『バッドボーイズ RIDE OR DIE』闘魂ビンタを用法・用量を守って正しく使用した紛うことなき愛すべきバカ映画
夏休み向けの大作が映画館で待機している中、夏休みにやっていそうな『バッドボーイズ』最新作が夏休みに先駆けて上映されていたので、観に行った。
ウィル・スミス本人にステディカムを持たせる斬新な撮影方法がSNSでも流れていたが、気になる点はそれくらいで、「たまには何も考えなくてもいい映画が見てえ」くらいの気分で観に行ったのだが、期待はいい意味で裏切られた。
この映画、超超すげえ!!!面白え!
以下、ネタバレありです。
マイアミのビーチで堂々と歩く水着のお姉さんたちによるゴージャスなショットの数々から始まる冒頭からギアが上がりっぱなしだ。入り口から「まあ肩の力を抜いて鑑賞してくれ」と言わんばかりの掴み。掴みがオーケーなのはもちろんだが、やたらと動いて回転しっぱなしのバッドボーイズイズム全開のカメラワークが本作でも顕在。もうフィックスの画はほとんどないんじゃないかなと思えるくらいに、カメラは謎に縦横無尽に動いている。この動きがとりあえずのスケール感を担保しているのは間違いなく、もはやネタでやっているのかな?と思えるくらいにカメラは動きまくっている。ここで観る側は初っ端からバカ負けをさせられる。このカメラワーク、UWFの回転体から拝借して回転体という名称でいいのではないだろうか?
とにかくカメラワークが凄い。何気なく映画史という大きな枠組みで見てもかなりエポックメイキングなカメラワークをしているのではないだろうか。POV的な視点から、そうでない視点のカメラワークになるのがシームレスに続いていく。一体どうやって撮っているんだろうかというカメラワークそのものがジェットコースターの軌道を描いているようだ。通例ならばこうしたPOVの画面というのは「カメラを持っている人がいる」という体裁のカメラワークで動いていったり、ワンカットの映画としてその緊張感を持続させるために用いられることがほとんどだと思うのだが、この映画に関してはなんとなくカッコイイ感じという理由な感じというか、実に軽妙な感じでサラりと高度なカメラワークを取り込んでいっている。この軽さが抜群にいい。どの見せ場もテンションが高く、どの見せ場もちゃんとキマっている。ギアが落ちる箇所がほとんどないのだ。いやー動くカメラってすごいんだな。役者のテンションも映画のテンションも上がりっぱなしだけど、それを持続させるカメラの動きっぷりに感動である。
そして熱血的な展開とギャグの応酬があまりに見事だと感じる。どんな展開もシリアスに行ききらない。熱くいったところをギャグでしっかりと被していく。この映画は笑って楽しんでいいんだ。そう思わせてくれるギャグと熱量の塩梅が最高だ。要所要所で挟まれる人種の部分に関しても軽やかに扱っている。重くなりすぎない、だけど決して軽すぎるわけでもない。ハッとなる形で挟まれていく。そんなギャグと熱血のアンサブルは終盤、ウィル・スミスが過去の回想に入ろうとするシーンでピークを迎える。回想が入り、フラッシュバック、カットバックが挟まれる。限りなくエモーショナルなシーンだ。シンプルな映画的な技法で感情が高まる場面だが、ここをマーティン・ローレンスの闘魂ビンタでウィル・スミスが目を覚まします。この映画にそんなエモい要素は必要ねえだろ!俺たちはバッドボーイズだろ!との宣言のように、いくつかのメッセージが重層的に内包されたビンタです。かつ、ビンタとウィル・スミスと言えばオスカー授賞式によるクリス・ロックへのビンタ事件が記憶に新しいところですが、今作ではそのリターンとしてなのか、一体どこまで意識しているのか判然がつかない形でウィル・スミスが何発もビンタを喰らうというビンタ映画になっております。しかしながら、ビンタで覚醒するというのはもう本当にこれ以上ない説得力だというのがこの映画の手法で分かるのです。ビンタで回想を止める、力技で映画のトーンを変えるという摩訶不思議な力を持っているシーンになっていました。詰まるところ闘魂ビンタの正しい使用法に他なりません。もうこのビンタのシーケンスは神がかっていて、ビンタとは何か?ということを僅か1分で物語る見事なシーンだったと思います。ビンタは力学的に誰もが一度は食らったことがあり、世界共通で「目を覚ませ」「気合いだ」という文脈を伝えるサムシングのある殴打だとわかります。時にビンタは嗜虐的なスラッピングとして、実に苦しい行為に反転することもありますが、本作は愛しかない、正しい闘魂ビンタでございました。
その他にも、急に巨大ワニが出てきて瞬間的にテイストがB級映画になったり、映画のジャンルや見方を瞬間的に変えてしまう大胆かつ軽妙な場面転換の方法論に驚かされます。
「ああああ!楽しかった。」
大満足で映画を出ましたし、バカ映画を見たのに、なんだかんだで家族愛を軽妙に描いていたり、人生に大切なものを垣間見たような気もしてしまってただのバカ映画を見た気にならない謎の満足度があります。カメラワークが凄すぎて、映画館で観てよかった!という気持ちにもなったからかもしれません。
あと、『ベター・コール・ソウル』のキム役ことレア・シーホーンが全体のコミカルな温度をグッと締める迫真の芝居と存在感でもう最高だった。
あああ!キムだ!やった!キムがいる!と心の中でガッツポーズ。
配役がたまりませんでした。
個人的に本作の編集やテンポ、トーンの軽妙さはマジで見習いたい。プロレスや映像制作に活かしたいことだらけでソフトが出たら買ってメイキングからしっかりあれこれ見て学んでみたいと思いました。
こういう映画を見れるって幸せですね。
是非、映画館で見て欲しい一本です。