらいの没入感が圧倒的であります。「そんなわけあるかい!」を前提にしてきた香港映画はそれを上回る熱量で覆い被さってくる感じが18番でもあり、本作でもそれが炸裂しています。
「ヒャッハー!」と叫ぶ敵も思わず駄作となる要因になりがちなキャラ設定なのに、本作はそれが完全にハマっていて、かつ「ヒャッハー!」キャラを弱い設定にせず、強い設定にしていることが絶妙にミソだなと感じました。
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さらに若いキャストも非常に艶があり、魅力的ながら、それに負けじといやそれ以上の艶を見せるレジェンド俳優たちが非常にいいアクと旨味を出していて、最高です。サモハンがちゃんと怖くて、ちゃんと強い。
世代間闘争的な見立ても出来る中、やたらと吐血するレジェンドの人たちなど、分かりやすく死期が迫っている感じの表現も安っぽく見えずに、キマっているショットと九龍城の美術に没入していける画の高級感がたまらない。
そんな中、抜群のアクションシーンが繰り広げられる中盤のシーンで、プロレス技が瞬間的に繰り出されるシーンに心躍りました。
カンフーなどを織り交ぜた闘いの中に、突如繰り出されたバックドロップはインパクト絶大で、繰り出されるタイミングも「地面に叩きつける」というダメージ的な観点においても有効打に感じられます。どうしてここでバックドロップが繰り出さられるのか、アクションの中にバックドロップを採用したのかは分かりませんが、プロレス者としては一気に引き込まれました。
異種格闘技戦でバックドロップが繰り出された時、受け身をしっかりととったことがない格闘家がバックドロップを食らって壮絶なダメージを受けているとき、我々プロレスファンはこれでもかと興奮しました。プロレスの優位性とはすなわち投げ技であり、受け身を体得していない者と体得している者でのダメージの違いであります。受け身を体得していないものにバックドロップを放てば大ダメージを与えるということを沢山の異種格闘技戦で観てきたために、それが映画内で突如繰り出されて興奮してしまいました。
バックドロップ映画といえば、突如謎の乱闘が繰り広げられる『ゼイリブ』も有名ですが、あちらはカットをいくつか割っていたのに対して本作はワンカットでヘソで投げるバックドロップを放っておりました。
打撃によるアクションが際立つ中で、「投・極・打」をしっかりと抑えにいっているバランス感覚に惚れ惚れしてしまいます。
その後も「死んでも離さないスリーパーホールド」が繰り出されたりと、どこまで意識しているかしていないかは分からないにしてもプロレス技が映画をさらに際立てさせておりました。
どの観点で見ても面白いことが保証されている映画に、プロレス技がアクセントになっていることが嬉しく感じられたのです。
また映画内で投げ技という軌道がどういう運動体になっているのかもすごく分かりました。これだけのアクションが際立つ作品でもしっかりと有効ですし、ましてや九龍城で繰り広げられているだけあってダメージもなお一層でしょう。
これだけ語りがいのある映画なのに、思わずそこを軸にあれこれと楽しんでしまったけど、120分を熱量で突っ走るエネルギーと、時にレジェンドたちのかっこよさと若者たちの世代間の対比が継承劇としても面白く、世代間の闘いに興奮してきたプロレス者としてもまた楽しめたのでした。
理髪店というモチーフも渋くてカッコイイ。変わりゆく香港の中で、この映画を残す意思と決意を感じられながら、エンターテインメントとはこうあるべしという満足度を得られるので、最高でございます。この作品に映画代2000円は安いくらいに思えました。
兎にも角にもナイスバックドロップでした。
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